第二話 天使の来訪

「すみません、あの、約束通りお茶を頂きに来たんですが......」


 ドアを開けると、目の前には学ランを着た可愛らしい男の子が立っていた。


「ええっと、あ、そうね、ちょ、ちょっと待ってね」


 年下相手に、信じられないくらいキョドって頭を引っ込める。


「あ、あの!顔赤いですけど大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫、大丈夫!ちょっと準備してくるね」


 ヤバい、思い出せない何かってこれだったのか。

 そういえば、明後日もどうせ仕事だから生活リズム崩す訳にはいかないし、なんて日曜日も早起きして、つまらない朝を迎えて、やることもなかったから散歩して、そんなこんなで部活に行く途中の幸太君に出会って......。


「へえ、日曜の朝から大変だね、学生さんは」

「そんな、京子さんに比べたら全然ですよ。いつも夜遅くまでご苦労様です」

「若者がそんな謙遜しないの。あ、そうだ部活終わったあと暇?」

「ええっと、暇、ですけど......?」

「良かったらさ、お茶しない?例の如く母のお土産が家にいっぱい溜まっててさ」


 母の趣味は旅行だった。そして全国津々浦々のお菓子やら特産品やらを娘に送りつけるまでがセットだった。

 話好きな母はよく私の家に訪れて、居間に溜まったお土産を話の魚にお茶をする。(私は基本的に酒、あまり悪酔いはしないので聞き役くらいは勤まる)

 そこまでが母の趣味だった。それは嬉しくもあるのだが、仕事に疲れて帰ってくることが多い私としては、辟易へきえきとさせられることも多かった。何より、唐突に孫が欲しいとか言い出すので気が気じゃない。

 そして昨日、金曜の夜、仕事で疲れ果てた私を母が饅頭片手に訪ねてきたのだった。どこの土産って言ってたかな、思い出せない。孫がどうとか言ってたような......これは関係なさそうだ。


「え、いいんですか?」

「いいよ、いいよ。部活頑張ってる幸太君に、お姉さんとおばさんからプレゼント」


 おばさんとおばあさんと言うべきかと迷ったが、そこまで自分たちを卑下することもないだろう。それに逆の立場で考えると、この子が八年後におじさんになるのかというと、やはりまだ早い気がする。ただ、その頃には私はまごうことなきおばさんになっているに違いなかった。

 はあ。


「じゃあ、是非。おばさんのお土産どれも美味しいから楽しみです」

「うんうん、じゃあ部活が終わったら家に寄ってね。なんか饅頭とか持ってきてくれてさ、一緒にたべよ」

「はい」

「あ、一応何時ぐらいにこれそう?」

「ええっと、多分6時過ぎぐらいには」

「わかった、じゃあ部活頑張ってね。お姉さんいつまでも待ってるから」

「はい!」


 以上が朝のくだり。せっかくの休日に楽しい予定がなにもないのもシャクだったので、可愛い男子高校生を自宅で愛でようと思って声をかけたんだった。母のお土産はこれの口実にたまに使うのだ。我ながら気持ち悪いことこのうえないが、唯一の癒しだから許して欲しい。......やっぱ犯罪かな。


 そんなことより今は、お茶の準備をしなければ!

 火照る身体を引きひきずってとりあえずソファへ急ぐ。


「はあ、はあ」


 息があがる、さっきまで逝く寸前だったのだ。もう少しで、逝けたのに、くそ。なにもかも母が悪い、私の密かな楽しみを滅茶苦茶にしやがって......許すまじクソババア。今度会ったら問い詰めてやる。でもって饅頭食べさせてやる。

 ......後者は娘としては、どう転んでもダメージしかなさそうなので勘弁してやることにする。


 アダルトグッズやおかずの数々を乱雑にもとあった場所に戻す。幸い掃除はこれに備えて朝、昼寝をする前にしていたのでそれなりに綺麗だ。服も散歩の時から変わってない見せられるレベルだ。


「はあ、はあ」

 

 冷蔵庫から麦茶を、棚からコップと適当なお土産のお菓子をテーブルに並べる。

 そういえば、饅頭の話しちゃったんだっけ。参ったな、なかったことにしないと。

 いや、むしろ饅頭を食べさせて幸太君を食べてしまうのもありか?


 悪魔の策が頭を駆ける。

 いや、ダメだ。それだけはダメだ。

 幸太君はこのアパートの近くの一軒家に住む微妙なご近所さんだ。そんな微妙な距離感でなぜ親交があるのか、話せば短いのだが、幸太君の姉、美咲とは高校時代友人の関係にあったのだ。

 お父さんの頑張りで、美咲の家は広くて結構良い所だったので、溜り場として便利だった。

 美咲とは私にしては交遊が長く続いている方で、今でもたまにお茶したり、飲みに行ったりする仲だ。

 高校時代の名残なごりで、美咲を交えたり交えなかったりしながら幸太君ともたまにお茶していたのだ。役得。

 当時から真面目だった私は、姉弟きょうだいのご両親からもそれなりに信頼を得ており、むしろ二人を任されていたりする。ホント役得。


 でも、だからこそ美咲とご両親を裏切る訳にはいかなかった。

 それを抜きにしても、社会の一員として、大人として、人としてそれだけはやっちゃダメだ。それをやってしまうと、本当に犯罪だ。媚薬を盛って逆レイプなんて、援交オジサンよりもたちが悪い。

 人生終わりだ。


 しかし、理性とは裏腹に子宮は熱を帯びて、身体は熱くなるばかりだ。


 マズイ、一回オナるか?悪魔的な誘惑を大人のプライドでねつける。

 今クチュれば相手役は恐らく幸太君になるはずだ。それもダメだ。そんなことして、明日からどの面下げて二人に会えば良いのか、友人を、良きお姉さんキャラを、続ける自信はない。交遊関係の狭い私としては、二人に会えない明日なんて暗すぎる。


 歯を食いしばって欲情を押さえ込む。よし、大丈夫だ、準備は整った。喜助、弥太郎、私がもし無事に帰ってこられたら、いっぱい癒してね。(お気に入りのエロ小説の二枚看板、滅茶苦茶イケメン)


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