媚薬とOLと高校生
桜冬子
第一話 ハッピーサタデー
身体が......熱い。
火照る身体に安眠は邪魔されて、目が覚めてしまう。
変な気分だ、動悸が収まらない。血が意味もなく
違うような気がする。
服は汗ばんでいるし身体は熱いが、喉は痛くないし気が滅入ってしまうようなダルさもない。
何より、この熱さは抗菌作用のそれというよりは、動物の本能としての
母が置いていった饅頭、あれを食べてから眠たくなって、気がついたらソファの上で発情していた。母を疑いたくはないが、状況から鑑みるにそういうことなのだろうか。
しかし、今日はたしか俗に言う危険日だったはずだ。もしかするとそれが原因なのかもしれない。
いや、なんとなくだが母のことだ、独身OL彼氏なし25歳、生き遅れはじめている私にチャンスを与えるため、なにか無茶をやらかしたのだろう。
人間に発情期がある、という無茶な説よりはそっちの方が自然な気がした。
しかし、そうだったとしてどうしたものか。
今からオナニーでもすればこの疼きは治まるのだろうか。
帰ってきては適当に家事を済まして寝る毎日を送る健全なOLにとって、それは久し振りのことだった。
そういえば何時なんだろう。窓からは夕焼けが射し込んでいる。原因は一応不明だが、貴重な土曜日を無駄にしてしまったのは事実らしかった。
居間に時計はない、仕方がないので隣で息を潜めるスマートフォンの起動を待つことにする。
はあはあ、ヤバい。本格的に衝動を抑えられなくなってきた。今なら本当に宅配のお兄さんに股を開いてしまいそうだ。
むしろそのシチュエーションは悪くないかもしれない。若いお兄さんに玄関先で強引に迫られて......うん、悪くない。
待っている間、暇だし即行でやってしまうか。なんて、寝ぼけと興奮とで回らない頭で画策していると、起動完了を伝えるスマートフォンの振動が私の思考に割ってはいった。
ソファに寝転がったままスマホを手に取ると、時刻は午後6時を指していた。
意外なことに、時間を無駄にした空しさよりも何かを忘れているような焦燥感が胸をついた。
何か、軽い、でもとても大切な約束をしていたような気がする。何だったか、今思いださないと人生が終わってしまうレベルの何か。
ダメだ、頭が回らない。そんなことよりインターネットでエロサイトを漁ってさっさと満足したいという欲求が勝る。一度や二度では治まりそうにない。何せ久し振りなのだ、仕事仕事で見ないふりしてきた欲求がさぞ溜まっていることだろう。
なんだか楽しくなってきた。
なんて検索すれば良いかな、久し振りでそんなことさえ勝手がわからない。女性向け エロ動画 とか打ってみる。ああ、検索履歴が......まあいい、誰に見せるでもないのだ、気にすることはない。
画面にたくさんの怪しげなサイトが出てきて、戸惑ってしまう。どれがいいんだろう。ウイルスとか料金とか大丈夫なのかな。普通ならば未知の恐怖に萎えてしまいそうなものだが、饅頭の謎の成分がそれを許さない。
そうだ、最初は指でもいいとしてバイブとかローターとか、たしか洗面台の上にしまってたはず。どうせなら存分に楽しみたい。重い腰を上げてソファから立ち上がる。
「はあ、はあ」
少し動くだけで息があがる。どうしたものか、取り敢えず目的地へ急ぐ。
ああ、あったあった。洗面台の上の収納から卑猥なグッズが詰まった段ボールを面倒なので箱ごと取り出す。独り暮らしの女というのは、こういったグッズの隠し場所も粗末なもので、簡単に取り出せる。今だけはズボラな自分に感謝したい、そろそろ我慢の限界なのだ。
一回昇天してから動いた方が良かったかな。
まあいい、どこでするかだけど......ソファで良いか。
もと来た道を辿る途中、本棚が目に入る。もののついでだ、奥からお気に入りのTL小説、イケメン俳優のセクシーな写真集、エロ漫画等々を取り出す。最近ご無沙汰な割には、おかずは充実していた。なんだか改めて、家に人は呼べないな。
ソファに諸々のグッズを並べる、なかなか壮観な光景だ。
取り敢えず一番上のサイトに侵入してみる。なんだかよく分からない。普段の私ならあり得ないことだが、ウィルスに感染しました、みたいな警告を無視してカチャカチャやること数分、なんとか動画の再生に成功する。あまり好みのシチュエーションではないが、苦労して再生した動画だ、これで我慢することにする。何せこいつのせいでスマホがお釈迦になったかもしれないのだ、贅沢は言ってられない。何よりもう我慢できそうにない。大して好みでもない男優をおかずに、優しく愛撫を受ける彼女さんの気持ちになって手を動かす。ああ、気持ち良い。久し振りなのもあってなかなか良い。
母の贈り物をきっかけに自慰に
だいたい、独り身の娘に媚薬を盛るような文字通りの毒親を気にする必要はないだろう。
こんな週末もたまに悪くないものだ、素晴らしい休日をありがとう、お母さん。
原因不明の興奮が最高にまで達している私は、愛撫のシーンをすっ飛ばして本番まで動画を進めていた。
気持ち良さそうに喘ぐ彼女に合わせて、指の動きを気持ち強める。勿論私が気持ちいい範囲で。
もうすぐ落ちる。今日は逝き狂うのだ、これは始まりにすぎない。
そう、昇天しかけたとき、ピンポーン、とインターホンが元気良くなった。
最高クラスの発情に加えて、今まさに逝く寸前だった私だが、流石にこれには驚いて手が止まってしまう。
本当に宅配が?妄想は妄想だから良いのだ、現実となると恐怖しかない。大体、おっさんだったらどうする。落ち着け、宅配はデリヘルじゃない、業者さんに失礼だ。
というより......男なら誰でも食べてしまいそうな、今の自分が何より怖い。混乱する私を尻目に、再度嫌に高い警告音が居間に響く。
いっそ居留守を使おうかとも思ったが、しつこい訪問者に考えを改める。それは社会人としてないよな、大切なことかもしれないし。
再び重い腰を上げて玄関へと向かう。
興奮状態で人に会うのは忍びないので、さっさとオナってから行こう、なんて妙案もあったのだが、5秒程の逡巡の後棄却された。それこそ大人としてない。私の理性は優秀だった。
「はい、氷室ですが」
テンパっていた私は訪問者を確認することなく扉を開ける。その結果、腰を抜かしそうになるのだが、これは確認していようとどうしようもないことだった。ただ、バカ面は見られずにすんだかもしれないので、やはり失敗だった。
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