第90話 打ち解けて行くライト

        打ち解けて行くライト



 ん? 俺達は一斉に立ち上がるが、ライトは座ったままだ。

 あ~、そういう事か。俺達の許可待ちと。


「ライト、ほら行くぞ。元々ライトの出した案だぞ? 一緒に行かなきゃ始まらないだろ?」

「え、僕もいいの? じゃ、じゃあ。あ! 後、『因幡の白兎』だったら、コンプの仕方、知っているけど?」


 ぶはっ!


「「「「「それを先に言え!」」」」」」


 全員が見事にはもった!

 流石は、元情報ギルドに居ただけはあるという事か?


 俺達は座り直して、ライトの話を聞く。


 どうやら、鮫の上を渡っている時に出現する魔物を倒すのは一緒で、渡り終わる直前で、鮫に騙した事を素直に伝えて正解のようだ。

 そして、ばらすとすぐに、鮫に寄って集って凹られる、強制イベントになるそうだ。

 ちなみに、ダメージは受けないが、その時に装備していたもの、全て剥ぎ取られるらしい。


 ふむ、どうやら、鮫の上を歩いている間だけが、このクエストの戦闘部分と見ていいようだ。


 その後はイベントオンリーで、昔話を知っている人なら、普通に進めていけば問題ないとのことだ。

 そして、最後に大国主命に、真水で身体を洗えと言われて、側の小川に入ると、装備が復活すると。


「なんや、簡単やんか。わいらも下手に隠そうとせえへんかったら、コンプできとったな~。」

「でも、一旦装備を失うのは怖いわね。イベントで失敗すると、戻らないかもしれないわ。」

「そうっすね。そこはどうなるんすか?」

「え、あ、そ、それは大丈夫みたいです。き、聞いた話だけなんで、保証はできないですけど。ぼ、僕はまだやっていないので。アイテムも大したのは入らないと聞いていましたから。」


 ふむ、なら大丈夫みたいだ。

 しかし、ライトの喋り方は気になるな。

 俺に対しては普通の喋り方だが、他の仲間には全て敬語だ。

 また、その俺に対しての喋り方も、以前の丁寧な感じではなく、かなり砕けた、対等の感じだ。


 俺にだけは気を許している、と取ればいいのだろうか? 

 それとも、これも不完全な意識転移の結果、と考えるべきなのか?

 悪い気はしないのだが、何かこの先が思いやられる気がする。


 さて、打ち合わせも済んだし、さあ行こうかというところで、ライトがじっと俺を見つめる。

 う! 俺にその趣味は無いのだが。これはやはり懐かれたのか?


「え~っと、シンさん、これで僕はVRファントムのメンバーという事でいいのかな?」


 ぶはっ!

 そういや忘れていた。うちはもう入会を打ち切っているので、オーナーの俺が入れてやらないと、入会申請そのものが出来ない。ブルの時は松井が強制的に入会させていたが、ライトは違うようだ。まあ、松井達も、今はそれどころじゃないだろうし。

 俺が急いでライトのIDを指定すると、マッハで承認された。


「わ、悪い。気付かなかった。ところでライトの状態はどうなっている? 俺の場合は、HPがレッドゾーン以下には減らない設定だ。なので、イカサマ扱いされない為にも、ファントムカースを常時装備しているんだけど。」

「あ~、それは僕も一緒だよ。うん、僕も装備するよ。」

「よし、これでライトは正式にうちのメンバーだな。じゃあ、行こうか!」



 俺達は早速出雲に飛び、街を出て、クエストのある海岸を目指す。

 途中、ライトのスキルやステータスを聞き、俺達の状態も彼に伝える。


 思った通り、ライトのステータスは、俺よりもHPとMPが5000程高いだけで、後はほぼ一緒。レベルもほぼ一緒で80。

 問題は、俺とライトのスキルが、かなり被っているという事だ。

 違いがあるとすれば、俺はバフ、デバフに特化しているが、ライトはそこまで特化させずに、代りに上級の攻撃魔法をいくつか取得しているくらいだ。

 まあ、俺もスキルポイントはまだかなり余っているので、その気になれば、ライトの取った上級魔法のスキルを、全て覚える事が出来るのだが、それこそ無意味だろう。


「しかし、これは悩むな。サモンさん、こういう場合の役割分担はどうするのがいいかな?」

「せやな~、今回に限って言えば、二人共アーチャーでええやろ。敵のレベルも低いし、力押しで充分や。せやけど、これから先の事を考えるとどうやろな~。まあ、そん時考えればええんとちゃうか? 今日はタカピさんおらへんし、ケーズバイケースやろ。パーティーを二つに分けるのありやけどな。」


 ふむ、サモンの言う通り、今日はこれでいいだろう。

 しかし、パーティーを分割するのはいい案かもしれない。何故なら、うちにはもう一人、ブルが居る。もっとも、彼女はもうメイガスではない。NGMLから、彼女専用のBAを支給されている。あれ以来会っていないが、きっとプラウで普通に遊んでいるだろう。でも陽気な彼女の事だ。そのうちひょっこり遊びに来そうな気がする。その時は2パーティー組めばいいだろう。



 そうは言っても、海岸に出るまでは、ほぼライトのみで敵を倒す。

 皆がライトの技量を見たかったからだ。勿論、ここいらの敵が弱すぎて、ライト一人で充分だったというのもある。


「ライト坊は流石やな~。ブルちゃんとシンさんよりは遅いけど、それでもわいらじゃ真似できへん連射速度や。ほなシンさん、合わせてみるか?」

「そうだな。理論上、メイガスに合わせるのは不可能に近いと思うけど、弓なら可能だろう。ローズ、どうだ?」

「はいっす! 次、そこの木陰から団体が出て来るっす! 5匹っすね。」

「よし、ライト、準備してくれ。」

「うん、分かったよ。でも、自分の攻撃に『ダブルアタック』をかけて貰うのは初めてなんで、少し緊張するな。」


 ふむ、そういや俺も合わせて貰った経験は無いな。今度ライトにやってもらうか。


 程無く、ローズの言った通り前方の木陰から、大木槌を構えたピンク色の巨大兎が5羽出て来た! 

 大きさは人間くらいか?


 そこへカオリンが茶々を入れる。


「ライトさん、今ならサモンを攻撃しても、見分けがつかなかったで許されるわよ~。」

「せやな~。わいもカオリンちゃんの側には寄らんとこ。素で間違われそうやし。」


 ぶはっ!

 ふむ、言われてみれば確かに似ている。

 なので、混戦になったら、戦闘となると熱くなってしまうカオリンなら、本当に間違うかもしれんな。

 もっとも、同一パーティー内の同士討ちは無効だから問題はないのだが。


 カオリンは綺麗に一本取られてむっとしているが、俺とローズとクリスさんは、笑いを堪えるのに必死だ。

 しかし、ライトはまだこの意味が分かる訳も無く。真面目に答える。


「そ、そんな事しませんよ! シンさん、行くよ! スコール『ダブルアタック!』アロー!」


 ライトの身体が真っ赤に光る!

 よし! 成功だ!

 文字通りの弓の雨が、巨大兎達に降り注ぐ!

 一瞬で全ての兎が光の輪を残して消えた。


「シンさん、これ快感だよ! うん、合わせて貰ったのは初めてだ!」


 ふむ、ライトのまともな笑顔を見るのは、これが初めてではなかろうか?

 まあ、今まではずっと敵対していたから当然か。


「そうなんだ。じゃあ、次は俺も合わせて貰おうかな。って、扉が見えたか。よし、入ろう!」

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