第91話 因幡の白兎クエスト
因幡の白兎クエスト
扉をくぐると、眼下に海が広がる、ちょっとした崖の上に出た。
下をよく見ると、無数の、体長5mはあろうかという鮫が泳いでいる。
「じゃあ、ここからは打ち合わせ通り、ライト、頼むよ。」
「うん、その為にパーティーリーダーをさせて貰ったんだから、頑張るよ。」
「あ、一匹、海から顔を出したわ! まずはあいつと交渉するのね?」
「せや、最初は騙すとこからや。」
見ると崖の真下に、歯というよりは牙のはみ出た鮫が、水面に上半身を突き出している。
お前は何処の水族館のイルカかよ! と、思わず突っ込みたくなるような姿勢だ。
そこへライトが近寄って行く。
「
ふむ、打ち合わせの時の話だと、どうやらこの鮫の事は、『
なんか、このゲーム、しょうもない細部に結構拘るな。
そしてこれは、その昔話を知っていないと、まず無理だろう。こちらから話しかけないといけないクエスト自体が稀だ。しかし、有名な話らしいので、分からない人はそうそう居ないらしい。
「丁度良かったワニ。僕達も仲間が全部で何匹居るか知りたかったワニ。早速仲間を集めるから、数えて欲しいワニ。」
う~ん、やたら鰐を強調する奴だな~。俺からすれば、鰐の牙をつけた鮫にしか見えないので、どっちでもいいのだが。
すると、海がまっ黒になる程集まって来た!
すかさずライトが指示をする。
「じゃあ、鰐さん達、対岸まで綺麗に並んで下さい。僕達は、背中を歩きながら、数えてあげるから。」
「分かったワニ。全員整列ワニ!」
鮫共は、ライトに言われた通り、対岸まで海が見えなくなるくらい、ぎっしりと横を向いて背中を浮かべる。
ふむ、確かにこれで道は出来たが、ゲームとは言え、これを渡るのは度胸が要りそうだな。船のように揺れなければいいのだが。
「うん、ここまでは全く一緒やな。ほな、渡ろか~。後は打ち合わせ通りでええやろ。」
「はい、次は海から飛び出して来る魔物を、渡りながら狩るらしいです。」
「うん、ライト、ありがとう。じゃあ、右方向は俺、左方向はライトに任せる。サモンさん、ローズ、盾宜しく。カオリンは削り残しを。クリスさんはバフと回復お願いします。」
「分かったわ!」
「了解っす!」
「かしこまりましたわ。」
俺達は2組に分かれて、順番に鮫に乗って行く。5mあるとはいえ、海面に出ているのは、3m×1m程。足場的に、一匹に6人は厳しいからだ。
最初の組は、サモン、カオリン、ライト。
彼らが次の鮫に渡ってから、ローズ、俺、クリスさんも飛び乗る。
「ふむ、思ったよりしっかりしているな。普通の地面みたいだ。」
「そうっすね。でも、魔物が鮫にぶつかると、思いっきり揺れるっす。」
「ですから、近づかれる前に倒してしまうのがベストですわ。」
なるほど、このクエスト、弓との相性がいいようだ。
俺達が全員鮫に乗ると、左右の海面から、2つの背びれが出現した!
「早速出て来おったで~! シンさん、ライト坊、頼むわ。」
「カジキの魔物っすね。あいつらジャンプして突撃してくるっす! 空中でやっつけてしまえば問題ないっす!」
「よし、任せろ!」
「はい!」
俺とライトが返事をすると、すぐに海面が盛り上がり、3m程のカジキがジャンプしてこちらにぶっ飛んでくる!
「パワーブースト! パワーブースト!」
クリスさんが俺とライトにバフを唱えてくれる。
うん、いいタイミングだ!
俺はローズの陰から、カジキ目掛けて矢を射る!
撃つ!
カジキは、空中に光の輪を残して消える!
ふむ、バフ付きなら2発で殺せると。図体の割にはちょろいな。まあ、推奨レベル50ならこんなものだろう。俺達の装備はほぼ完璧だろうし。
「また来るで~。次は大蛸や! 墨を吐かれると厄介や! これも速攻で頼むわ!」
見ると、また左右の海面が盛り上がり、アニメとかで見るような、口が筒になっている真っ赤な奴が顔を現した! こいつも結構でかい。頭の直系だけで2mはあろうか?
「ふむ、的がでかいから楽だな。」
俺が連射すると、今度は3発で死んだ。
お約束の、女性陣が触手に捕まるとかいうのは無しだ。
「おっしゃ、流石ダブルメイガスやな~。瞬殺やん。わいらん時はもっと近づかれてんけどな~。」
「そうっすね。じゃあ、今のうちにどんどん進むっす!」
なるほど。攻撃が止んでいる間に歩を進めると。
まあ、ずっと相手してたら、きりが無さそうだしな。
俺達はジャンプしながら鮫を渡っていく。
「ところで、この鮫、数は数えなくていいのか? 確かにライトの話じゃ、渡り切る直前に騙した事をばらして凹られるから、数えても意味は無いのかもしれないけど。」
俺達は既に10匹目の鮫の背中に居る。
対岸までは、まだ数百メートルはある。
「律儀なシンらしい意見ね。じゃあ、あたしが数えておいてあげるわ。どうせ、さっきから殆どする事ないし。」
ふむ、そう言えばさっきからカオリンは全く何もしていない。
俺とライトで瞬殺させていくので、削り残し担当は明らかに手持無沙汰だ。
まあ、ローズもサモンも盾を構えて居るだけなのだが。
「じゃあ、暇潰しに頼むよ。うん、もしこの鮫達に後で頼むことになった場合、聞かれる可能性もありそうだしな。」
「あ! それは考えていなかったっす! 流石はシンさんっす!」
「確かにそれはあるかも! じゃあ、あたしは数えるのに専念するわね。」
「了解や! もし撃ち洩らしがあっても、この調子やったら、わいとローズちゃんだけで問題ないやろ。」
結果、今までサモンと並んでいたカオリンは、クリスさんと交代して、最後尾についた。
サモンとクリスさんが振り返ってにやつく。
う~ん、意図した訳ではないのだが、不思議とこうなる。
前の鮫には、左から、サモン、ライト、クリスさん。
次の、現在、俺の乗っている鮫には、右からローズ、俺、カオリン。
まあ、今更か。
そんなこんなで、俺達は順調に渡って行く。
途中、ウミヘビとか、馬鹿でかいハリセンボン、変わったところではラッコとかも出て来た。
ウミヘビは噛み付き攻撃。ハリセンボンは、文字通り、棘だらけの身体で体当たりをしようしてくる。もっとも、こいつは矢を当てると、風船のように割れてしまうので、楽勝だったが。また、ラッコは腹の上に山盛りに載せたウニを投げつけてきやがる。流石にこればかりはローズの盾の世話になったが。
「ふ~、で、これが最後の一匹か。じゃあ、ライト、頼むよ。」
「うん。え~っと、鰐さんありがとう。実は、僕達は対岸に渡りたかっただけなんだ。」
う~む、かなり棒読みだが、これでいいようだ。
鮫がすぐに反応した!
「僕達を騙したワニか? 許せないワニ!」
ぶはっ!
鮫は俺達を振り落とす!
そして、海中で何も出来ずに居る所に、四方八方から噛みつかれる!
痛みはないし、息も出来るのだが、振動が凄まじい!
数十秒間、その振動に耐えていると、下から突き上げられ、空中を舞う!
「今日はこれくらいで勘弁してやるワニ! 次はしっかり数えるワニ!」
そして地面に叩きつけられる!
ふむ、ちゃんと海からは出してくれると。確かに、あのまま溺れでもしたら洒落にならんか。
ステータスを確認すると、ライトの言っていた通り、ダメージは無かったが、装備が全て消えていた。
周りを見ると、全員初期装備のジャージアバになっている。
「へ~、良く出来ているわね。それで、次は
「はい、あれじゃないでしょうか?」
ライトが指さす先には、数十人くらいの、耳の横で髪の毛を束ねた、白装束の一団がこっちに向かって歩いて来る。
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