第85話 ライトの現状
ライトの現状
戦利品?の確認も終わって、さてこれからどうしようかと考えていると、インターホンが鳴る。時間を見るとまだ3時過ぎ。誰だろうと考える前に答えが出た。
「ローズちゃん! 出ちゃダメよ!」
ローズが立ち上げって出ようとしたところを、カオリンが制したのだ。
ふむ、納得だ。最近、インターホンを使って来る奴は一人しか居ない。
俺の場合、この身体のせいで交流関係はかなり限定しているからだ。
それでも可能性がある人と言えば、前の仲間か、ドウプスターのバットマンさんくらいだろう。
しかし、その人達ならば、こんな時間には来ないはずだ。来るなら9時とかログイン率の高い時間に来るだろう。
「そうだな。ローズも会いたくないだろう。かと言って、ここから出ると、ギルドホールで確実に鉢合わせする。どうしよう?」
そう、ライトならば、裸を見たローズに対して、何を言うか分かったものじゃない。
改めて俺の怒りも蘇る。
「そうっすね。あたいもちょっと疲れたっす。一旦落ちるっす。」
ローズは明らかな嫌悪感を振りまいて、虚空に手を伸ばす。
ログアウトしようとしているのだろう。
しかし、カオリンが再び制する!
「何でローズちゃんが落ちなきゃならないのよ! シン! 無視よ!」
ふむ、確かに考えてみればそうだ。
だが、もしライトじゃなければ、相手に失礼だろう。
しかし、ライトであったとしても、幽霊同志、何か有意義な情報交換ができるかもしれない。
俺は怒ってはいるが、同時に同情もしている。
それは自分でも変な心境だとは理解している。
『ピンポーン! ピポ、ピポ、ピンポーン!』
うん、こんな事をするのはライトだけだな。
大方、俺が現在ここに居る事も、NGMLの誰かに聞いて知っているのだろう。
「う~ん、しつこいな。俺が直接ギルドホールに行くよ。話があるなら聞くだけでも聞いてみたい。」
「それならやっぱりあたいが落ちるっす。特別な話になる可能性が高いっすから。」
「いや…」
俺が制し終わる前にローズは消えてしまった。
あれくらい平気だとか気丈な事を言ってはいたが、会いたく無いのは確かだろう。
「う~ん、悪い事したな。それでカオリン、出ていいか?」
「確かに情報交換とかもあるでしょうから、シンがいいなら止めないわ。その代わり、あたしにも聞かせてよね!」
カオリンは目つきを鋭くする。初めてサモンと交渉した時の目だ。
「分かった。でも、あんまりお勧めはしないが。」
俺は立ちあがって、インターホンに出る。
「どちら様ですか?」
「ラ、ライトニングサークルです。そ、その、話があります!」
ん? このおどおどした喋り方は、初めて会った時と一緒だ。
「分かった。居心地は保証しないが入ってくれ。」
そう、ここには敵対心丸出しのカオリンが居る。
ライトは相変わらず隠密玉を使用していた。
しかし、アバターは最初に会った時の金髪イケメンに戻っている。
そして、装備もちゃんと着けている。ウィザード用の、真っ黒なローブ装備だ。
ちなみに、俺も最近は似たような感じである。ローブは魔法防御が高いので、後衛用とも言える。アーチャーでもローブ装備は結構多い。
「それで、どういった話だ? あの勝負なら無効だぞ。もっとも、お前の知りたかった事は、もう身を持って理解しているだろうがな。とにかくかけてくれ。」
ライトは目を伏せながら、おずおずと俺とカオリンの正面のソファーに腰掛ける。
そして、俯いたまま喋り出した。
「そ、その、えっと、ぼ、僕をこのギルドに入れて下さい!」
はい~っ?
これには俺も驚いた!
隣を見ると、カオリンも口をぱくぱくさせている。
正に開いた口が塞がらないとはこの事だ!
しかし、良く考えてみれば、これは理に適った提案でもある。幽霊同志、一ヶ所に集めておいた方がいい。ひょっとしたら松井の案かもしれない。
だがな~。
ローズの事もある。皆の賛同を得られるとは思えない。そして、俺も嫌だ。
「ちょ、ちょっと待て! お前、自分のした事、忘れたのか? 俺が良くても、皆が認める訳が無い! ちなみに、お前がリアルで何をローズにしたのか、俺は知っている! ここに居るカオリンもだ! そして、それより先に、お前の現状とか、説明する事があるだろ!」
そう、俺が興味があるのは、幽霊としてのライトだけだ。それに関する話なら、喜んで聞くつもりだ。
だが、このギルドに入れるかどうかは別の話だ!
そして、ライトはそれは理解できたようだ。
目は伏せたままだが、顔を上げた。
「じゃ、じゃあ、そ、その、僕の現状を教えたら、入れてくれますか?」
「入れる訳ないでしょ! このお馬鹿! シン! こんなのさっさと追い出して!」
カオリンが問答無用の突っ込みを入れる。
「ま、待て、カオリン! 俺も入れるつもりは無い! しかし、話は聞きたい。それで、もし反省しているのなら考えなくも無い。」
うん、今回の件に至るまでの一連の騒動、その関係者全員に謝罪するなら、可能性は皆無ではなかろう。
カオリンを見ると、呆れたのだろう。俯いて首を振っている。
「そ、そうですよね。いきなり入れろって言うのは無理がありますよね。では、先に僕の現状をお話します。」
ライトは、はっきりと俺を見据えた。
ライトの話はほぼ予想通り、いや、それ以上に悲惨だった。
こいつは試合中、あの硬直した状態の時、光の洪水が見えたらしい。
うん、俺と全く一緒だ。
そして、気付いたら周りに俺が居ない。
こいつはその時、自分が勝ったものだと確信したそうだ。
うん、これは納得だ。
しかし、ウィナー表示も出ないし、闘技場からも出られない。
不思議に思っていると、あの、ホテルの一室のような場所に監禁されたと。
ふむ、これも俺と全く一緒だ。
そこに新庄が現れ、自分が死んだと説明されたそうだ。
当然、こいつもそこでは信じられなかった。
しかし、リアルの映像を流される。医療開発チームが、体中に管を取り付け、電極みたいなものを張り付けている映像だったそうだ。
ふむ、肉体の強制維持装置と考えていいだろう。俺も現在はそうなっているはずだ。
しかし、こいつはまだその時点では信じられなかったそうだ。
なので新庄は、今度は俺の死体を見せ、これが『シン』だと説明したらしい。
そこでやっと理解したと。
そう、俺の言葉だ。『実は俺、幽霊なんだ。』
うん、ここまでは、ほぼ俺も予想した通りだ。
しかし、こいつが悲惨だと言うのは、ここからだ。
こいつの通信に関する機能は、ほぼ全て封印されたらしい。
コールもメールも、NGMLの職員、厳密には新庄と桧山さん、そして、松井と姉貴だけにしか繋がらない。
俺とカオリンが試したところ、メールの宛先に、『ライトニングサークル』の表示は出なかった。
更に、常に隠密玉の効果が出るような設定にされたそうだ。
当然、VR真理会なんかももう存在しない。俺もギルド一覧で確かめたが、表示されない。
そして、止めは言語機能の制限だ。
NGMLが認めた時しか喋れないらしい。
つまり、今はNGMLが許可を出している状態と。
まあ、理由は想像できる。
こいつに余計な事を喋らせない為だ。
しかし、いくら自業自得とは言え、これではやり切れないだろう。
俺も、こいつの精神が保つか心配になって来た。
俺の場合、こうやって、カオリンやローズ、そしてタカピさん、サモン、クリスさん。そう、仲間が居るから発狂せずに済んでいると考えていい。
「…………。」
流石のカオリンも黙り込んでしまった。
だが、ライトは続ける。
「でも僕は、死んだ事に関しては後悔していませんよ。実際、僕のリアルなんて、既に無いも等しいんです! 親にも愛想を尽かされ、ボロアパートとバイト先の往復だけ。そのバイト先も、先日馘になったばかりだ。多分、誰も僕が居なくなった事に気付いていない。でも、ここは違う! 少なくともNGMLは僕を必要としてくれている! あんなリアルより、全然マシなんだ! そして、貴方達のその眼! 明らかに僕を嫌っているはずなのに、ちゃんと見てくれている! ええ! 僕にはこれで充分です! 無視されるより、遥かにマシなんです! だから、僕をここに置いてくれるだけでいいんです! だから! だから……」
ライトは涙を流し出した。
流石にこれはいたたまれない。
そう、こいつが我慢できないのは無視される事。
つまり、独りで居るのは耐えられないのだ!
嫌われようが他人との接点を持っていたい。
その気持ちがああいって行動に走らせたと考えれば、納得できなくもない。
そして、現在その接点が、俺達以外ほぼ封印されてしまった訳だ。
ここで俺は理解した。
そう、NGMLは、こいつの面倒を俺に押し付けたのだ!
だが、俺にこいつの面倒を見る余裕があるかと聞かれれば、微妙なところだ。
しかし、こいつのおかげで、俺は蘇生できるかもしれない。
俺はカオリンと顔を見合わせる。
カオリンも、俺の考えている事は理解しているはずだ。
何とも微妙な顔をしている。
「話は分かった。だが、さっきも言った通り、俺の仲間が認めてくれるかどうかだ。俺にとっては大切な人達だ。その人達の判断を優先させたい。意味は解るよな?」
「は、はい! 謝れと言うなら謝ります! ごめんなさい! ローズバトラーさんには許して貰えないでしょうが、お願いします!」
ライトは深々と頭を下げた。
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