第74話 PVPに備えて

         PVPに備えて



 気が付くと、全員が俺の顔を見ていた。


「あ、済まない。ちょっとメールが来ていたもので。」

「でも、深刻そうな顔だったわ! シン! あたしで力になれる事なら何でも言って!」

「そうっす! 今更っす!」


 俺の愛しい女性ひと達は、俺に詰め寄る。


「う~ん、隠す事でもないかな? 実は、ライトから、PVPの再戦の申し込みが来た。俺は受けようと思っている。時間は明日の昼、1時だ。」


 ローズ以外の全員が、少し驚いた顔をする。

 それはそうだ。前回、奴は俺に完敗し、その結果が今の三段重ねだ。

 あれさえ無ければ、奴は未だにギルド、ドウプスターで普通のプレーヤーが出来ていたはずだ。もっとも、そうなっていれば奴の言う所の、『評価』はされなかっただろうが。

 そして、タカピさんとローズ以外、奴がメイガスになるという事は知らないはずだ。


「あいつ、懲りへんやっちゃな~。ほんで、あいつ、今度は何が欲しいんやろ? この前のあいつの口振りからは、もうこのゲームの情報は要らん、みたいな感じやったけど。」


 ここで俺は再び考え込む。


 俺は多分負けるだろう。

 同じメイガスならば、当然ステが高い方が有利だ。奴が再戦したいと言って来た以上、ステは俺より上だという自信があるのだろう。装備品も俺と同じ物を持っていると考えていい。クエストのコンプの仕方とかを、松井達から聞いていると思われるからだ。

 そして、俺が負ければ、俺が既に死んでいる事を奴に教える事になる。だが、この事は、まだサモンとクリスさんには伝えてはいない。


 そう、仲間も知らないような事を、奴に教えるのは憚られるのだ!

 もっとも、サモンは大体気付いているようだが、これは俺からはっきりと言うべきだ。でないと、本当に申し訳ない。


 沈黙が流れる。


「ん? 何か不味い事言うてもたか?」

「い、いや、そんな事は無いよ。うん、そうだな。丁度いい。サモンさん達にも知って貰うべきだろう。ライトが俺に求めて来たのは、俺の正体だ!」

「え! シンさん、それは不味いっす! そもそも、あんな奴の相手をする必要は無いっす!」

「うん、ローズ、今までの俺なら受けなかったと思うよ。でも、俺は受けてやりたい。それで、もし俺が負ければ、俺の事を奴が知る訳なんだけど、そこは気にしていないんだ。むしろ警告の意味でいいと思っている。しかし、サモンさん達も知らない事を、奴に教えるのが嫌なんだ。なので、サモンさん、クリスさん、いいだろうか? 更に貴方達を巻き込んでしまう事になってしまうんだけど。」


 俺は覚悟した。この二人はここで席を外すことを。

 しかし、サモンも、クリスさんも腰を上げようとはしない。寧ろ寛いでいる感じだ。


「じゃあ、聞いて欲しい……。」


 俺は、自分が既に死んでいる事。現在、ライトがモルモットとしてNGMLに利用されている事。更にライトがメイガス化に成功した事。全てをサモンとクリスさんに話した。



「なんや、わいらが思うてたのよりは厳しいようやけど、大方予想通りやな。わいらは、シンさんが肉体に意識が戻らへんだけって読みやったからな~。うん、よう言うてくれはった。せやけど、やっぱりシンさんやな。そこまで筋通されると、ほんまに嬉しいわ。」

「そうですわ! 本当にシンさんは水くさいですわ!」

「いや、今まで言えずに、本当に済まない。それで…」

「そんなん気にするんはシンさんの悪い癖や。これからも今まで通りやで。勿論、わいらに出来る事は何でも協力する。まあ、大してないやろけど。ほんで、シンさんはあいつに何を賭けさせるつもりや?」


 うん、言って良かった。これでまた一つ心のつかえが消えた。

 しかし、奴に何を出させるかは、まだ考えていなかったな。


「う~ん、正直言って勝てる気がしない。ルールもまだ決めていないし。と、言っても、奴の感じだと、魔法禁止とかでなければ、どんなルールでも来いってとこだろうな~。」

「そうね。マイナスレベルからのステータスがどうなっているかも不明だし。でも、シン、勝てる自信が無いなら、何故受けるの? データ取りだけなら、わざわざそこまでしなくても…。」

「いや、カオリン、あいつを巻き込んだそもそもの原因は俺だ。だから、以前にも言ったかもしれないが、あいつにはできる限り付き合ってやりたい。」


 全員が溜息をついた。


「うん、シン君、僕も医者として、彼にはそうやって接してあげるのには賛成です。なので、君がそうしたいのなら僕も止めません。ですが、カオリンの言う通り、君がそこまで責任を感じる必要は無いと思いますよ。」

「まあ、良くも悪くも、そこがシンさんなんやろな~。わいもシンさんが責任に感じる理由は全く無いと思うけどな。ほんで、カオリンちゃんも、ローズちゃんも、そこに惚れたんやろ?」


 二人は顔を真っ赤にして、黙って頷く。


「それでは今から作戦会議ですわ! シンさんは負けてもいいように仰っていますが、それは私達が許しませんわ!」


 なんか、胸が熱くなって来た。

 幽霊なんざに、ここまで言ってくれる人達が他に居るだろうか?

 俺は上を向く。そうしないと、見られたくないものが流れてきそうだ。


 俺達は、明日に備えて話し合いをする。

 幸い、タカピさん以外は見届けてくれるようだ。

 もっとも、タカピさんも、俺達とは違う場所で見ているだけなのだろうが。


「ほな、ルールも含めて作戦は決まりやな。まあ、相手の情報が無い以上、これ以上はどないもならんやろ。ほんでシンさんも、ちゃんとあいつから貰うもん決めときや~。」

「うん、皆、ありがとう。それは今晩中に決めておくよ。」



 全員が消えたところで、俺は松井にコールする。

 そう、これを許可した松井の真意が聞きたい。

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