第75話 ライトのステータス

        ライトのステータス



「それでNGMLとしては、今回のPVPにデータ取り以外に何か目的があるんですか?」


 俺はいつものエルフアバターに聞く。

 松井はコールじゃなんだからと、わざわざダイブして来てくれた。


「うんうん、目的はあるね~。僕達は、とある可能性があるんじゃないかと踏んでいる。」

「え? とある可能性って?」

「う~ん。あくまでも可能性だし、これを言っちゃうとね~。ただ、君の蘇生に関わる事だけは確かだよ~。なので、彼とは本気でやって欲しいかな。」

「松井さんにしては、珍しく伏せますね。まあ、奴には本気で相手するって決めていましたから、そこは大丈夫だと思います。仲間も、本気で俺を勝たせてくれようと、俺に時間を割いてくれましたし。」


 松井は上を向いて少し間を置く。


「うんうん、そんな感じのようだね~。なら、これも言っておこう。彼の現在のステータスに関してだ。あれは桧山君の暴走で、少し変な事になっている。当然、彼はそのステータスを捨てる気は全く無い。僕も、それで彼が気持ちよくこちらの言う事を聞いてくれる限り、どうこうする気は無い。このゲームはPVPがメインじゃないからね。それに、彼が他のプレーヤーに迷惑をかけそうな接触はさせないしね~。」


 まあ、そこら辺は思った通りだ。

 だが、具体的にはどんな感じなのだろう?


 松井は俺の考えを読んでか、続けてくれる。


「具体的には、彼のマイナスレベル時のステータスは、HPとMP以外はレベル1の時点でデフォルトの値、5に戻ったよ。但し、HPとMPは5100だったけどね~。スキルポイントに関しては、マイナスレベル時、レベルアップごとに、その絶対値が加算されていったね~。と言っても、レベル50の分だけだから、たったの12500だ。そして彼のレベルは現在68だ。もっとも、試合までにはまだ上がるだろう。彼の明日の行動に関しては、こちらも特に制約していないからね~。」


 ふむ、俺も現在はレベル81。ならば奴のステータスは、俺よりHPとMPが4000ほど高いだけかもしれない。もっとも、奴がどの能力に特化させたかで大きく変わるのだが。


 松井は更に続ける。


「それで彼、君に凄く拘っていたね~。君がどのスキルを取ったとか、しつこく聞いてきたよ。まあ、こちらは特に困る事もないんで、全部教えてしまったけど~。」

「げ! 松井さん、それって俺、かなり不利なんでは? 俺に拘ったのならば、PVPで俺に勝てるようにスキルを選択したと思われるんですが?」

「いや、僕もてっきりそうするかと思ったんだけど、彼、君が取ったスキルとほぼ同じスキルを取って行ったね~。対等の条件でやりたいって感じ?」


 なるほど。松井としては、俺のスキルを奴に教えてしまった手前、俺にも教えてくれたと。

 そして、俺と奴のスキルはほぼ同等。レベルも、明日には俺に追いついていると見て間違いないだろう。

 ならば、違いはHPとMPが5000くらいなだけだろう。しかし、だけって言っても、それがかなりでかいのだが。


「分かりました。わざわざありがとうございます。俺の不利は変わらないようだけど、頑張ってみますよ。」


 俺は松井がこれで消えるかと思ったが、まだ何かあるようだ。


「うんうん、それでいいね~。後、これだけは言っておくよ~。明日、何が起こっても君に責任は無い。全てはNGMLが背負う。じゃあ、また明日。」


 松井は何やら含みを残して消えた。

 ふむ、明日の試合、データ取り以上の目的があるのは間違いない。

 そして、それはまだ言えないと。

 しかし、最後の松井の一言から、それが何であるかは、何となく想像はつく。

 だが、俺は本気で相手をすると決めた以上、考えない方が良さそうだ。

 多分、松井はそういう意味で言ったのだろうから。



 松井が消えたので、俺はいつも通り、明日ローズに教えるところを予習する。

 相変わらず穴だらけなので、結構大変だ。


 俺の寿命は後1週間程らしいので、人によっては、無意味だろうと思うかもしれないが、俺はそうは思わない。

 何と言うか、せっかくここまでやって来た事を止めてしまうと、俺が後悔しそうな気がするからだ。

 それに、今日の仲間の俺に対する言葉で、今や死ぬ気が全くしない。

 なので、元の肉体に戻れてからも、やり方は違って来るだろうが、ローズには引き続き教えるつもりだ。

 そして、少しでも、彼女達と一緒の時間を過ごしたいというのが本音だろう。


 一区切りついたところで、姉貴が来た。


「アラちゃん、今晩は~。」

「姉貴、今晩は。それで、今日の用件は?」

「相変わらず可愛くないわね~。でも、アラちゃん、鼻の下、伸びてるわよ~。」


 ぐはっ!

 一息ついて、ローズとカオリンの事を考えていたのがもろに出ていたようだ。

 きっと、かなりしまらない顔をしていたに違いない。


「そ、それは姉貴に関係ないだろ! で?!」

「はいはい。今日はアラちゃんを激励に来ました~っ!」

「ぶっ! それは毎晩して貰っている気がするが、何故に改めて?」

「う~ん、詳しい事は松井さんも伏せているようだから、あたしも言えないけど、とにかく、アラちゃんには可能性が増えたのよ! あの子達のおかげでね。」


 ふむ、『子達』が指すのは、ブルとライトだろう。

 ならば、メイガス絡みでかなりの進展があったと見ていいようだ。


「じゃあ、明日のPVP、感謝の意を込めて、手加減してやれとか? って、まともにやってもかなり勝算は薄いんだけど?」

「アホタレ! 誰もそんな事言っていないわよ! とにかく、アラちゃんは明日、本気でやる。アンダスタ~ン?」

「わ、分かった。」

「よっろすぃ~っ! じゃ、私もローズちゃんの授業の準備があるから。」


 姉貴はそれで消えた。

 う~ん、松井と同じで、とにかく俺は本気でやれということだろう。



 俺が今日の分を済ませ、以前見ていたアニメのビデオを見ていると、ローズが来た。六時半。ふむ、もうそんな時間か。


「シ、シンさん、おはようございます!」

「うん、ローズ、お早う。って、何だそれは?」


 ローズは朝っぱらから、俺に向けて口先を尖らせて来る。


「と、当然、お早うのキスです! さ、さあ!」

「う~ん、最近思うのだけど、ローズ、お前の病気って、その、性欲とかに何か影響あるんじゃないのか?」

「そ、そんなことないです! た、たぶ…、あ…」


 俺はローズの口を口で塞いでやる。

 思いっきり抱きついてきたので、こっちも抱きしめ返す。

 そのまま時が流れ…ない!


 例の三頭身美少女が現れた!


「二人共朝から元気ね~、ってアラちゃんは年中無休か。」

「お、お義姉様! お、お早うございます!」

「おい、姉貴。そう、俺が常に発情しているような言い方はよしてくれ。まあ、この状況、言われても仕方ないけど。」

「はいはい。じゃあ、始めるわよ~。今日も小テストからね。」



 姉貴の授業が終わり、ローズはいつも通り一旦落ちるかと思ったら、今日はいつもと少し違うようだ。


「今からカオリンが来てくれるっす!」

「あ~、なんか言っていたな。じゃあ、今日の俺の授業はキャンセルか?」

「どうっすかね? カオリン次第っす。それで、NGMLもシンさんにも何かあるみたいっすよ?」

「何だろう? まあ、カオリンに宜しく頼むよ。」

「はいっす! じゃあ、またっす!」


 ローズは消えた。

 うん、二人共仲良くしてくれればいいな。


 そこにいきなり頭に声が響く!


「シンさん、お早うございます。それで、早速ですが……」

「あ~、新庄さん、お早うございます。毎回ですが、いきなりは勘弁して下さい。それで?」

「はい、そのモニターを見て下さい。」


 俺が先程まで姉貴の授業に使っていたモニターを見ると、見慣れない物体が映っている。

 ふむ、何やら沢山ホースが生えた、大型の精密機械のようだ。


「何ですか? これ?」

「あ、先に説明させて下さい。それで、今テーブルにコントローラーが出現したかと思いますが、どうでしょう?」


 俺は慌ててテーブルを見る。


「はい、家庭用ゲーム機のコントローラーのようですね。」

「では、そのコントローラーの扱い方を説明します。そうですね。先ずは、そのモニターを見ながら、左手のジョイスティックを、軽く上に倒して下さい。」


 俺は言われた通りにする。

 モニターの中の画像が、いきなりずれた!

 いや、ずれたと言うよりは、視点が上に移動したと言うべきだろう。


 そこには、ベッドに横たわる、痩せこけた一人の少女?が映り込んだ!

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