第73話 ネタバラシ
ネタバラシ
俺達は、ギルドルームに戻ると、祝勝会という、ネタバラシを行う。
カオリンは、どや顔で自分の武器の効果を説明する。
「なんや、カオリンちゃんの武器、そないな効果があったんかいな。せやけど納得やわ。」
「直前につけたからな~、サモンさんが知らなくて当然だよ。」
「僕もびっくりですよ~。てっきり、あの中では最弱の僕を狙ってくるかと思っていましたよ。まさか、三人の中で、最も硬くて、且つHPが多いサモン君を狙うとはね~。ですが、その効果なら納得ですね。シン君のダブルアタックも加わるなら、スキル攻撃に拘りますね。」
「私も騙されましたわ! ですから、必死になってローズちゃんの攻撃を無効化したのですわ! なのに、むしろローズちゃんが囮だったなんて!」
「いや、クリス、お前、最初からローズちゃんのしか、ようせえへんって言うとったやん。」
「サモンちゃん! そこはバラしてはいけませんわ!」
うん、普通ならば、攻撃の軸は、我がパーティーでは物理攻撃力と物理防御力が最強のローズに任せる。だが、相手の物理防御を無視することができる『貫通』武器があるなら話は別だ。
「せやけど、シンさん、あの状況で、よう『ダブルアタック』成功させたな~。 普通やったら、当たり判定の振動で、パニくってるとこやで?」
「そうですわ! それが目的でシンさんを狙ったのですわ! カオリンちゃんを狙うのがセオリーですのに。」
なるほど。彼らがあえて後衛の俺を狙ったのには、そういう理由があった訳だ。凹られている最中は、何もできまいと。
そして、俺さえ抑えてしまえばいいという判断だ。
「いや、俺、最初に言ったと思うけど? あのボス部屋で、小一時間凹られ続けたって。あの振動にはもう慣れたよ。」
そう、あれ以来、俺には当たり判定の振動など、あまり気にならなくっている。
そればかりか、宙に舞わされている状態でも、うちのメンバー相手になら成功させる自信がある。
「シン、貴方、本当にそういう自分の異常性を隠さなくなってきたわね。まあ、納得できる説明だからいいけど。」
他の4人も、何やら気の毒そうな視線を俺に向ける。
う~ん、今気付いたが、確かにこれじゃ本当の機械化人だな。
「それで、今回の報酬、『真・八咫の鏡』なんだけど、どうしよう? あの神様の口振りからは、サモンさん達も貰ったようだけど?」
俺は少々ばつが悪くなったので、話題を変える。
このアクセサリーの効果は、かなり特殊で、アイテムフォルダー数+10である。そして、これは既に全員に説明してある。
また、あの時得られた称号は、『神に認められし者』で、効果は、HPとMPが50%↑だ。
「せや、わいのアイテムボックスにも入っとった。ほんで、わいらもその称号貰えてるんや。」
全員がその、『神に認められし者』の称号に付け直す。
「負けた方も貰えるなんて、やっぱ、激甘っすね~。」
「ローズ君、それはどうでしょうね~? 作った側からすれば、あのクエストに限って言えば、あのクエストの真意を読み解き、そして、あの部屋まで辿りついた時点で、コンプしたという判断なのではないでしょうか?」
ふむ、タカピさんの説明なら納得だ。あそこまでの敵は、俺達のように最強装備があればそれほど苦労しないが、そうでない人達には結構厳しいはずだ。増してやパーティーを分割しなければならない。
「どうもそうみたいね。でも、その理屈からだと、VR真理会の連中は全員の名前が扉に載るはずよ? あたし達の読みでは、連中は10人で挑戦したはずよ?」
「いや、カオリンも聞いていただろ。俺達はいい試合だったって、あの神様に褒められた。実際、俺のHPはレッドゾーン寸前だったよ。1200しか残っていなかった。そして、連中は褒められなかったんじゃないか? 結果、勝った方だけをコンプ扱いにしたんだと思う。」
そう、本当にギリギリの勝負だったのである。
あと一撃俺が喰らっていれば、俺達は負けていたはずだ。
「いい試合の条件は分かりませんけど、それなら納得ですわね。確かに、『正々堂々と』とか言っていましたわね。」
「せやな。そう考えると、わいらのコンプの仕方は、それこそ完璧やったっちゅうことや。」
全員が納得した顔になったので、俺は話を戻す。
「じゃあ、このアイテム、現状2個ある訳だけど、どうしよう? 俺は、一つはタカピさんにあげたいんだけど。」
この判断は当然だろう。常に10個余分に持って行けるのだ。貴重な回復アイテムの倉庫と化しているタカピさんに、これ程相応しいアイテムはなかろう。もっとも、タカピさんに集たかるみたいで、少し後ろめたいが。
「「「「異議な~し!」」」」
うん、皆も考える事は一緒だったようだ。
「これは嬉しいですね~。僕にという意味は理解できますので、遠慮なく頂きますね。なので、皆さん。これから回復アイテムが足りなくなったら、すぐに僕に言って下さいよ~。」
タカピさんは、俺とサモンがテーブルに置いた、直径10cm程の、円形の光り輝く鏡に手を伸ばす。
早速装備したようだ。これも首にかけるタイプか。ちょっと大きめのネックレスだな。
「ほな、もう一個はどないする? わいとしてはシンさんに持っといて欲しいねんけど。」
「いや、サモンさん、気持ちは嬉しいのだけれど、装備出来るアクセサリーは3つまでだ。俺の場合、既に『真・八尺瓊勾玉』と、『天叢雲剣』。そして、この『ファントムカース』で固定だよ。」
そう、魔法を使わないタカピさんの場合は、『八尺瓊勾玉』に代えて、この『真・八咫の鏡』で丁度いいはずだ。
作った側の意図としては、この三種の神器を全て装備して完璧となるのだろうが。
「せやから、飽くまでも持っとくだけやて。あの神さん、最後に意味深な台詞、言うとったやん。」
「あ~、何か言ってたっすね! 新たな道がどうとかって!」
「じゃあ、シンで決定ね!」
「うん、僕も賛成ですよ。」
「当然、私もですわ。」
「うん、ありがとう。じゃあ、これは俺が預かっておくよ。当然、これからのクエストとかで、これの効果が必要な場合は、他の人に装備して貰うけど、それでいいかな?」
「「「「「異議な~し!」」」」」
さっきのクエストの件が一段落したところで気が付いた。どうやら俺にメールが入っていたようだ。
ん? 俺と親しい人なら、皆、コールのはずだが?
相手を確認すると、何とライトだ!
ふむ、もう10時だし、奴も一段落ついたか。ちなみに、差し出された時刻は30分前だ。丁度クエスト中だったから、気付かなくて当たり前か。
『やはり僕には素質があったようです。これで僕もメイガスです! なので、明日、土曜日13時、貴方とPVPをします。僕が望む賭けの報酬は、貴方の正体です。絶対に逃げないで下さい。』
げ! ライトの奴、遂に俺に疑いを持ちやがった!
まあ、今までの経緯いきさつから、変に思われてもおかしくはなかったのだが。というか、既に思われていたな。
しかし、この内容、相変わらずだな~。微塵もこちらの都合とかを考えてはいない。まあ、何時でも受けるとは言ったが。
俺は考え込む。
俺の正体が奴にバレるのは、奴がNGMLに居る限り、時間の問題だろう。
そして、松井達は当然この事、この、ライトのメールを知っているはずだ。
つまり、NGMLは、もうこいつにバラしてもいいと考えている。きっと、外部に洩れないように保険もかけているはずだ。
なので、俺にとってはこの提案、ほぼノーリスクと考えていい。寧ろ、奴に危険性を伝える意味では好都合だ。
そして、奴は俺に賭けたい物を考えておけと言っていた。多分、あの時点で、奴はこれが望みだったと思われる。
しかし、俺は奴から欲しい物など何も無い。奴の自業自得とは言え、俺の実験に関わらせた事に対して、少し負い目に感じているくらいだ。
う~ん、俺は奴に何を求めよう?
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