第67話 ローズ、カオリン、そして姉

        ローズ、カオリン、そして姉



「は~い、話は済んだようね。全く、アラちゃんにそんな甲斐性があったなんて、少し驚きよね~。そして、姉としては微妙なところね。」


 カオリンとローズが、顔を真っ赤にして俺から離れる。

 多分、俺の顔も真っ赤になっているに違いない。


「い、いや、姉貴、これはその…って、席を外してくれてたんじゃなかったのか?」

「はいはい、見てはいないから安心してね~。でも、この状況を見れば誰でも分かるわよ。じゃあ、カオリンちゃん、貴女も私の事を『お義姉さん』と呼んでいいわよ~?」

「え? じゃ、じゃあ、敦子さんもあたしの事を認めてくれるの?」

「リピートアフタミー! 『お義姉さん』!」

「は、はい。お義姉さん。」

「宜しい! ええ、最初からこうなるんじゃないかとは思っていたから~。大体、アラちゃんは奥手すぎるのよ~。さっさとカオリンちゃんを押し倒しちゃえば良かったのに。あら、でも、それだとローズちゃんとはこうならなかったわね。う~ん、まあ、私はどうでもいいわ。とにかく、三人で喧嘩せずに仲良くするのよ~。」


 カオリンの顔が更に赤くなる。

 当然、俺も同じだろう。

 そして、いつもの勝気なカオリンは何処へやら。完全に姉貴に圧倒されているようだ。


「は、はい! お義姉さん!」

「はいっす! お義姉様!」

「わ、分かった。それで、当然姉貴は俺達をからかいに来ただけじゃないんだろ? そうだ、あの話、彼女達にもしておくべきだろうか?」


 俺は必死に話題を変える。


「そうね~。アラちゃんの彼女なら、知っておくべきかしら? 道徳的には褒められた話じゃないのだけれど、それが彼の希望だから、こっちも少しは気が楽よね~。」


 姉貴はライトの話をする。


「そ、それってお義姉さん、あのお馬鹿が、進んでモルモットになってくれるってこと?」

「ええ、そうね。もっとも、彼はそう思っていないのが微妙なところなのだけど。」

「でも、そのお馬鹿のおかげでシンさんが生き返れたら、あたいらは感謝しないといけないっすかね?」

「う~んと、その必要はないんじゃないかしら~? 彼の『おかげ』でアラちゃんが生き返れるとも思えないし。それに、彼はアラちゃんの為になんて、これっぽっちも思っていないわよ。当然、それに連なるかもしれないローズちゃんもね。まあ、全部を知ったら、恩着せがましく言って来るのは間違い無いけど、そこは大丈夫だから安心してね~。」


 あ~、例のモニターに関する契約って奴か。


「なら良かったっす! でも、あいつ、NGMLに来るんすよね? 今のあたいを知ったら…。」

「そこも安心してね~。ローズちゃんの居る病棟には、近づかせないから。でも、万が一があるから、用心はしておいてね。」

「はいっす!」

「え? ローズちゃん、今、NGMLに居るの?」


 ふむ、ローズはカオリンにはまだ話していなかったようだ。


「そうっす。今のあたいの病気は、シンさんが生き返れたら、その成果を応用して、治る可能性があると説明されたっす。」

「やっと話が繋がったわ! なるほど、それでローズちゃんはシンと『運命共同体』な訳ね! なら、簡単ね! あたしも今度NGMLに行くわ! お義姉さん、いいでしょ?」

「ええ、カオリンちゃんなら問題ないわよ。」

「え、いや、カオリン、それはどういう意味っすか?」

「それはローズちゃん、一人の同じ男性を好きになってしまった者同士、ちゃんとリアルで挨拶をしておきたいの。ローズちゃんもあたしの事、知りたくはない?」


 ふむ、カオリンは直接ローズに会いたいという事か。


「そ、それは知りたいっす! でも、あたいの身体を見ても、多分いい気はしないはずっす。」

「そうかもしれないけれど、今のシンの事を考えたら、些細な話よね。それに、一時的なものでしょ? シンが治れば、ローズちゃんも治るんだから。」


 うん、いつものカオリンらしい返事だ。

 俺が生き返れば、当然ローズも治ると。

 そして、かなり低い可能性なのを理解しているはずなのに、それを微塵も疑っていない!


「じゃあ、決まりね! カオリンちゃん、明日いらっしゃい。私から話をしておくから。あ、私もカオリンちゃんには直接会っておきたいわね~。ローズちゃんにはもう会ってるけど、カオリンちゃんはまだ電話だけだったわね。」

「はいっす! じゃあ、カオリン、明日待ってるっす! 楽しみっす!」

「じゃあ、お義姉さん、明日、土曜日の午前中に伺いますね。」

「ええ、待ってるわ。」


 話はそこまでとなり、ローズの授業が始まる。もう7時を回っていたので、カオリンは学校へ行く準備をすると言って、借りていた武器をテーブルに置いて消えて行った。



 9時に姉貴の授業が終わり、ローズも一旦落ちる。

 今日は9時半に戻って来たので、そこからは俺の授業だ。


「おい、ローズ、眠そうだけど、大丈夫かな?」


 ローズ達にとっては、一大イベントが終わって気が抜けてしまったのだろう。

 まあ、朝も早かったしな。そして、姉貴の授業では相当緊張していたのもあるだろう。


「だ、大丈夫っす! キ、キスして下さい! そしたら目も醒めるはずです!」

「アホ! 授業中にキスって! でも、少しだけならいいか。」


 俺は頬にキスをしてやる。

 すると、首に腕を廻して来たので、流石にそれは振り払った。

 うん、これ以上はまた桧山さんにやっかまれそうだ。

 その代わりと言っては何だが、授業時間を少し伸ばして、と言うか、最後に小テストをして、きっちり12時に終わらせた。


「ちょっと、疲れたっす。少しお昼寝するっす。」

「うん、お疲れ様。俺も、そろそろ奴が来る頃だし、呼び出されるかもしれない。丁度良かった。うん、休んでおくといいよ。」

「はいっす。お疲れ様っす。」


 ローズは、別れ際に俺にキスをして落ちた。



 俺がTVを見ていると、桧山さんからコールが入る。


「シンさん、今いいですか?」

「はい! 何かありましたか?!」

「いえ、まだ特に無いのですが、彼、ライトニングサークルさんが、シンさんとどうしても話したいと言い出しまして。」

「え? もう俺との繋がりがばれたんですか?」

「いえ、そうじゃないんですが……。」


 桧山さんの話によると、ライトは朝の10時に既にNGMLに来たようだ。

 松井の話だと、昼からとのことだったので、かなり早い。

 まあ、NGMLにとっては早いに越した事は無いので、早速、例の契約書とやらにサインをさせ、すぐに奴の脳波の測定を始めたそうだ。

 そして現在、一通りの測定が済んで、休憩中と。

 また、俺についてはまだ何も話していないらしい。

 もっとも、勘のいい人ならば、サモンのように、気付いていてもおかしくは無いのだが。


「じゃあ、一体、何の話がしたいんだろう?」

「さあ、私にも分かりません。でも、これから3時までは、彼は自由時間なので、特に制限すると、かえって疑われそうですし。」

「しかし、俺の事を知らないのなら、よく俺がログインしていると分かったな~? 俺は奴とは友達登録していないから、コールもできないし、居場所も分からないはずなんだけど?」

「あ! それは私のせいです! ごめんなさい!」

「へ?」

「い、いえ、思わず愚痴ってしまったのが彼に聞かれてしまって。」


 ぶはっ!

 大方、桧山さんは、俺とローズがいちゃついているところを見て、思わず文句を言ってしまったのだろう。それを奴に聞かれたと。

 ライトも、メイガスの俺が監視されていると聞かされていたようだし、そこは上手く誤魔化したのだろうが、俺が居る事だけはばれてしまったと。


「う~ん、俺は今の所、ライトと話す事は無いのだけれど。もっとも、色々と忠告はしてやりたいけど。」

「シンさん、相変わらずですね~。私なら絶対にそんな事考えませんよ。あ、もうBAを装着したようです!」

「まあ、俺も罪悪感はあるんで。それに話だけなら。」

「はい、変な事になりそうなら、即座に引き摺り出しますので、安心して下さい!」


 ふむ、松井が反対しないのなら、NGMLとしても、奴が何を話すのか興味があるといったところか?


 俺がモニターを不可視にするのと、インターホンが鳴るのと、ほぼ同時だった。

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