第65話 メイガスとは?

         メイガスとは?



 その後は、クリスさんが部屋に入って行き、俺はサモンの仲間達と自己紹介を交わしながら待つことにした。


 紫色の長い髪を背中で束ねた、高身長のイケメンアバターが、ワンニャンコさん。

 丁髷の、武士アバターの人が、モーゼさん。

 そして、以前会ったマチョマチョさんは、赤髪で身長180cmくらいの、筋骨隆々、イケメンアバター。


「うちのギルドじゃ、シンさん達の話はもう有名ですよ。俺達ですらコンプ出来なかったクエストを、次々とコンプして、あげくにここまでコンプとはね~。」

「せやから、ワンコ、あんたももう少し知恵出してや。VRファントムの中じゃ、わいら脳筋ギルドになってもてるで~。」

「いやいや、サモンさん、これだけの大所帯だよ~? もし変な事言って、間違っていたら皆に申し訳ないよ。そりゃ、自信があれば遠慮無く言えるけどね~。」


 ワンニャンコさんは、笑いながらサモンに答える。

 なるほどな~。何となくサモンの言っていた事が解る気がする。


「それに、我らがマドンナ、クリスさんまで、そっちに行っているじゃないか。サモンさんとローズちゃんだけで勘弁してくれよ~。」

「マチョ、ローズちゃんはしゃあないけど、わいとクリスは、VRファントムの面子が揃うた時だけやで。っちゅうか、その言い方やと、やっぱりわいは要らん子やったんか? そか、クリスさえおればええねんな~。あ~、わい泣きたいわ~。」

「い、いや、サモンさん、俺もそこまでは言ってない。まあ、泣くのは止めないけど。」


 皆が大笑いする。


「なんかそちらの主要メンバーを、俺が横取りしたみたいで申し訳ない。でも、うちでもサモンさんとクリスさん、そしてローズは、最早大切な仲間だ。そういう言い方は勘弁してくれ~。」

「いえ、僕達もそういうつもりで言ったんじゃないですから、誤解しないで欲しいです。サモンさんも、クリスさんも、シンさんところに出入りするようになってから、何か、いい意味で変わった気がしますよ。そして、この前のローズちゃんは良かったですね~。なんか吹っ切れていた感じでしたよ。まあ、あの称号じゃ当然か。」


 今度はモーゼさんが俺を茶化す。

 う~ん、流石にちと恥ずかしい。

 しかし、サモンの仲間は皆、灰汁がなくていい。サモンともかなり親しげだ。まあ、サモンのギルドなんだから、そういう雰囲気になるのだろう。今までの廃神さん達のイメージを一掃できた気がする。


 その後、サモンと俺で、三人にこのクエストのやり方を教えていると、クリスさんが帰ってきた。当然、称号は『水龍を屈服させし者』に変わっている。


「皆さん、お待たせですわ。おかげで、久しぶりに大量のスキルポイントを得られましたわ。」


 うん、俺もだ。またしても12000P。どうやら、コンプとクリアでは別扱いのようで、二度目のクリアだと言うのに、減っていない。これはまた振り分けに悩めそうだ。


「ほな、次はわいやな。ほんで、シンさんは先に戻っといた方がええんとちゃうか? あいつ、何か変な感じやったし。それとのう想像はできるけどな。」


 あ~、そう言う事か。

 どうやら、サモンは俺に、ライトの事を確認しておけと言いたいに違いない。


「分かった、じゃあお先に。皆さん、また縁があれば。」

「「「「お疲れ様~。」」」」



 ギルドルームに戻ると、何と松井が待っていた。

 居るなら姉貴だと思っていた俺は、少々意外だ。


「あ、松井さん、今晩は。こんな時間までお疲れ様です。」

「うんうん、最近、僕も時間帯がずれちゃってね~。あ~、それはいいか。君のせいじゃないし。と言うか、君のおかげで、こっちもかなり助かっているよ~。それで、早速君の疑問に答えてあげようと思ってね~。」


 うん、これは助かる。姉貴じゃ分からない事も多かったし。何よりライトの件は全くの想定外だ。


「じゃあ、進捗に関しては?」

「うんうん、かなり分かったよ~。と言っても、メイガスについてだけだけどね~。君が何故こうなったのかについては、依然謎だ。もっとも、いくつかヒントはあるんだけどね~。それで、僕達の考えでは、メイガス、今はブル君だけなんで、これも確定とは言えないのだけれど……。」


 松井の話によると、BAは、個人の脳波を読み取り、また、逆にその脳に信号を送る、文字通り、PCと脳とのアダプターだ。そして、その脳波に関しては、個人によって当然多少の癖というか、誤差がある。BAはその誤差を修正してからPCに情報を送る訳だが、どうやらブルに限って言えば、全く修正する部分が無い、つまりNGMLが、人間の平均的なものと見なして設定した周波数と、主要な部分に関しては、ほぼ完全に一致しているとのことだ。

 つまり、ブルのBAは、その修正作業をしていなので、PCのほうが勘違いを起こしてしまい、結果として、脳からPCに、直接入力している状態だったそうだ。


 具体的に言えば、ある魔法を唱えようとした場合、普通ならば、どの魔法をどの対象に唱えるかを選択して、唱え終わったとPCが判断してから発動するはずなのに、ブルの場合は、その手順が直接入力によって、全て省かれ、魔法とその対象を思い浮かべただけで、即発動していたと。これは俺も全く同じだそうだ。


「つまり、俺とブルに関しては、そちらの規定の設定値に、極めて近い脳波だった為に起こった、バグみたいなものですか?」

「うんうん、正にそんなところだね~。あの改造プログラムに関しても、まだ調査中だけど、以前のプログラムの穴から、魔法の詠唱に関しての部分だけを、その状態にしていたようだね~。」

「納得できました。じゃあ、俺はもう無理ですが、ブルに関しては、そのBAの設定値を少し変えてやるか、そのバグ部分を修正してやればいい訳ですね?」

「うんうん。でも、そのバグを修正してしまうのは現在不可能だ。それをやってしまうと、君が戻れなくなる可能性が極めて高い。なので、前者、BAの設定値を変えるしか無さそうだね~。ブル君には明日、そのBAをつけて貰うつもりだよ。後、そのバグが引き起こされている人を特定するプログラムも現在開発中だ。だから、ブル君のような人は、これからすぐに保護できるはずだね~。」


 うん、この説明で、メイガスという現象についてはほぼ理解できた。

 問題は、何故俺のような状態になってしまったかという、根本的な原因がまだ解明されていないと言う事か。

 そして、安全性に関しても、この数日で保証されそうだ。

 後は、サモンと姉貴が言っていた、俺の余命についてだが、これは多分聞いても答えてはくれないだろう。俺も、もろに宣告されるのは流石にきつい。


「それで、あの、ライトニングサークルさんは、どういった事ですか? 改造プログラムを所持していたという理由だけで、呼びつけるのはどうかと思うのだけど?」

「あ~、彼は、モニターを買って出てくれたんだよ~。あまりにしつこくこっちに干渉しようとしてきたから、なら、いっその事って感じだね~。彼も喜んでくれたようだし、こっちも助かるしね~。早速今日の昼から来てくれる予定だね~。」


 うわ!

 どういう交渉がなされたかは、何となく想像がつく。

 大方、メイガスになれるかもしれないって、餌をちらつかせたんだろう。

 そして、ライトにモニターして貰う内容も分かる。

 恐らく、BAを奴の脳波にマッチした設定に変えて、それを装着させ、メイガスになれるかどうかを確かめるのだろう。


「しかし、危険性はちゃんと説明したんですか? もし俺みたいになったら、流石に気の毒だ。奴も、死刑になるような事まではしていない。」

「うんうん、君は自分の命が懸かっている時に、相変わらずお人好しだね~。まあ、僕もそういうのは嫌いじゃないかな。でも、彼には相応のリスクがある事は説明したつもりだよ~。当然、モニター料も支払うしね~。」


 その説明とやらが、どういった内容かは分からないが、奴のあの台詞を聞く限りでは、自分の都合のいいように変換されたのは間違いなかろう。

 そして、サモンが頷いていたのは、これが読めたと考えていいだろう。

 更に、姉貴がああいう明らかに面倒を起こしそうな奴を、放置しておいた理由にも納得だ!

 まあ、巻き込んだ俺が言うのも何だが。


「分かりました。ですが、彼に関しては、それこそ充分に気を配った方がいいと思います。こちらの常識は全く通用しないと思っていい。何をしでかすか、それこそ未知数です。」

「うんうん、それはこっちも理解しているつもりだよ~。君のお姉さんにも、それだけは釘を刺されているからね~。」


 ぶはっ! 姉貴の奴、上司に釘を刺すって!

 まあ、あの人らしいと言えばそれまでか?



 松井が出て行ったので、俺はローズに教える部分の予習だ。

 もはや日課になりつつあるな。

 俺もローズとのあの時間は、今やとても嬉しいので、気合が入る。


「おはよう、って、カオリンか。今日はえらく早いな。まだ6時だぞ?」

「シン、おはよう。ええ、今から昨日のリベンジよ!」

「なるほど。なら丁度いい。あの尻尾を切る剣、サモンさんからまだ預かったままだった。後、これも渡しておくよ。あのボスに止めを刺す時は、遠距離攻撃の方が楽だろう。例の『草薙の剣』を、サモンさんが俺用の弓に交換してくれた。勝手に俺が貰ってしまったけど、構わないか?」


 俺は、テーブルに『天の羽々斬剣』と、『雷上動』を置く。


「あら、ありがとう。助かるわ。あたしも少し心配だったのよ。それで、その武器はシンが貰っておいて正解ね。サモンも粋な事するわね。」

「うん、カオリン、ありがとう。じゃあ、頑張ってな。くれぐれも……」

「わ、分かってるわよ! じゃあ、行ってくるわ。そ、それで、後で少し話があるの。ここじゃ何だから、新しくパーティールームを作っていいかしら?」

「うん、構わない。じゃあ、一旦パーティーを解散させるか。そして、俺も扉の前まで付き合うよ。さっきまで、ローズの勉強の予習をしていたから、少し気分転換したい。」

「何か悪いわね。でも嬉しいわ。じゃあ、行くわよ。」



 俺は、出雲の国の転移装置の側のベンチに腰掛けて待つ。


 その間、さっきの事を考えた。

 ライトも、俺みたいにならなければいいのだが、どうもNGMLはそうさせたい感がある。

 ブルは貴重な天然メイガスだから、彼女には逆にそうならないように、細心の注意を払うだろう。

 だが、ライトは別だ。あれ程都合のいいモルモットは居ないだろう。

 あんな奴の心配をする事自体、松井に言わせればお人好しなのだろうが。


 ふむ、メールをするなり、直接会うなりして、俺の現状を教えておくべきか?

 しかし、それをNGMLが許すとは思えない。松井じゃないが、今はそれこそ自分の事だけ考えるべきだろう。


 う~ん、でもな~。

 うん、姉貴に相談してみよう。

 俺は姉貴にコールしてみる。


「あら、アラちゃんからコールしてくるなんて珍しいわね~。少しはこの姉を頼る気になったのかしら?」

「まあ、そんなとこなんだけど、ライトの件は流石に不味いだろ? 奴と言えども、もし俺と同じ目に遭ったら、後味が悪いなんてものじゃないぞ?」

「そうね~。でも、彼、それでも構わないのじゃないかしら?」

「へ? 姉貴! いくら何でもそれは無いだろ! 俺も奴は嫌いだが、死んで欲しいとまで思っていない!」

「アラちゃん! 私もそこまでは思っていないわよ~。勘違いしちゃダメ~。う~ん、うまく説明できないけれど、何なら彼に直接聞いてみれば~?」

「え? NGMLが、これ以上俺と奴が接触するのを許すとは思えないのだけど? 増してや俺の事は機密事項だ。奴にばらしたら、それこそ何をするか分かったものじゃない。」

「松井さんは、特に止めないんじゃないかしら? 何故なら、彼がNGMLに来て、この実験に参加したら、遅かれ早かれアラちゃんの事はばれるでしょうね。そして、モニター契約の書類を見た限りじゃ、あの書類にサインをしたら最後、完全なモルモットね。当分NGMLから出られるとは思えないわ~。」


 うわ!

 そんな凄い内容なのか!

 そしてそれは、姉貴が釘を刺した結果と言うべきか?


「でも、奴の保護者とかはどうだ? そんな内容に同意するとは思えないが?」

「あら。彼、立派な…とは言えないけど、社会人よ。詳しい年齢は言えないけど。」


 げ! 俺はてっきりまだ学生、それも高校生くらいだと思っていた。


「う~ん。なら、そっちの心配は無いのか。まあ、もし今度会う事があれば、その時に考えるよ。」

「アラちゃんはそれで宜しい! 私も彼に少しは同情するけど、やはり自業自得よね~。そしてアラちゃんは、これからの事を真剣に考えなさい! 絶対に自分に嘘を吐いちゃダメよ! じゃ、私もローズちゃんの授業の準備をするわね~。なので、暫く席を外してあげるわ~。」


 姉貴は、最後に意味深?いや、意味不明?な台詞を残してコールを切った。

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