第64話 不思議なライト
不思議なライト
俺に幾ばくかの希望が見えたところで、姉貴は消えた。
その後はクリスさんも来たので、そろそろ行こうかという話になり、『出雲の国』に飛ぶ。
「あ、忘れとったわ。クリス、頼むわ。それ、シンさんにや。そこのギルドの出店で交換しといたわ。今のシンさんにはこれが最高やろ。あ、後これもか。」
サモンはそう言って、例の『天の羽々斬剣』を、クリスさんは一弦の弓を俺に渡した。
「ふむ、今使っているトリスタンの弓より、命中補正が無くなった分、攻撃力がかなりアップしているな。でも、いいのかな? 皆で取ったアイテムを、俺の武器に交換してしまって?」
「シンさんのおかげで、皆コンプできるんやし、誰も文句言わへんやろ。ほんで、これでこのパーティーの装備はほぼ完璧や。もっとも、まだまだええ武器とか防具とかは出るかもしれへんけどな。」
確かに、タカピさんの武器は、現時点では最高威力。ローズ達、エンドレスナイト組のは、当然最高の物で統一されている。カオリンは先日の義元左文字をどう改造したかは知らないが、あれも最高級の武器なのは間違いない。防具に関しても、最初に一通りサモンから貰ったし、これ以上は望めないだろう。
「じゃあ、遠慮なく頂くよ。うん、サモンさん、クリスさん、ありがとう。あ、後で他の人にもお礼を言っておかないといけないな。」
「シンさんは本当に真面目と言うか、律儀ですわね~。なんかローズちゃんや、カオ…、いえ、気持ちが分かる気がしますわ。」
ぶっ! 何を言い直そうとしたのかは分からないが、ローズとの事は、しっかりクリスさんにもばれていた。
「ほな、シンさんからお先にどうぞや。丁度、待ってる奴もおらへんしな。」
「うん、ありがとう。しかし、今考えてみると、ローズはともかく、タカピさん、良く一発でクリアできたな。タカピさんのHPじゃ、八本の頭、うまく止めを刺していかないと、一発喰らっただけでも死ぬか強制退場のはずだ。」
「あ~、あの人だけは別やろ。消費アイテムの倉庫みたいな人やから。それと、槍の遠距離攻撃スキル、『如意棒』も取ってはったしな。」
なるほど、納得だ。
タカピさんなら、俺達だと勿体無くてそうそう使えないような消費アイテムでも、ガチャで手に入るものなら、それこそ山のように持っているはずだ。
あのボスの攻撃範囲は、それぞれの頭から約3m。俺の弓だと範囲外から攻撃できるが、近距離攻撃が主体のアタッカーだと、結構厳しいと思っていた。しかし、そういうスキルがあるなら話は別だ。当然、ローズも何か持っているはずだ。
「じゃあ、お言葉に甘えて、先にやらせて貰うよ。」
「行ってらっしゃいですわ。それで、シンさんも一発頂いたらアウトなのは一緒ですわ。」
「せやな。せやけど、うちのオーナーさんに限ってそれはないやろな~。」
二人はにやにやしながら俺を見送る。
う~む、なんか妙なプレッシャーをかけられてしまった。
扉を潜り、カオリンがやった手順通りに進める。
すると、やはり大蛇の台詞が微妙に変わっていた。
「「「「「「「「ほほ~う。そなた、素戔嗚か。
変わったのはここくらいで、八岐大蛇は前回と同様に酒樽に頭を突っ込んで寝てしまう。
後は簡単だ。俺は尻尾に走り、サモンに借りた剣を振り下ろす!
『天叢雲剣 特殊効果:武術系統のリキャストタイム無し。』
うん、タカピさんの情報通りだ。
俺は早速それを装備する。
「よし、次は削りの作業か。注意しないと、カオリンの二の舞だけはごめんだ。後でサモン達に何を言われるやら。先ずは、パワーブースト!」
更に俺は称号を『災厄を屠りしし者』に付け替え、矢を連射して行く!
順調に削れて行ったが、やはり俺だと、若干攻撃力が足りないようだ。
最後の頭、後少しという所で、時間切れになったしまった!
「「「「「「「なんじゃ~? せっかくいい気分じゃったのに! 貴様、何をしておる! そうじゃ! 姫はどこじゃ? ふむ、そこか!」」」」」」」
ふむ、ここもほぼ変化無し。
そして、八本の頭が一斉に目を開き、俺を睨む!
「ヤバ! じゃ、鬼ごっこの時間だ!」
俺は大蛇の本体から、一目散に逃げだした!
うん、こうなることを見越して、かなり距離を取っていたのが正解だったようだ。
大蛇は頭を揃えて俺を追って来る!
「うん、いいかたまり具合だ! パワーブースト! ヒットアップ! 無慈悲なる槍雨! 無慈悲なる槍雨! 無慈悲なる槍雨! 無慈悲なる槍雨!」
俺は、この為に取って置いた弓の範囲攻撃スキルを連発する!
「ぬぉぉぉ~! 口惜しや! この水龍と呼ばれた儂がやられるとは! 流石は神の一族、その力、認めてやろう!」
後は前回と一緒だ。
少々罪悪感はあったが、NPCのキスを頂いて、胸を張って扉を潜る。
転移装置に出て、サモン達の待っているクエストの入り口である建物に走ると、何やら騒がしい。
「たった一つのギルド、それも少人数のが、神器クエスト3つのうち、二つを最初にコンプするなんて、不自然だよな~?」
「そうだね~、何かチートをやっている匂いがするね~。」
「そう言えば、VRファントムのオーナーのシンって奴、何か妙な噂を聞いた気がするぜ!」
「なんだ、なんだ? やっぱり、こいつらチート改造してるっぽいぞ! チートやってる奴はIDを抹消するべきだ!」
「「「「そうだそうだ!」」」」
げ!
例のギルドホールでデモやってた奴らだ!
全員、IDは伏せ、武器も防具も全て外したジャージ姿で、且つ、全く同じ茶髪イケメンのアバで統一されている!
そして、こともあろうか、サモンとクリスさんを5人で取り囲んでいる!
「あんたら、ほんまに鬱陶しいな~! わいらは、正当な手段でコンプしたんや! シンさんかてチート改造なんかやない! とにかく邪魔や! さっさとどかんかい!」
サモンが喚き散らしている!
クリスさんは、横で何やら口元が動いているところを見ると、大方、仲間に連絡を取っているのだろう。
そして、クリスさんは俺に眼が合うと、彼女は首を振った。
うん、意味は分かる。ここには来るなっていうことだろう。
だが、俺は黙っていられなかった!
そこに走り込んでいく!
「おい! お前等が用があるのは俺だろう! 俺がシンだ!」
サモンとクリスさんが、呆れたように俯いて首を振った。
「へ~、あんたがシンさんか! 詳しく話を聞かせて欲しいね~! チートでもなければ、こんな偶然、ありえないよね~。」
「ふむ、俺は全く不正はしていないが、それなら、ライトさんに聞いてみればいいだろう。お前等、VR真理会だろ?」
「え? ライト様とお知り合いなんですか? そ、それは失礼しました! で、ですが、ライト様から直接お話を伺うまでは、僕らも引けません!」
ふむ、こいつら、やはりそうだったか。
そして、あいつの言っていた事は本当のようだ。こいつら、あんな奴に『様』付けだ。
一体、何をどうすればこんな現象になるのかは分らんが、ここはあいつの威光に頼ってみるのが、最も面倒が無さそうだ。
俺がライトにメールを入れようとすると、背後から声がする。
「おい、お前達、エンドレスナイトの三柱に因縁つけるとは、いい度胸じゃないか。」
「全く、こいつら、ID隠して何やってんだか。サモンさん、クリスさん、こんなのに構っても意味無いですよ~。さ、行きましょう。」
「それで、この落とし前はどうつけようかね?」
どうやら、サモン達の仲間が間に合ってしまったようだ。
俺も、あまり大ごとにしたくは無かったのだが、こうなってしまっては手遅れか?
もう1時過ぎだなのだが、この街は結構クエストやイベントが多いので、まだそれなりの人通りはある。
周りの連中は、何事かと足を止め、野次馬になっている。
エンドレスナイトの連中が、サモンとクリスさんの側に駆け寄る。
「あ~、すまんな~。もう済むとこやってんけど。でも助かったわ。おおきに。」
「そうですわね。私もまさか本当にあれが効くとは信じられませんでしたわ。シンさん、流石ですわ。」
新に加わった三人も俺を見る。
「え? 貴方があのシンさんでしたか。サモンさんも人が悪いな。後で俺達にも紹介して欲しいよね。」
「そうだよ~。というか、シンさん、何でうちに来てくれないんですか?」
「うん、シンさんなら皆大歓迎だ。サモンさん、ちゃんと誘ったの~? あ、俺はマチョマチョ。以前、ローズちゃんと一緒の時、会いましたね。」
ぐはっ!
何でこうなる?
「アホ言わんといてや。シンさんはVRファントムのオーナーさんやで? わいらのギルドに入る訳あらへんやろ? せやから、わいらもシンさんところに入れて貰てるんやないか。」
おい、サモン、そういうあんたは何だ?
三柱とまで呼ばれる、れっきとしたオーナーさんだろ?
「まあ、それなら仕方無いか~。じゃあ、シンさん、暇な時、是非うちに遊びに来て下さいよ~。この前ローズちゃんが自慢しまくりで、こっちもご馳走様でしたよ~。」
ぶはっ!
そうか、ローズの奴、あの恋人クエストの後だな。
しかし、この人達、今の説明で納得するんかい!
そして、さっきの一触即発な雰囲気は何処へやら。
一気にほのぼのとしてしまった。
ライトの同志とやらも、呆気に取られている。
そこへ更に背後から声がする。
「おやおや、シンさん、さっきぶりですね。いや、失礼しました。この同志達にはまだ説明していなかったんですよ。」
ふむ、問題の元凶の御光臨と。振り返ると、茶髪ジャージが一人。ゆっくりと向かって来る。
そして、ライトは更に続ける。
「同志諸君、このシンさんは、不正はしていないね。僕と同じように、単に選ばれた人間だよ。そして、喜んでくれ! 遂に管理側が僕達に膝を屈した! 僕は明日、管理側と直接交渉をしに行く事になりましたよ。彼等も、どうやら僕の力に興味があるようです。」
「「「「「おお~! 流石はライト様です!」」」」」
何だ何だ? この流れは?
NGMLが、何故このアホと話をする必要がある?
それも、直接ってことは、ライトがNGMLに出向くってことか?
話だけなら、以前のように呼び出して終わりでは?
「じゃあ、そういう訳で、今日は失礼しますよ。そうだ、シンさん、話は聞きましたよ。どうやら、ここもコンプしたようですね。選ばれた人間同士、今度色々と教えて下さい。あっ、でも、もう必要無いですね。僕が作った人に聞けばいいだけでした。」
う~む、さっぱりわからん。
まあ、後で姉貴に聞けばいいか?
「じゃあ、同志諸君、ここに集まっていては皆の迷惑になります。一旦戻りましょう。」
「「「「「ライト様の仰せのままに!」」」」」
連中は去って行った。
残された俺達は呆然と見送る。
しかし、サモンだけはうんうんと頷いている。
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