第62話 愚者の利用方法
愚者の利用方法
その男は、入って来ると、空いていたソファーに深々と腰を沈めた。
葉巻とかを持っていたら、火を点けそうだな。
アバターは、デモ隊仕様の茶髪イケメン、プラス、無装備状態のジャージ姿。
IDが表示されなければ、本当に誰だか分らない。
「おや、これはお揃いですね。やっぱり、一人じゃ何も出来ない人なのは相変わらずなようですね。僕はライトニングサークル。元フォーリーブスと言えば早いでしょう。うん、僕の事は、気軽にライトさんと呼んでくれていいですよ。言っておくけど、これはシンさんだけの特例です。同志は皆、様付けですからね。」
ぶっ!
見事な三段重ねのIDは、そう言って自己紹介した。
もう、何処から突っ込んでいいか困るな。
レベルは45。マイナス状態でのレベルの上がり方は分からないが、あの短期間でかなりのパワーレベリングに成功したのは間違いないだろう。
おそらく、他の能力値はともかく、HPとMPだけなら、既に俺より上のはずだ。
そしてこいつ、以前のおどおどしていた態度が全く無くなっている!
おまけに、言葉遣いそのものは丁寧だが、かなり尊大な感じだ。
ふむ、同志とやらが出来て自信を持ったというところか?
しかし、これだけ分かり易い奴も珍しいな。
「それでライトさん、今日はどういった話なんだ? 前回みたいのなら、御免だぞ。」
「あ~、シンさん、あれは確かに、僕が誤解をさせられていたようですね。しかし、あんな物を見せられれば、誰だって騙されますよ。あれから、桧山という人から聞きました。そう、貴方は不正をしていない。只のメイガスだと。管理側も怪しい奴が居ると、貴方を見張っていたけど、不正らしきものは見つからなかったと、嘆いていましたけどね。そして、あのおばさんは、またあらぬ罪を僕に擦り付けた事で満足したようです。全く管理サイドは常に横暴ですよね。」
う~む、桧山さん、一体どういう説明の仕方をしたんだろう?
もっとも、普通に俺は不正をしていないという内容でも、こいつの頭の中でどう変換されたかは謎だ。こいつ、微塵も己の非を認めていない。
ライトは尚も続ける。
「そういう事で、今までの事は、全て水に流してあげましょう。貴方から管理側に和解したとメールをしてくれてもいいのですが、もうそんな必要はありませんね。僕が許してあげるのだから、それでいいでしょう。」
ぶはっ!
こいつ、全くぶれないな。
深読みすれば、こいつは、今の三段重ねのIDが気に入ったってところだろう。
カオリンとローズが立ち上がりそうになったので、タカピさんとクリスさんが、慌てて止める。
「俺もあの事はもうどうでもいいのだけど、それで?」
「ええ。そのメイガスの話です。僕も、以前は情報系のくだらないギルドに所属していたので、噂くらいは聞いています。不正改造の結果、魔法の詠唱時間がゼロになるツールが出回ったらしいですね。僕も詳しくは知らないのですが、知り合いがそれを使っていたようです。彼は、せっかくそのツールを手に入れたはいいのだけれど、すぐにそれが使用できなくなったと泣いていましたよ。」
なるほど。知り合いイコールこいつは、手に入れたけれど、すぐに補正プログラムがアップされてしまって、使えなくなった訳だ。ふむ、それなら俺が不正だと決めつける根拠にも納得だ。自分がやっていたから他人もそうだと。奴からすれば、最新のチートツールが出回ったと思ったのだろう。
「うん、管理側の対応の結果、どうやらそうらしいな。」
「それでですね、シンさんが不正をしていないのならば、何故あれができるのかを教えて欲しいですね。教えてくれれば、同志にも、シンさんは不正をしていないと、僕からも納得させてあげられますからね。」
あ~、こいつがここに来た理由がようやく理解できた。
要は、チートのやり方を教えろって事だ!
自分ではチート反対って叫んでいるくせに、実は欲しくて堪らないと。
どっかの、独裁反対って抗議している政治家みたいだな。彼等も、いざ自分達が権力を取ると、前政権以上の独裁に走ってしまったようだし。
「う~ん、残念ながら、それが解れば苦労はしない。ここに居る仲間が、俺と同じでない事から、それは理解できるだろう。そして、俺も全く意識していない。普通にやった結果があれだ。」
「やはりそうですか。確かにそれは残念ですね。」
そこで俺は閃いた。
うん、こいつもその秘密が知りたいのは間違いない。
そして、こいつが知ったところで、このサイトでは特に問題もあるまい。
俺やブルみたいな奴が一人増えるだけで、特に他人の迷惑になるとも思えない。もっとも、PVPではかなり有利になるのは間違いないが。
それに、どうせこういう奴は、自分が知ったら最後、他人に教える訳が無い。なので、下手に情報が広がる恐れもなかろう。
「なら、ライトさんも俺以外のメイガスを探したらどうだ? 共通点が判明すれば、原因が解るかもしれない。現在、俺は一人知っているので、色々と相談させて貰っているけど、まだ理由は謎なんだよ。」
そう、もしブルみたいな人が他に居るのならば、その危険性を教えてあげなければならない。
また、ひょっとしたら、バットマンさんの情報網に更にかかるかもしれないが、網を広げておいて損は無いだろう。
ちなみに、もしこいつが俺と同じになったとしても、全く同情はしないが。
「ああ、ブルーベリーさんですね。彼もそういう噂ですね。ですが、彼の仲間が自分達の既得権益を守るせいで、なかなか彼に近づけないんですよ。でも、シンさんが知り合いなら丁度良かった。早急にチート廃絶の為に、共通点とやらを探して、僕に教えて下さい。そして、僕も他のメイガスが居るか探してみましょう。」
「うん、ありがとう。それでその、昔使われていたという、チートプログラムにも興味があるな。それの仕組みが詳しく分れば、ヒントくらいにはなるだろう。幸い、俺の知り合いに、そういうのを解析するのが得意な奴が居る。後、メイガスを探すのなら、素戔嗚チャンネルのお祭り騒ぎと、ギルドホールでのあのデモは邪魔になるな。あれじゃ、居たとしても、皆、隠れてしまう。」
解析が得意な奴とは、当然NGMLの事だ。俺もリアルがあれば協力できるだろうが、今の身体では不可能だ。自分でしたいのは山々だが、ここから外部のPCを操作とかできない。
そして、この一連のメイガス騒動を、こいつがやったのは間違いないのだが、そこはあえて断定しない。こいつも、この話の流れならば、自分が中心になってやっていたとは認めたくはないはずだ。
「そういうことなら、僕の知り合いも喜んで協力してくれるでしょう。ええ、後でメールに添付してあげますよ。素戔嗚チャンネルとデモ隊は、僕の力で何とかしてみましょう。では、何か分かったら、くれぐれも僕に報告して下さいね。」
「じゃあ、よろしく頼むよ。」
ライトは、これで満足したのか帰って行った。
奴としては、自分もメイガスになれるかもしれないと、期待に胸を躍らせているのだろう。もっとも、俺みたいになるかもしれないのだ。原因が解れば、即座にNGMLが対応して、そんな危険性を野放しにする訳も無く。
あ、でも、モルモットが増えると喜ぶかもしれないな。
しかし、今までの連中の対応からすれば、そこまではしない…か?
奴が出て行ったので、皆、一様にほっとした表情になる。
まあ、ローズとカオリンに至ってはキレかけていたしな。
そして、サモンがにやつきながら話しかけたきた。
「いや~、シンさんもなかなかやな~。せやけど、わいやったら、あいつの今のステも聞き出しとったとこやけどな。」
「サモンさん、ありがとう。だが、あいつのステを知ったところで、意味は無いだろう。PVPでまた勝負するとかなら話は別だけど。」
「そうね。でも、シン、あたしはあなたが段々擦れて行くようで、少し悲しいわ。よく我慢出来たわね。」
「そうっす! あんな奴とまともに話をするシンさんは見たくなかったっす! あたいは良く分らなかったっすけど、狸と狐の化かし合いみたいっだったっす!」
「まあまあ。でも、シン君。そのチートプログラムとやらは使えるかもしれませんね。僕も興味がありますよ。」
「シンさん、凄いですわ! そして、ローズちゃん、あれは化かし合いとは呼べませんわ。彼が一方的に踊らされただけですわね。では、私の方では、仲間に頼んで連中の監視を強化しておきますわ。」
「うん、クリスさんもありがとう。」
しかし、さっきの会話で、いったい俺は何枚舌を出したのだろうか?
正直に言えば、カオリンじゃないが、自分でも良くキレなかったものだと驚いている。
朱に交われば何とやら。サモンの影響かもしれないな。
ちなみに俺は、奴に対しては何一つ約束をしていない。
その後、ローズが前回のフォーリーブスとの話を皆に教える。
カオリンは既に聞いているので、特に反応は無かったのだが、サモンは大笑いし、クリスさんとタカピさんは、完全に呆れ返っていた。
結局、その日は時間も遅くなったので、そこでお開きとなる。
サモンはまだ何かあるような感じだったが、後でクリスさんと一緒にあのクエストをやりに行こうとだけ約束して、皆と一緒に消えていった。
皆が消えてから、すぐにライトからメールが来たので、早速新庄に転送しようと思ったら、既に開封済みになっていた。
ふむ、連中も今の会話を聞いていたのは間違いないな。念の為、転送はしておいたが。
サモン達との約束の時間まではまだ時間があるので、俺もライトから送られてきたチートプログラムを見てみる。
う~ん、やはりこれだけじゃ、何か分からないな。せめて、素戔嗚の元のプログラムが見られれば、凡その見当はつくのだが。
そこに、あの妙竹林な三頭身美少女が現れた!
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