第61話 フォーリーブスの目論見

           フォーリーブスの目論見



 ローズが戻って来たので、ここで全員、一旦ギルドルームで祝勝会をという話になった。

 ちなみに、サモンの剣の攻撃力は全回復したそうだ。


 さっきの人達もそろそろ戻ってきそうだし、これはこれでいいだろう。

 サモンとクリスさん、そして俺は、後で深夜の人の少ない時間帯にやるつもりだ。カオリンは、朝、大学に行く前にやると言っていた。時間にしても15分くらいなので、それこそ朝飯前だろう。もっとも、彼女の場合は、また熱くなりすぎての削りすぎが心配だが。


「「「「「「かんぱ~い!」」」」」」


 皆、かなりの上機嫌である。

 それはそうだ。3つの最高難易度と称される神器クエストの内、二つにVRファントムの名前が載ったのだ。


「それで、アレに関しては、俺達はいつでも取りに行けるとして、サモンさん、やはり、次は最後の神器、『八咫鏡やたのかがみ』のコンプリートを狙うか?」

「せやな~、しかし、あそこも全く見当がつかへんねん。まあ、今回みたいに、一度皆でクリアしたら、ええ案も出そうや。」

「そうですね~。うちは、エンドレスナイトとは、違った目線が出来るようですから。」

「まあ、情けない事に、タカピさんの言いはる通りやわ。はっきし言って、ここは空気が違うねん。エンドレスナイトやと、どうも、皆わいに気を遣うてるんか知らんけど、意見があんま出えへんねん。まともに意見してくれるんは、ローズちゃんとクリスくらいなもんや。せやけど、ここは違う。誰かが何か提案したら、皆、真剣に考えて、ほんでもって意見を出してくれる。これは凄い事やと思うで。」


 ふむ、やはりか。

 何故、うちだと意見が出易いのかは分からないが、確かに、サモンの言う通り、うちは全員、遠慮無く物を言う。

 俺にカリスマが無いのが原因だろうか?

 そもそも、俺は只の飾りのオーナーだ。

 タカピさんもカオリンも、俺の事を気遣ってここに居てくれている訳だし。


「ところで、話は変わるが、あの変なデモ隊、居なくなったな。てっきり、こういう人通りの多い時間帯にやるものだと思っていたけど?」

「そうね。でも、連中が今何をやっているかは想像がつくわ。」

「せやな。リーダーは、レベル-50のフォーリーブスや。」

「え? あの子、そんなペナルティーを与えられたのですか? NGMLも容赦無いですね~。でも、それなら再登録した方が早いじゃないですか?」


 うん、タカピさんの言う通り、俺もそれが不思議だった。


「シンさんは、あいつが珍しい存在だから、あいつらが集まったって考えっすよね。」

「うん。だからああいう集団を作る為だけなら、あの三段重ねのIDが、四段重ねになった方が、もっといいと思う。だけど、あいつはそうしない。何故だろう?」

「理由は明白よ。その方が都合がいいからなのよ。あたしの考えでは、今、あいつらがやっているのは、頭数が揃ったところで、フォーリーブスのパワーレベリングよ!」

「せや! わいも同じ考えや! レベル-50でも、しっかり最低限のHPとMPはあるはずや。確かに、他のステはマイナスやろけどな。ほんで、そこからレベルが上がって行ったらどないなると思う?」

「あ! 分かりましたわ! 彼は、HPとMPに限り、レベル上限が50増えたのですわ! つまり、レベル99になったら、最低でも、HPが15000になるのですわ!」


 なるほど。これなら俺も納得だ。

 HPとMPは、レベルが1上がる毎に100増える。

 つまり、レベル99だと10000になるのだが、そこに取得したスキルによるボーナスが加わり、最高で20000になるのではないかと言われている。

 例えば、ローズはそういうHPが上がるスキルを沢山取得しているので、現状では、HPが約18000。しかし、MPは15000も無い。そして、クリスさんだとその逆だ。


「どうやら、それが彼の狙いのようですね~。最終的に2万を超えるHPとMPを得られるのは、彼のみでしょう。」

「けど、それって、それこそチートじゃないっすか? 奴ら、チート反対って叫んでたっすよ?」

「う~ん、管理側のした結果だから、ルールには何も違反していないな。問題があるとすれば管理側の不手際だ。そして、今更処罰内容を変えると言えば、奴は間違いなくごねるな。その相手をする事を考えれば、放っておくだろう。現状、誰の迷惑にもならないし。」


 また、俺とブルにとっても、レベル上げをしていてくれる方が、下手に騒がれないだけ、遥かにマシだろう。


 すると、クリスさんが何やら小声で話し出す。

 ふむ、コールしているのか。


「やっぱり、あの連中、レベル上げをしているみたいですわね。今、クエストから戻ってきたメンバーから連絡がありましたわ。」

「せやろな~、場所も想像つくわ。」

「ええ、あの『八尺瓊勾玉』クエストのダンジョン内ですわ。あの、密集している鬼と天女をひたすら狩っているそうですわ。後から来た人達には、露払いをしてあげると言って、狩らせないそうですわ。」


 ぶはっ!

 幸いにも、俺達はどうやら入れ違いだったようだ。

 しかし、あのダンジョンを本気で一からクリアしたい人達からすれば、いい迷惑だろうな。


 そこにインターホンが鳴る。

 まだ11時前だし、ログインしている人は多いだろう。噂を聞いての、情報目当ての奴だろうか?

 ローズが出てくれたが、何やら、妙な様子だ。


「とにかくちょっと待つっす!」


 ローズがこっちに振り返る。


「シンさん、ライトニングサークルって奴からっす。元フォーリーブスっすね。シンさんと話がしたいらしいっす。」


 ぶはっ!

 噂をすればって奴だな。エンドレスナイトの人達がクリアしている間に、一狩り終えたと見ていいだろう。


「話の内容次第だな。前回のようなのなら、当然却下だ。」

「それが、ちょっと違うみたいっす。和解とかの話じゃなくて、メイガスについての話みたいっす。」


 ふむ、俺も既に奴の謝罪は期待していないが、メイガスについての話なら別だ。 俺も聞きたい。

 腐っても、元は情報系ギルドに居た奴だ。何か有益な情報を持っているかもしれない。


「皆、多分、不愉快な気分になると思うのだけど、それでも俺は彼の話を聞いてみたい。構わないだろうか?」

「そうね。もし、ブルちゃん以外のメイガスの情報とかなら、逃せないわ。」

「そうですね。それに、上手くすれば、素戔嗚チャンネルでのチート騒動も収束するでしょう。」


 うん、タカピさんの許可が出たなら、問題は無いだろう。

 サモンも居るし、少なくとも、大きなトラブルにはならないはずだ。


 俺はモニターを不可視にしてから、返事をする。


「うん、ローズ、通してやってくれ。」

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