第35話 二人だけのクエスト

        二人だけのクエスト



 午後の予定をローズと相談した結果、『ゲルマン』にあるクエストをしようという事になった。俺も海外のクエストは初めてだし、和風クエストばかりじゃ飽きるという、ローズの意見に従う事にした。


「で、そのクエスト、俺達二人でも行けるような奴?」

「それは勿論っす! と言うか、推奨レベルは70で、ボス部屋に入れるのは二人までっす。」


 ふむ、なら問題無いか。俺のレベルも昨日のイベントで、現在58だ。ローズと一緒なら何とかなるだろう。

 そして、『素戔嗚』には、こういう人数制限の厳しいクエストが結構ある。ソロでやる奴や、少人数のパーティーに配慮しているのだろう。


「で、クエスト名は?」

「い、行けば分かります! コンプの方法も知っていますし、シンさんとでないと無理なんです!」


 再び顔を真っ赤にするローズ。

 う~ん、何か怪しい。俺とでないと無理と言うのなら、メイガスが必要って意味になる。ならば、クリアできる奴はそうそう居ないはずだ。

 しかし、反対する理由も特に無いし、嫌なら他に行きたい所は?と、聞かれても困るので、大人しく従う事にする。


 『ゲルマンの街』の転移装置を抜けて、俺はローズに手を引かれる。

 かなり恥ずかしいのだが、前回同様、意味不明な理由をつけられ、離してくれそうも無いので諦めた。

 もう、勝手にしてくれ。


 街を出て3分も歩くと、すぐに大きな門が見えた。


「ここがダンジョンの入り口っす。あ、二人用のクエストなんで、パーティーを組み替えるっす。あたいがリーダーでいいっすか?」

「分かった。一旦解散させるよ。」


 俺はパーティーを解散させ、ローズのパーティーへ編入申請をする。

 当然、マッハで承認される。

 ローズの方がレベルが上だし、これは問題なかろう。そもそも今までは、雑魚な俺がリーダーと言うのが、不自然な訳で。


「じゃあ、入るっす!」

「おう!」


 扉をくぐると、そこは鬱蒼とした森林だった。

 そして、早速魔物が現れた!

 カラフルな衣装に身を包んだ、人型で小型の魔物。身長は50cmくらいだろうか? 全部で6匹居る。

 赤、青、黄色と、それぞれ衣装の色が違う。


「よし! ローズ! いつも通りでいいか?」

「あ! こいつらに攻撃しちゃダメっす! こいつら、味方っす!」


 何と! 確かに魔物が味方になるクエストがあるという話は聞いたことがあるが、俺は初めてだ。

 俺が振り翳そうとした杖を下すと、ローズは更に続ける。


「こいつら、あたいにバフ効果をくれるっす! 後、シンさんも魔物は絶対に倒しちゃダメっすよ! 一匹でもシンさんが倒すと、コンプできないっす。」

「分かった。前回の金太郎クエストみたいなもんか? それで、ここから既に始まっていると。」

「そうっすね。とにかく、あたいに任せて欲しいっす。あ、『ダブルアタック』とか、回復とかはOKなんで、宜しくっす。」


 ふむ、このクエスト、二人だけなので、この魔物達がサポートしてくれるという訳か。結構意地悪な設定が多いのに、ここはかなり親切設計だな。


 森の一本道を進むと、小人の魔物が、それぞれフルートやドラム、ハーブ等の楽器を手にし、踊りながらついてくる。なんか見ていて微笑ましい。


「出たっす!」


 見ると、狼の魔物だ。森林ダンジョンでは御馴染みではあるが、ちと数が多いか?

 1、2……、全部で8匹か!


 すると、後ろの小人共が歌い出した。


「さあ、王子様の応援だ♪ それ、ガードアップ!」

「さあ、王子様の応援だ♪ それ、パワーブースト!」

「さあ、王子様の応援だ♪ それ、スピードアップ!」

「さあ、王子様の応援だ♪ それ、マジックバリア!」

「さあ、王子様の応援だ♪ それ、マジックブースト!」

「さあ、王子様の応援だ♪ それ、ヒットアップ!」


 ぬお? こいつは凄い!

 ローズの身体が様々な色に光る。これはバフを受けている証拠だ!

 しかし、何だ? 王子?

 う~ん、訳が分らん。


 そして、ローズが突っ込んで行く! 

 全ての狼がローズ目掛けて襲い掛かる!


「オールスピードダウン! オールガードダウン!」


 俺も小人に負けじと、敵にデバフを与える。

 うん、前回のクエストが終わって、範囲系のデバフも取っておいて良かった。

 一匹ずつかけるのは流石に骨だし、5匹以上ならこの方が燃費がいい。


「やっぱ盾は要らないっすね!」


 ローズは盾を仕舞い、替わりにもう一本、斧を装備した。

 よし、来る! ここだ!


「ローリング『ダブルアタック!』アクシズ!」


 俺はローズの範囲攻撃に合わせて、攻撃力を倍増する魔法を唱える!

 ローズの身体が一瞬真っ赤に光る!

 うん、成功だ!


 だが、今回は、前回の金太郎クエストのように、一撃とはいかないようだ。

 全部生き残ってやがる! 

 もはや、彼女は完全に狼に取り囲まれる!

 しかし、ローズは狼共の攻撃を躱したり、二斧を使って防いだりして、完全に封じているようだ。

 まあ、全ステータスのバフを受けて、おまけに相手のスピードも殺いでいるのだ。

 彼女には容易かろう。


「お返しっす! 喰らうっす!」


 ローズがコンボで攻撃を入れていく!


「キャイン!」


 3発くらい喰らった奴が、光の環と共に消える!

 続けてもう一匹!

 しかし、やはり数が多い!

 ローズは挑発をかけていないので、一匹だが、俺に目移りする奴が出やがった!


 俺は杖を両手で握りしめ、身構える!

 うん、今の敵の攻撃なら避けられそうだし、杖でいなすこともできそうだ。


 すると、また背後の小人が歌い出した。


「「「「「「姫を守るは王子様♪ それ、サブスティトゥー!」」」」」」


 俺の身体が青く、ローズの身体が黄色に光る。

 ふむ、この魔法は俺も覚えてはいるが、まだ使った事は無い。身代わりの魔法だ。

 これは二人を指定してかけるもので、片方が次に喰らうダメージを、もう片方が全て引き受ける。味方限定ではあるが、重ね掛けも出来るので、何気に便利ではある。


 しかし、いくら俺がダメージを喰らわなくても、その分ローズが喰らう。

 なので、俺は狼の攻撃を軽く躱す。

 躱し様に杖で殴ろうかと思ったが、ローズの言った事を思い出した。

 そう、俺が止めを刺してはいけないのである。

 良く見ると、こいつのHPゲージは既にレッドゾーンだ!

 ふう、危ない危ない。


「それでいいっす! そのまま適当にあしらっていて欲しいっす!」


 しかし、なんかこれ、至れり尽くせりだな~。

 ってか、完全にローズの独り舞台では?


 俺がこの一匹に構っていると、ローズがこっちに来て、止めを刺した。

 向こうは全て片付けたようだ。


「うん、ありがとう。しかし、これって、俺、要らないのでは? 確かに俺の支援も少しは貢献しているようだけど?」


 俺は素直に聞いてみる。


「そ、そんなことないです! コンプの為には絶対にシンさんが必要なんです~っ!」

「ふむ、ボス対策? じゃ、俺は『ダメージキャンセル』要員かな? でも、それなら…」

「と、とにかく行けば分かります!」


 う~ん、やっぱり怪しい。

 しかし、ローズはそのままどんどん先に進むので、俺も慌ててついて行く。


 このダンジョンは完全に一本道のようで、真っ直ぐに歩いていくだけだ。

 途中、先程のように敵が出て来るが、小人の支援もあり、『ローズ一人で』屠って行く。もはや、完全に無双である。俺は申し訳程度に支援するだけだ。


 その調子で進んで行くと、目の前にログハウスと言うか、小屋が見えて来た。

 良く見ると、小屋には見覚えのある扉がついており、その手前が円形に光っている。


「おお~! 意外と早かったな! 1時間もかかっていないのでは? ローズ、あれがボス部屋だろ?!」

「そうっすね。安全地帯で少し休んでから行くっすか?」

「あ~、ローズに任せるよ。そもそも、全部ローズが倒してくれているので、俺は全く疲れていないから。」


 そう、このクエスト、さっきから俺は殆どする事が無い。ほぼパワーレベリング状態だ。


「じゃあ、行くっす!」


 ローズは扉の窪みに手を当てる。


「おいおい、打ち合わせとかしなくていいのか? ローズは大丈夫かもしれないけど、俺には未知のクエストだぞ?」

「あ、問題ないっす。中に入ってから指示するっす。」


 彼女は、そう言って俺の手を強引に窪みに押し付けたかと思いきや、続けて中心の白球に触れる!


「おい! いくら何でもこれじゃ……」

「だ、大丈夫です!」


 しかし、扉は音を立てて開いてしまった。

 う~ん、こうなってはもう後戻りはできない。

 俺は仕方無く、ローズに続いて入る。

 すると、何と小人達までついて来た。

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