第34話 姉立VRファントム高校
姉立VRファントム高校
結局、サモンの用事はそれだけだったようで、部屋を出て行った。
帰り際、何やらぶつぶつ言っていたが、大方、大会への対策を考えているのだろう。タカピさんとカオリンは、前衛としては既に申し分は無い筈だ。今日の戦闘を見ていれば俺でも分かる。二人共、そろそろ一系統だけならスキルの習得も極めそうだし。だが、実質5人でやる事になる訳で、そこを相手に突かれると苦しくなりだろう。
ちなみに、この大会、パーティー戦の場合は、チーム内の誰か二人が死亡すると、そこで負けが確定してしまう。なので、弱い奴から潰して行くのがセオリーになるだろう。
まあ、大会ではファントムカースも装備できないから、俺が出る訳にも行かないし、サモン達に楽しみながら考えて貰うのがよかろう。
さて、またぼっちになったので、俺は何かする事は無いかと考える。
ふむ、昨日の勉強の続きでもやるとするか。
どうせ、朝になればローズが来るから、その予習だ。
二人で一緒に考えるのもいいが、やはり年上として、俺が先生になってやりたい。
俺の教え方でも、分かり易いと言ってくれたしな。
俺はモニターをつけ、タブレット片手に教科書と格闘する。
やはり、抜けている所が結構あるので、そこをチェックし、改めて理解しなおすの作業だ。
昨晩同様、飽きてきたらTVで気分転換を繰り返し、気が付くともう朝のようだ。
ローズが来た。
「シンさん、お早うっす!」
「ローズ、お早う。今日は早いな。まだ6時半だぞ? あまり寝られなかったのか?」
まあ、昨日はあんなことがあったんで、興奮していたのかもしれないな。
ローズは挨拶をすると、すぐに俺の隣に腰掛ける。おい、近いぞ。
「あたいの場合は、昼寝とかするから、あまり寝られないのかもしれないっす。それに、身体も全く動かさないっすしね~。」
なるほど、精神的な疲れはあっても、肉体的な疲れはほぼないから、そんなものなのかもしれない。
「それでどうする? 昨日の続きをするか?」
「はいっす! 宜しくっす!」
「なら、最初の先生は私ね!」
へ?
この人、いつ現れた? それに先生って?
声の方向、隣のソファーを見ると、案内バニーが座っている。
当然ローズは俺の横で目を丸くしている。
「な、何故案内バニーちゃんがここに居るんすか?! ここ、ギルドルームっすよね?!」
うん、混乱するのは当然だろう。
もっとも、サモンの場合は、条件反射的に突撃して、お仕置きを喰らっていたが。
「う~ん、説明は姉貴、自分で頼む。それと、先生って意味も。」
「そうね、泉希ちゃん、初めまして。私はアラちゃんの『姉』で~す! ちなみにここで勤めていたりします。義理の姉と書いて『お義姉さん』。そう呼んでくれてもいいわよ~。」
おい! ストレートすぎるだろ!
まあ、少しでも隠す気があるなら、そのアバでは出んか。
後、『お義姉さん』って何だ? そして先生は?
「へ? ア、アラちゃんって? そして、お義姉さんって?」
まあ、そうなるわな。おまけにこいつ、IDは非表示のままだ。
これじゃ、自己紹介になってないだろ!
「そうね~。私の名前は『
「す、好きだなんて。そ、そこはいいです! それで、シンさん=アラちゃんで、貴女はそのお姉さんの敦子さんと言う事ですか?」
ローズは顔を真っ赤にしている。
「そそ。なので、もし泉希ちゃんとアラちゃんが結婚すれば、私は貴女の『お義姉さん』になる訳。アンダスタ~ン?」
ぶは!
「おい! 姉貴! 俺にその気は無い! そもそも、この状態の俺が結婚なんて、物理的に不可能だろ!」
「まあ、不可能かどうかは置いておいて、ここまではいいかしら?」
「は、はい、『お義姉様』! そ、それで、先生って?」
あ~、もういい。こいつら、俺の気持ちは軽く流しやがった。
「泉希ちゃん、貴女、高校行ってないわよね?」
「は、はいっす。この身体じゃ通えなかったっすし、勉強する意味も無いっすから。」
ふむ、ローズもやっと落ち着いたようだ。口調が元に戻ったな。
「勉強する意味があるかどうかも置いておいて、一つだけ言いたい事があるわ。」
ぬお? 姉貴がこうやって一拍置いた喋り方をする時は、とんでも無い事を言い出す前兆だった気が?
「私の弟に、お馬鹿な嫁は認めないわよ!」
ぐは!
「え? え? じゃ、じゃあ、あたいはどうすれば?」
「なので、私が先生なのよ。今から9時まで、私が教えてあげるわ~。その後はアラちゃんね。」
あ~、なんかやっと分かって来た。
俺に数学の教科書を渡したのも、記憶のチェックが目的じゃあなかった訳だ。
そう、学校に行けないローズに、俺が勉強を教えてやれと。
「ふむ、確かに姉貴は、英語とか国語とかの、語学系統は完璧だったな。そして俺は理数系と。でも、その他、歴史とか地理とかは? それと何よりもローズの意思は? ゲームしに来て、そこで勉強させられるって、理不尽すぎるだろ?」
まあ、昨日ローズに付き合わせた俺が言うのも何だが。
「ん~、そっちも一応当てはあるのだけど、それも置いといてっと。で、泉希ちゃんはどうなの? 私が教師じゃ不満かしら~? 嫌なら病院で通信教育でも受けて貰わない事には、アラちゃんの相手として、この『お義姉さん』が認めないだけだけど。」
「おい、姉貴、それ、もはや恐喝だろ? そして、俺はまだローズと付き合うとは一言も言っていないが?」
「アラちゃんの意見は聞いていないわ~。それで泉希ちゃん、どうする~?」
「はいっす! やるっす! 宜しくお願いするっす!」
即答かよ!
確かに勉強したいかどうかは本人の意思なんで、俺は関係ないかもだが、取引材料に出されている、俺の立場は無視ってどうよ?
まあ、過程はどうあれ、本人が勉強したいって言うなら、これでいいのか?
「じゃあ、決まりね! アラちゃん、あんたも語学は苦手だったでしょ! 特別に泉希ちゃんと一緒に、タダで私の授業を受けさせてあげるわ。」
ぬお? 俺もかい!
そして、俺にどうやら拒否権は無いようだ。
その後は、8時前まで国語の授業。
姉貴の奴、既に準備していたらしく、ローズにもノート用のタブレットを渡し、モニターを黒板替わりに、しっかり授業をしてくれた。ふむ、教材は『泉鏡花』と。俺にとってはかなり難解で、ローズも苦しんでいたようだが、彼女の方が理解は早かった。
なんかとても恥ずかしい。
そして、8時から9時前までは英語の授業。そこで姉貴は、これから寝ると言って落ちた。
「じゃあ、あたいも一旦落ちるっす。今日はお風呂なんで、少し時間かかるっす。」
「あ~、お疲れ様~。俺もその間、次の準備しとかんと。」
そう、モニターの書物の項目には、既に物理と化学の教科書がしっかりダウンロードされていた。どうやら、全て姉貴の手の平の上だったようだ。
ローズは10時半くらいに戻って来たので、12時半まで、数学と物理の授業を俺がやる。
化学は、抜け落ちている記憶が多すぎて、これは流石に予習していないと無理だな。
「うん、ローズお疲れ様。しかし、良く頑張ったな~。俺には姉貴の授業についていける自信が無いぞ。特に英単語の抜け落ち方は半端無かったな。」
「でも、『お義姉様』の授業、分かり易かったっすよ? も、勿論シンさんの授業もですけど。ふ、二人っきりの個人授業ですしね。」
ローズはそうやって、俺に肩を寄せて来た。
う~ん、気持ちは本当に嬉しいのだが、俺にはまだその気にはなれない。
「じゃ、じゃあ、今日はこれで終わりだ。明日もこんな感じでいいか? 勿論、ローズ次第だけど。」
俺が誤魔化す為に立ち上がると、支えを失ったローズがコテンとなった。
「な、その反応は何ですか! でも、明日も宜しくお願いします!」
まあ、今はこれでいいか。
俺も悪い気はしないし、何よりもローズのアバは俺のドストライク。
そして、怒った顔も可愛いと。
本当にセクハラしてしまわないかが非常に心配ではあるが。
「話は変わるが、サモンさんから、何かメール無かった?」
「あ、あったっす! PVPの大会に、VRファントムで出たいって。」
「うん、俺は参加できないから、代わりに姉貴がレベル下げ要員として出てくれるらしい。ローズもそれでいいのか?」
「そうっすね。PVP自体にはそれ程興味ないっすけど、VRファントムで参加ならいいっすね。シンさんが出ないのは、ファントムカースが装備できないからっすよね?」
「うん、万が一にも、俺のHPがレッドゾーンに入る所を、衆目に曝す危険性は冒せないな。」
勿論、もう一つ理由としては、俺が出る意味が無いのと、俺のチート性を公表したくないと言うのがでかいが。
「残念っす。でも、出るからにはクラス優勝目指すっす! あ、でも、カオリンとタカピさんはどうなんすかね?」
「ん~、カオリンはああいうの好きそうだし、参加決定だろ? タカピさんも、皆がいいなら断らないのでは?」
「そうっすね。それで、シンさん、これからどうするっすか? わ、私はシンさんの行くところなら、何処でも行きます!」
ぐは!
やっぱりこれはヤバい! この調子でずっと傍に居られたら、間違いなく俺は落ちる!
そう、恋愛経験に乏しい俺は、自分で言うのも何だが、かなりちょろいはずだ!
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