第32話 不動王の槍

        不動王の槍



 武士の一団は、サモンの手前で一旦立ち止まる。

 そして、そのうちの最もレベルの高い、95の奴が話しかけてきた。


「やあやあ、我こそは泰衡様が命にて、そこの館におわす、義経殿を討伐しに参った者! 主君も本意では無いと思われるが、これも世の習い! 大人しく我が刀の錆となれ!」


 それにサモンが答える。


「怪我せんうちに引き返してくれると、ありがたいねんけどな~。」

「我も本意ではないが、これも主命! そなた達こそ、そこを通すが良い!」


 なるほど、これはカオリンの言った通りだ。こいつらも命令で仕方無くと言った感じだな。

 うん、これならサモンの読みも当たっているだろう。

 そして、良く出来ている。

 まるで、歴史の舞台に居るようだ。


「そいつは無理や。しゃあない、やりましょか~。」

「参る!」

「ほな、挑発~。ほんで、ガードアップ! パワーブースト!」

「「パワーブースト!」」


 最後のやり取りと共に、武士の軍団は一斉に、サモンにかかってきた! 

 俺とクリスさんは、まずはカオリンとタカピさんを強化する。

 クリスさんの言った通り、レベルが確かにばらばらだ。

 最も低い奴がレベル1で、後は5刻みで、最高が95。

 という事は、俺とクリスさんの担当はレベル1、5、10、15の4人だ。


「シンさんは右手、レベル1と5の奴っす! カオリンはレベル50のそいつっす!」

「「フィジカルドレイン! フィジカル………」」

「こいつね! 兜割り!」

「これで死なないで下さいよ~! 五点連穿!」


 皆が一斉に攻撃に入る!

 サモンも、通常攻撃でレベル80の奴を削っている!

 サモンは、最高レベルの奴から退場させるかと思ったが、そうではないようだ。

 ふむ、レベルの高い奴はMP倉庫として残すつもりだな。

 また、サモンのHPも、ある程度は削ってくれなければ、HPを吸えないしな。


「カオリン! それ以上はシンさんに任すっす! タカピさん、深追いしなくていいっす! 抜けて来た奴はあたいが引き受けるっす! 挑発! ガードアップ! パワーブースト!」


 流石はローズだな。指揮は苦手かと思っていたが、問題無いようだ。

 まあ、俺達とは場数が違うしな。


「ま、参った!」


 瞬く間に、低レベルの4人が踵を返して引き返す!


「チッ! もうMP切れだ! クリスさん、そいつ、頼みます! サイコドレイン! サイコ………」

「了解ですわ! フィジカルドレイン!」


 俺は遠慮なく、サモンが残してくれている高レベルの奴からMPを吸収する。

 流石はレベル90。5回吸ったら、ほぼ満タンだ!


 クリスさんは、サモン達を抜けて、俺達の側を通り過ぎようとする奴を、杖で殴りながら削っていく!


 これで更に数人が引き返す。

 俺は引き続き、前衛の削り残し、HPが1/5くらいの奴からHPを吸っていく。

 ローズにも2人くらい向かったが、ローズは上手くあしらっているようだ。

 うん、順調だ。


「サモンさん! 俺のHPが満タンだ! 頼む!」

「おっしゃ! フィジカルドレイン! フィジカル………」


 サモンが5連続で俺のHPを吸ってくれる。

 そう、これをしておかないと、俺は引き続き吸えない。

 そのうち、クリスさんのHPも満タンになるはずなので、サモンは今回大忙しだ。攻撃を喰らいながら、フィジカルドレインを唱え続けている!


「おう、ええ感じや! これならいける! って、おい! 増援早すぎるやろ!」


 サモンがMPを吸い尽くした奴を片づけながら叫ぶ!

 見ると、また前方から武士の一団!

 こっちには、まだ7~8人くらい残っている!

 ヤバい! ローズまで抜かれてしまったら終わりだ!


「「フィジカルドレイン! フィジカル………」」


 まずは、クリスさんとローズに集っている奴から吸う!

 何故、増援のタイミングが早くなったかは不明だが、逃げ出した奴が呼んで来たと見るべきか?


 高レベルの奴だけ、クリスさんに纏めて削って貰おうかとも思ったが、撤退していく奴が邪魔だ。

 こいつらを巻き込むと、絶対に死ぬ。


「クリス君! この連中、デバフ(状態異常)は効くのですか?」

「それは気付きませんでしたわ! やってみますわ! オールスリープ!」


 何と! 残った奴、一人を残して後は寝てしまった!

 しかし、タカピさん、冷静だ! 俺は削るのに夢中で、全く思いつかなかった。


 そして、次の一団がサモンを襲う!

 もはや、サモンの周りは黒山の人だかりだ!


「あらあら、揃いましたわね。オールスリープ!」


 ぐは!

 これでほぼ全員寝てしまった!

 しかし、これはクリスさんの魔力だから可能なのだろう。多分、俺の魔力じゃこうは行かない。


 ふむ、俺は『真・八尺瓊勾玉』のおかげで、数人程度なら一瞬で全てにデバフをかけられる。そして、相手が少人数なら個別にかけた方が燃費もいい。まだ取っていなかったが、範囲系も取っておいて損はないな。今まではこんな集団を相手にしたことが無かったので、必要無いかと思っていたが、これは効率的だ。


 全員で寝ていない高レベルの奴の相手をする。

 いつの間にか、ローズもこっちに来ている。

 うん、門の前はもはや無人だし、いい判断だ。


「よし、このレベル95のMPは吸い尽くした! 撤退させよう。」

「おっしゃ! わいらに任せ!」


 とは言っても、サモンは小休憩のようだ。

 盾役はローズと交代し、削るのもカオリンとタカピさんに任せて、黙って見ている。

 そりゃ、あんだけの数を一人で相手にしていたんだし、当然だろう。それに、高レベルの奴とはいえ、下手にサモンが削ると殺してしまいそうだしな。


「カオリンちゃん! 削りすぎや!」

「ダメージキャンセル!」


 まさか敵に使う事になるとは!

 カオリンは熱が入ってしまったのだろう。危うく殺してしまうところだった。


「ご、ごめんなさい!」

「気ぃつけてや~。せやけど、そもそも敵を殺さへんゆうのが変則的すぎるんや! これはしゃあない! ほんで、流石はシンさんやな。わいには、敵に使うっちゅう発想は無かったわ。おまけにあのタイミングや!」


 ふむ、俺も咄嗟だったが、敵にも効くようだ。

 そいつは、HPゲージをレッドゾーンにして、来た道を引き返して行く。


 その後は簡単だった。

 一人ずつ削るので、かなり余裕も出て来た。

 もっとも、一時は寝ている奴の山が出来てしまったが。


「もう増援は来ないみたいっすね。」


 全員を撤退させ、ローズがそう言うと、門の中から弁慶が出て来る。


「ご助力かたじけない! しかも、誰一人殺さずにとは! 藤原氏には恩義もあるので、助かり申した! これは拙僧からの礼! 受け取って下され!」


 視界に大きく「CONGRATULATION!」と表示される!

 続けて「コンプリート!」と流れる!


「よし! コンプリートだ!」

「おっしゃ! わいの考えで間違うてなかった!」

「うん、苦労した甲斐がありましたね~。」

「皆さん、お疲れ様ですわ。」

「シン! 何貰えたの? 早く見せて!」

「なんか今回はあたいの出番が少なかった気がするっす…。」


 しかし、ローズは口ではそう言うが、満足そうな表情だ。

 うん、今回は誰一人欠けてもきつかっただろう。

 結果的には、タカピさんの閃きの大手柄だが、それも、最初の攻撃を凌げなければ無理だったはずだ。


「では、偉大な貴殿らの功績を、ここへの扉に残させて頂きたい! 承知して下さるか?」


 弁慶、そんな暇あるのなら、さっさと義経連れて逃げろよ。等と思うが、これには異存が無い。


「うん、頼む!」


 俺達は門に出現した扉を、胸を張ってくぐった!



「ま、他にも色々とやり方はありそうやけど、あれでええみたいや。で、シンさん、何貰た?」

「そうよ! さっさと出しなさい!」


 ギルドルームに戻ると、早速せっつかれる。

 俺は、一本の槍をアイテムボックスから取り出す。


「こいつは凄いぞ! 何と攻撃力300だ!」


 名前は『不動王の槍』、特殊効果は無いが、恐らく最高レベルの威力ではなかろうか?


「やっぱりっすね。あたいらの時は『弁慶の薙刀』で、攻撃力が240っす。最高威力の装備品は、普通は推奨レベル70以上から手に入るっすけど、これは破格っす!」

「そうですわね。これはまだまだ他にもありそうですわ!」

「そのようですね。しかし、これじゃ僕のこの、『ポセイドンの槍』が霞んでしまいますよ! インフレは勘弁して貰いたいものです。」

「せやから、ガチャの景品は準最高なんやて。金の力だけではあかんようになっとる!」


 皆が笑う。


「じゃあ、この槍はタカピさんだな。これで、ガチャの亡者を救えればいいんだけど。それに、今回の功績はタカピさんもでかいしね。皆はいいかな?」

「わいは、また後で皆に教えがてら取りに行くから構へんで。クリスも要らんやろ?」

「はい、私は後衛一筋ですわ。」

「あたしも槍スキルは持ってないから、タカピさんでいいんじゃない?」

「あたいも要らないっす。盾装備したら、槍は装備できないっすから。それに、私はシンさんから既に貰ってますから!」


 あ~、あの片手斧、『金時の鉞』か。しかし、あれは殆どローズの手柄なので、当然なのだが。まあ、喜んでくれていたのなら、それでいいか。


「お~! これは嬉しいですね~! じゃあ、遠慮なく頂きますよ。皆さん、ありがとう!」


 今日はこれで解散となった。

 うん、もう12時前だ。俺以外の奴は明日がある。


「ほな、リニューアルローズちゃ……」

「来ると思ったっす! 喰らうっす!」

「あたしも協力するわ!」

「あらあら。じゃあ、私もですわ。」


 サモンは女性陣三人に袋にされる!

 クリスさんの豊満な尻が、サモンの顔を押し潰している。

 ふむ、あの兎アバ、結構柔らかいようだ。そして、あれはセクハラにはならないと。

 しかし、サモンも懲りないな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る