第31話 衣川館
「よし、じゃあ作戦会議だな。サモンさん、頼むよ。」
「おっしゃ、皆、聞いてや。」
現在は、『衣川館襲撃』イベントの扉の前、安全地帯である。幸いな事に、中に入って居る組は居ないようだ。
サモンの話はこうだ。
この手の歴史物イベントの場合、紛争のどちら側につくかはプレーヤーに委ねられる。
ただ、史実を曲げるとなるとかなり厳しい。なので、コンプリートならば、こっちだろうという事だ。具体的には、俺達が弁慶になるという事である。
だが、当然それは皆、既に試している。しかし、今の所誰も成功していないらしい。
「私達も何度か試してみたのですけど、何故かクリアできないのですわ。義経の寝所、『
「まあ、クリアだけなら誰かしとるかもしれんけどな。ほんで、わいも考えた。このパターン、あれと一緒ちゃうんかってな。」
「あ! そういう事ね! 分かったわ! サモン!」
お、カオリンはこれだけで理解したようだ。残念ながら、俺にはまだ理解できていない。
クリスさんとローズも首を傾げている。
しかし、タカピさんは気付いたようだ。
「なるほど。今回も攻撃してはいけないって事ですね。」
「タカピさんも流石やな。ほな、理由はカオリンちゃんに頼もか。分かったんやろ?」
「なんか、偉そうな言い方ね! でもいいわ。理由は簡単よ。義経を襲ったのは、義経を匿っていた藤原氏。頼朝の圧力に屈してしまったのだけど、彼等も嫌々なのよ。だから、敵を全滅させちゃダメということでしょ?」
「おお~! 完璧やん! わいは必死でウィキったのに! ちとしょげるわ。」
「ふん、現役を舐めないでよね!」
ふむ、これなら俺でも理解できる。
しかし、これはきつそうだ! 『真・八尺瓊勾玉』の時もそうだったが、防衛戦は非常に辛い。しかも、あの時の敵は一体だったが、今回は大群で来るらしい。更に、防衛拠点である『衣川館』に敵が入ると、即失敗。これ、本当に可能なのか?
「しかし、大群相手に、殺さずに拠点防衛なんて、無理ゲーじゃないのか?」
俺は素直に聞いてみる。
「それがそうでもなさそうや。前回で気付いたんやけどな、敵はHPゲージがレッドゾーンになると、撤退するんや。なんで、クリアだけなら目処はついてんねん。ただ、コンプリートとなると、多分、一体も殺したらあかんはずや。」
「ふむ、でも、範囲攻撃とかで一気に削れば楽勝と?」
「今、私もそう考えたのですけど、シンさん、それは無理ですわ。敵のレベルがばらばらなので、HPも一緒じゃないのですわ。」
「じゃあ、クリス君、最低威力の範囲攻撃とかならどうでしょうか? 例えば、カオリンの『剣舞』とか、範囲魔法の『ブリザード』とかなら可能なのではないですか?」
「タカピさん、レベル1の奴までおる。例えタカピさんの魔法でも一撃やろうな。シンさんの素手の攻撃でも無理やと思う。」
「それじゃ、サモン! そもそも削れないっす! あたいの攻撃が掠っただけでも死ぬっす! 門を抜かれたら終わりっす!」
う~ん、遂にローズがじれてしまったようだ。
ふむ、確かにこれでは無理ゲーに見える。現状、この面子では、俺の素手での攻撃が最も攻撃力が低いはずだ。それでも一撃なら、ローズじゃないが打つ手は無い。
だが、サモンが計画している以上、必ず何か手を用意しているはずだ。
「分かったわ! シンの前回の試合ね! フィジカルドレインなら、1/10しか削れないわ!」
「なんやカオリンちゃん、もう気付いたんかいな。せや! わいもあれでヒント貰たんや! しかも、今回の敵はボスやないから可能や!」
そして、サモンはようやく今回の概要を説明する。
うん、これならいけそうだ!
まずは一旦パーティーを解散させる。そして、俺とクリスさんのHPを1/3程度まで削ってから、また編成し直す。これは必須事項だ。HPが満タンじゃ吸えないからだ。
ちなみに、レッドゾーンになるのはHPの1/10以下からである。従って、フィジカルドレインだけで削るのならば、9回唱えなければならない。しかし、リキャストタイム無しの俺達ならば楽勝だ。MPも敵から吸えばいいので、これも解決。もっとも、MP回復アイテムは、『八尺瓊勾玉』クエストの時の残りと、フォーリーブスの遺品?で、有り余ってはいるが。
「よし! じゃあ、いいかな? 開けるぞ!」
俺は皆が扉に手を当てている中、最後に、真ん中の球に手を当てる!
中に入ると、いきなり景色が変わる。ふむ、転移か。しかし、これは聞いていた通りだ。
どうやら俺達は、義経の『衣川館』の正面に居るようだ。
館は高い塀に囲まれており、正面に一か所だけ門がある。ここを敵に突破されたら終わりだ。
そして、その門の前に、坊さんみたいな衣装をした男が一人、巨大な薙刀を持って立っている。
ふむ、これが弁慶だな。
そして、その男が俺達に向かって叫ぶ!
「不審な奴! もし、この館に入ると言うのであれば、この弁慶が冥途に送ってくれるわ!」
「え~っと、弁慶さん。俺達、今回は貴方の味方です。」
俺は打ち合わせ通りに答える。
「なんと! ご助力下さると仰るか! ならば、拙僧は殿の側にて逃げる算段を致すのみ! もうじき、我らを裏切った者どもが攻めて来ましょう! ここはお任せ申した!」
弁慶はそう言い残すと、門の中に消えて行った。
ふむ、話が早くて助かる。
しかし、こいつと義経が居るのなら、一人くらい通しても大丈夫なのでは?
しかも、門は開けっ放しって。
結構適当だな。
等と愚痴りながらも、全員の配置を確認する。
先ず、ローズがその門の前に陣取る。そう、彼女が最終防衛ラインだ。
最前線にサモンを真ん中にして、左右にカオリンとタカピさん。俺とクリスさんは、その中間だ。
そして、ローズとサモンとの距離は、スキル『挑発』が、かろうじて届かない距離だ。
つまり、サモンが『挑発』し、そこをカオリンとタカピさんで削る。抜けた奴はローズが再度『挑発』。後は、俺とサモンとクリスさんで、レッドゾーンになるように微調整するという案配である。当然、低レベルの奴の相手は、専ら俺とクリスさんだ。
ちなみに、敵から吸収できるのは、俺とサモンとクリスさんなので、こういう配置となった。
「ええか! 敵は20人ずつ出てきおる! 居なくなったらおかわりや! それを5回や! レベル60以上の奴はわいとローズちゃんに任せ! そいで、15以下の奴はシンさんとクリスの専属や! 皆、慎重に削ってや~。特にカオリンちゃんな。」
流石はサモン! カオリンに釘を刺すのも忘れていない。俺もそれが心配だった。
「だ、大丈夫よ! 任して頂戴!」
「分かりました。う~ん、わくわくしますね~。」
「かしこまりましたわ。」
「ローズ、後ろからターゲットの指示、頼む!」
「シンさん、了解っす!」
前方の視界の端に、鎧を着た武士の一団が出現した!
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