第27話 メイガス
メイガス
俺がぼっちになると、コールが入る。
ふむ、桧山さんか。日曜なのに、俺のせいで出勤させられているのだろう。
何か悪いな。
「シンさん、今いいですか?」
「はい、構いません。」
「あの、メイガスの話なんですが、上も非常に興味を持っています。そもそも、設定上、『マジックキャンセル』とか、『ダメージキャンセル』が、あんなに成功するはずがないんです! それで、詳しくお話を聞かせて欲しいのですが。」
ふむ、姉貴の奴、どうやらいい線をついていたようだ。
「う~ん、皆にも言っているんですが、俺としては当たり前としか。」
「いえ、この魔法システム、まず、唱える魔法の種類を選び、そして、魔法を唱え始めてから、対象を設定することが可能になり、魔法を唱え終わるのと、対象が設定されるのとが満たされると、発動します。なので、普通の人は、当然魔法を唱えながら対象を設定します。遅い人なら1秒以上かかりますが、早い人なら、この一連の作業、短い魔法だと、コンマ数秒です。NPCだとコンマ5秒から1秒ですね。そして、当然、それを無効化しようとする方も、同じ手順を踏まなければなりません。しかも、対象を相手と自分と、複数を設定しなければいけないんです。相手が魔法を選んでから、こちらも魔法を選択しなければならないので、普通はそうそう間に合わないんです!」
ん? ローズの時もだが、どうやら、俺の方法とは違うようだ。
「え? 誰にどの魔法を唱えたいのかをイメージして、魔法を唱える。それで終わりじゃないですか? そんなの、一瞬でしょ?」
「え? それって、一連の作業手順を無視していますよね? しかも、ログを見た限り、シンさんの魔法は、唱え終わる前に発動していました! 普通はこんなのあり得ません!」
「う~ん、あり得ないと言われても、出来てしまっているのだから、俺には何とも。あ! 俺がデータ人間だからなのか? BAを通していないから、直接入力している? あ、でも、これって、俺が死ぬ前からだったから、違うよな。」
俺がぶつぶつと自問自答すると、桧山さんがそれに食いついた!
「はい、そこなんです! その可能性は確かにあるんです! BAを通さずに直接ならば可能かもしれません。だから現在それが出来るのには、まだ納得が行くんです。でも、シンさんは、生前の、BAを着けていた時からも、魔法を唱え終わる前から発動していたようなんです。なので、そこが疑問なんです!」
「う~ん、やはりそうですか。じゃあ、原因は何か思い当たりますか?」
「それが分かれば苦労はしません! 分からないから聞いているんです!」
うわ! なんか良く分らんが、俺、キレられてる?
「あの~、少し落ち着いて下さい。それで、俺のBAは調べてみましたか?」
「あ、す、すみません。勿論調べました! 当社のオリジナルの物で、何もいじっていなかったですね。新庄も着けてみましたが、シンさんのような現象は起こりませんでした。」
新庄、凄い度胸だな。
もし、成功?してしまったら、俺と一緒だぞ!
流石は研究者というところか?
「じゃあ、俺のPCはどうですか?」
「はい、それも試してみました。勿論、シンさんのPCは使えませんから、スペック的に同等と思われる物を用意したのですが、記憶の転移はおろか、魔法も無理でした。」
もはや捨て身だな。
しかし、そこまで本気ということだろう。
俺としては複雑な心境だ。
「う~ん、俺は特に変なプログラムも入れていないはずですし。あるとすれば、自作のウィルス解析用のソフトくらいか? でも、それが『素戔嗚』のプログラムに干渉するとは思えないし。」
「そうですね。そこら辺も調べたのですが、問題は無いようです。」
う~ん、これじゃあ、何も分らんな。
ただ、俺が他人と違うのだけは理解できた。
なので、たった一つの共通点と思われるメイガス探しは、非常にいい方法かもしれない。
「じゃあ、その、俺と同じように魔法を唱えられる人、『メイガス』なんですが、そちらでは発見できないのですか? そうだ! 姉貴宛てのメール、読みましたか?」
「それが、流石に全ユーザーのログともなると、不可能ですし、当然古い物は残っていません。敦子さんへのメールも読ませて頂きましたが、現在、その方は全くログインされていませんね。ログも残っていないので、本当かどうかも分かりません。勿論、その方に直接お話を伺う為に、今も連絡を取ろうとしているのですが、繋がらないのです。」
「え! という事は、その人は生きているんですね!」
「それも分からないのですが、恐らくは生きているはずです。BAの使用人の変更とかは届けられていませんから。」
ふむ、BAは、登録の義務があるから、その線から調べたのだろう。
分かったのが今日の昼だから、迅速な対応と言える。
しかし、捕まらないのじゃあ、意味が無い。
「分かりました。ひょっとしたら、俺の仲間の協力で、他にも見つかるかもしれません。」
「そうなんです! 本当にシンさんにはご迷惑をおかけしますが、現在はそれしか糸口が無い状態なんです! うちで全ユーザーに対してクエストを出すって話も出たのですが、やはり、公にはしたくありませんし、騒ぎにもなるでしょう。」
まあ、当然だな。
それをやられると、俺も焙り出されるだろうし、それで発見された人も気の毒だ。
しかし、今までの話を聞くと、メイガスはかなり希少な存在のようだ。
これは苦労しそうだな。
「そうですか。じゃあ、こちらも頑張ってみますので、そちらも引き続き宜しくお願いします。」
「はい。ところで、あの『フォーリーブス』って人、どうされますか? シンさんが望まれるのなら、こちらで何とでも出来ますけど?」
「い、いや、そちらが絡んでいる事がばれるのは流石に。大した問題でも無いですし。」
「いえ、彼、結構問題児なんですよ。うちの素戔嗚チャンネルに、先程、シンさんのIDが特定できるような、個人を中傷する書き込みがありました。当然、うちの方ですぐに消しましたが。投稿者のIPを辿ると彼でした。なので、目下処分待ちですね。」
ぐは! あいつ、逆恨みするのも大概だろう!
自分は反則みたいなことしておいて、よく出来るな~。
「それって、厳しい処分になるんですか? 例えばアク禁みたいな?」
うん、そうなってしまうと、アイテムが回収できない。まあ、現在の俺達ならば、地道にやれば、そのうちゲットできるだろうが。元々無かった物だと思えば、どうという事も無い。
「いえ、流石にそこまでは。ただ、レベルダウンくらいのペナルティーはあるかもしれませんね。」
「う~ん、レベル下げられると、あいつ、あの人達にアイテムを返せなくなるな。そうだ。もし彼がログインしたら、居場所を架空IDかなんかで、あのギルドに教えてやってくれませんか?」
「それくらいならお安い御用です! 私も、ああいうのは嫌いです!」
まあ、そらそうだ。あんなのを好きになる奴は居ないだろう。
しかし、管理サイドの協力って。よくよく考えると、それこそ反則だな。
でも、あいつのした事を考えると、これくらいは構わないか?
「じゃあ、そちらも宜しくお願いします。」
「はい。とにかく、少しでも可能性は見えて来たんです! くれぐれも先走らないで下さいね! 私もこの職は失いたくないんです!」
ふむ、やはり最後に釘を刺されるのね。
ん? しかし、最後の一言は何だ?
「え? 桧山さん、俺が死んだからって、貴女が馘って事は無いのでは?」
「はい、それはそうなんですが、今朝、日曜なのに、突然社長が視えて、シンさんの生死に会社の存続が委ねられていると。なんか、あの忠告の意味が分かった気がします!」
あ~、そういうことね。
こいつらの本気度の裏には、あの
「そうですか。彼女の行動力は未知数です。俺が言うのも何ですが、くれぐれも宜しくお願いします。」
「は、はい。」
桧山さんとの会話はこれで終わった。
しかし、姉貴の奴、一体何やらかしたんだ?
まあ、聞いても教えてくれないだろうし、きっと聞かない方がいいのだろう。
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