第25話 決着

         決着



 更に、相手の装備とかの話をしたところで、カオリンとタカピさんが来た。


「うん、これで全員ですね。皆さん、今日は。シン君、今日は気楽に行きましょう。」

「皆さん、今日は。あたしは見る事しかできないから、今日はシンの応援隊長よ! と言っても、闘技場じゃ声も届かないのだけど。」


 お~、これはいいな! かなり魅力的だ! 

 カオリンは何処で買ったか知らないが、チアリーダーの衣装をしている。


「うわ! カオリンちゃん、それ、最高や! ほな、遠慮のう……」


 ぐは!

 しかし、サモンはクリスさんに耳を掴まれ、引き摺り倒される。

 そこに、ローズの膝落としが極まったようだ。

 う~む、予想通りすぎて何も言えん。


「サモンちゃん、ここで落ちて貰っては困りますわ。最後まできっちりお願いしますわ。」

「せ、せやった! せやけど、そのアバどないしたん?」

「あ~、それはガチャの景品ですね。僕が着ける訳にも行かないので、処分に困っていたのですが、カオリンに欲しいと言われましてね~。」


 う~ん、これも読み通りか。

 しかし、ローズがこれを聞いて、タカピさんに何やら相談しているようだ。

 ふむ、何かたかっているのだろう。


「そ、それでシン、こ、これで少しはやる気出たでしょ? 今日は頑張りなさいね!」

「お、おう! 任せろ! うん、バニーちゃんにも負けていない!」


 少し恥じらう姿も魅力的だ!

 これがリアルなら、間違いなく惚れている!

 ふむ、俺ってちょろいのか?

 しかし現状、リアルの無い俺にとっては拷問かもな。



 全員で最後の打ち合わせを終え、俺達は闘技場のある街、『江戸』へ、飛ぶ。

 あちこちに看板が立ち、様々な施設が並ぶ、大都市の設定だ。

 俺達は、八角形の、そう、両国国技館をイメージした建物を目指す


 闘技場の前では、既に人が3人、待っていた。


 一人は当然、フォーリーブス。後の2人は知らない人だ。

 背中に翼を、頭にも二本の角を生やした、悪魔をイメージしたアバターの男と、身長180cmくらいの、茶髪イケメンアバターの男。


 フォーリーブスは、用心してか全く装備を着けていない。素のアバター、ジャージ姿だ。

 もっとも、俺も同じだが。


「サモンさん、今日はなのだ。今日はうちのフォーリーブスがお世話になるのだ。では、VRファントムの皆さん、僕は、ギルド『ドウプスター』のオーナーの『バットマン』と言うのだ。今日は宜しくなのだ。それで、そちらがシンさんなのだ?」


 悪魔アバターの方が挨拶してくる。


「初めまして、バットマンさん。俺は、ギルド『VRファントム』のオーナー、『シン』です。今日は俺の我儘を聞いて下さって、ありがとうございます。」


 皆も、それぞれ自己紹介しようとしたが、サモンに遮られる。


「あ~、今日の主役は、フォーリーブスさんとシンさんや。わいらの挨拶は、観覧席でええでっしゃろ。ほな、フォーリーブスさん、早速ルールの再確認しましょか。」

「わ、分かりました。え、え~っと、今回は、武器、防具、アクセサリーの変更は禁止と言う事で、アイテムフォルダー、アイテムボックスの使用は禁止。称号の変更は認める。以上でしたよね?」

「せや。回復アイテムとか使われたら、勝負にならへんからな。ほんで、後、もう一つあったはずでっけど。」

「あ、わ、忘れていました。試合中の事に関しては、ここに居る当事者以外、一切他言無用とする。でしたね。」


 ふむ、これはタカピさんがサモンに言って、付け加えさせたものだ。

 理由は分かる。『真・八尺瓊勾玉』の効果を洩らさない為の配慮だろう。


「うん、問題無いですわ。ほんで、賭ける物は、持って来はりましたか? うちは今、わいが着けています。」


 昨日同様、サモンは胸に光る勾玉を撫でる。

 相手三人の目線が、それに釘付けになった!


「は、はい。僕が預かっています。」


 フォーリーブスは、鞘に収まった、三本の小剣を取り出す。

 これは、ローズも現在腰に着けているのだが、注意して見ないと、普通の装備武器だと思って、見過ごしてまう。


「ええですわ、これでOKですわ。ほな、シンさんは右手の赤コーナーの転移装置に。フォーリーブスさんは、青コーナーや。ほんで、わいらは真ん中の設定装置で、ルールの設定してから、そこの観覧席への転移装置やな。」

「分かった。じゃあ、フォーリーブスさん、宜しく。」


 俺は手を差し出したが、こいつ、露骨に拒否しやがった!


「ふん! 虎の威がなきゃ、ただの雑魚のくせに! まあ、アイテムと情報は、僕が有効に利用してあげますよ。うん、貴方が持つより遥かにいいですね。」


 あ~、虎の威ってのは、サモンのことか。

 俺は特に気にしていなかったが、周りからは、そう見えて当たり前なのかもな。

 しかしこいつ、俺相手だと、社交儀礼とかそういう遠慮が全く無いな。



 俺は、つい立ての内側にある、転移装置に乗る。そして装備を着けて、再度確認してから、闘技場内に飛んだ。

 闘技場は、直径50m程の、円形のドームの設定だ。


 俺が、端の入場ゲートに着くと、すぐに、フォーリーブスも反対側のゲートに姿を現した。

 俺はてっきり、相手は杖装備だと思っていたが、意外にも盾装備だ。

 なるほど、俺ごとき雑魚相手じゃ、魔力の強化は必要無いという事か。

 また、俺が剣を装備して来る事を警戒した結果とも取れる。


 しかし、なんだ? 

 あいつ、武器を装備しているようには見えない。盾装備なら、小剣や、片手斧とかは装備できるはずなのに。何か暗器みたいなものだろうか?


 俺は足元のスタートラインを見つめる。

 このラインを双方が越えた瞬間、勝負は始まる!


 魔法の射程は、特殊な奴以外、普通は20mだ。30mの奴もあるが、威力が低いので、使っては来ないだろう。

 なので、このラインを越えて、お互いが20mまで接近してからが、本当の試合開始だ。


 俺が意を決してラインを超えると、奴も歩を進めた。

 視界に大きく、「FIGHT!」と表示される!


 俺はゆっくりと中央に向かうが、奴は走って距離を詰めてくる!


 ふむ、射程に入ると同時に攻撃魔法か。

 そして、声が聞こえる!


「マジックブースト!」


 うん、この魔力強化は想定済み。

 打ち消すには、デバフ効果の『マジックダウン』を唱えないといけないが、まだ射程外だ。


 ふむ、そろそろ射程に入るな。来る!


「バーニング『マジックキャンセル!』フォール! バーニング『マジックキャンセル!』フォール!」


 やはり、皆と相談していた通りの攻撃が来た!

 単体相手には最大の威力を誇る、最上級魔法を2連発!

 しかし、奴の身体が2度点滅し、何も起こらない。

 よし! 成功だ!


 俺達が想定した、奴の装備してくるアクセサリーは、『八尺瓊勾玉』と、リキャストタイムを5秒短縮する、『弁財天の羽衣』、そして、2連続詠唱を可能にする、『聖杯』だ。

 『真・八尺瓊勾玉』抜きで考えると、これが、現時点でのウィザードにとっての最高の装備のはずだ。


「え? え? キャンセルされた? それも連続で?」


 まあ、その反応は当然かもな~。サモンやローズですら、驚いていたのだから。

 俺からすれば、大した事ではないのだが。

 しかもこいつ、読み易いし。

 魔法を唱える瞬間、盾を軽く持ち上げる癖がある。杖を持っていた時についたものだろうが、これじゃテレフォンパンチだ。


 そして、こいつのリキャストタイムは後12.5秒。

 あ~、しまったな。一発だけは貰うべきだったな。

 でも、今のところは、まだすることもある。

 よし、あれから5秒!


「マジックダウン!」


 これで奴の『マジックブースト』の効果は打ち消されたはずだ。

 俺は少しでも手の内を隠すために、極力奴のペースに付き合う。


「ふん、ちょっと驚きましたが、やはりバッファーでしたね。防戦一方じゃないですか!」


 まあ、ここまではな。

 うん、そろそろ時間だ。


「まぐれはそうそう続きませんよ! コズミック『マジックキャンセル!』バースト! コズミックバースト!」


 ぐは!

 わざと一発貰ったとは言え、かなりの衝撃だ!

 HPが3000強減り、一気にイエローゾーンだ!

 だが、俺の現在のHPは、アクセサリーの効果もあって約8000ある。2発喰らっても、ぎりぎりレッドゾーンには入らない。


「あははは! やっぱりまぐれでしたか。マジックキャンセルなんて、そうそう成功しないんですよ!」

「お前は勘違いしているようだが、まあいい。回収させて貰うぞ。フィジカルドレイン!」


 ふむ、思った通り、回復量は約1000か。

 この魔法、相手の最大HPの10%を吸収して、自分自身を回復させることができる。

 また、回収できるのは、自分の減っているHPの分までだ。つまりHPが満タンだと、無意味な魔法である。

 クエストのボス相手にはまず通用しないが、対人には有効だ。相手の魔法防御無視なので、格上相手には持ってこいの魔法だろう。


「ふん! そうやってちまちま吸うがいいさ! だが、貴方は後2発も喰らえばHPが尽きる! MPも僕より低いんだしな!」

「いや、俺のMPはお前が持っている。サイコドレイン!」


 こいつはアホか?

 この魔法は、フィジカルドレインのMP吸収版である。

 少し考えれば気付きそうなものなのだが。


 俺のマジックキャンセルは、MP80消費。

 フィジカルドレインが240。今のサイコドレインも240。

 サイコドレインのおかげで、俺のMPは、現在満タン。

 奴の最上級の魔法は、杖の効果がないから、消費量は1000くらい。

 結果、こつのMPは後8000程度だろう。

 従って、こいつも後2回、さっきの魔法を唱えれば、俺と一緒だ。


「な! な! 生意気な奴! じゃあ、お前のMPを先に吸い尽くしてやる! サイコ『マジックキャンセル』ドレイン! サイコ『マジックキャンセル!』ドレイン!」


 ふむ、成功だ。俺のMPはマジックキャンセル分、160しか減っていない。

 しかし奴はこれで600減ったはずだ。


「え? そ、そんな…。そんな成功率、ありえない!」

「そうか? タイミングさえ合わせれば、簡単だぞ?」

「い、いや! そのタイミングが、普通は間に合わないはずなんです!」


 う~ん、こつもローズ達と同意見のようだ。


「トリプル『マジックキャンセル!』アブノーマルセット! トリ『マジックキャンセル』プルアブノーマルセット!」


 あ、これは打ち消す必要無かったな。

 この魔法は、状態異常をランダムで3種類与える魔法だ。昨晩の特訓で、俺には効かない。


「おい、お前、魔法唱えるの遅すぎだろ。2回目なんて、下手したらお前が唱える前に決まってしまったところだぞ?」


 俺は魔法の無駄撃ちをしてしまったので、八つ当たりをしてみる。


「な! 言わせておけば! しかし、このまま時間切れまで持ち込めば、僕の勝ちですね! 貴方もリキャストタイムのせいで、僕の攻撃を無効化するのがやっとのはず。そうそう吸えないでしょう。」


 ふむ、制限時間は10分。まだ余裕はあるが、そろそろ決めに行くか?

 ちなみに、時間切れの場合、HPの残っている『割合』が多い方が勝者となる。


「その問題も全く無い。フィジカルドレイン! フィジカルドレイン! フィジカルドレイン!」


 うん、これで俺のHPは満タンだ。


「な? 三連続? なるほど。それがクエスト報酬アイテムの効果ですね。」

「う~ん、どう取るかはそっちの勝手だが、お前、このままじゃ負けるぞ?」

「そうですね。この手は使いたくは無かったのですが……、サンドウォール!」


 ん? これは間に合わなかった!

 奴は唱える時、一瞬観覧席を見たので、こっちもそれに釣られてしまった。


 すると、奴の右手一帯に砂嵐が巻き起こった!


 ふむ、サンドウォールか。こいつは、普通、魔物とかの目隠しに使う。直接の効果は無いが、10秒間、視界を遮ることができるので、逃げる時とかには重宝する魔法だ。

 しかし、使うならば、俺との間に使うはずでは?

 何の視界を遮るつもりだ?

 とにかく用心だ!


「僕が何をしたかなんて、貴方の証言じゃ無意味ですからね!」


 奴はそう言って、右手を振り上げる!


 その瞬間! 爆音と共に、俺は吹っ飛ばされた!


 げ?! 何を喰らった? 

 俺は奴の口元を注意して見ていたのだが、奴は詠唱していなかったはずだ!


 あ! そういう事か!

 奴は盾装備のみで、右手は空いている。

 俺はてっきりダガーみたいな小型の武器を隠し持っていると思っていたのだが、奴は消費アイテム、『超高性能プラスチック爆弾』を握っていたと見ていいだろう。


 先程の魔法も納得だ!

 奴が遮りたかったのは、観覧席の視界だ!

 つまり、確信犯ってことだ!


 HPを確認すると、4000くらい減っている! 魔法じゃなく、物理攻撃なので、こいつはかなり効いた!

 俺の防御は現在、魔法防御のみに特化させていたからだ。


 仕方無い、あまり公開したくは無かったのだが。


「フィジカルドレイン! フィジカルドレイン! フィジカルドレイン! フィジカルドレイン!」

「コズミックバースト! コズミック『マジックキャンセル!』バースト!」

「フィジカルドレイン! フィジカルドレイン! フィジカルドレイン! これはおまけだ! サイコドレイン! サイコドレイン!」


 ふう、これで俺のHPもMPも満タンだ。

 しかし、奴のHPゲージは、悲惨なことにレッドゾーンだ!

 う~ん、もう一発喰らえば倒せていたな。


「え、え、え~っ!? お前! 今、連続で何回唱えた?! しかも、さっきからマジックキャンセルの成功率が異常だ! そんなのチートだろう! よし! 管理側に訴えてやる! みなさ~ん! ここにチート野郎が居ますよ~!」


 俺は、思わず頭を抱えた。

 アホすぎるにも程がある。観客は俺達関係者のみだぞ?

 おまけにここでの事は、喋ってはいけない事になっている。


 そして、この勝負、結論から言うと、ここでのダメージは全てこいつが肩代わりすることになり、消費されたMPも、全て彼の負担だ。

 さっさと気付いて欲しいものだったのだが。

 もっとも、俺もここまで上手く行くとは思っていなかったが。


「まあ、訴えるなりなんなり好きにしてくれ。それでどうする? 続けるか?」

「つ、続ける訳無いじゃないですか! こんな反則されて!」

「いや、俺は全く反則していないぞ。むしろお前の方が反則だ! それで、あのアイテムはそういう効果ってことだ。知らずに挑んだお前が悪い。で、どうする?」

「そ、そんな! しかし、確かにこれじゃあ勝ち目は無いようですね。ギブアップを宣言します!」


 遂に奴はうな垂れた。

 まあ、仕方無いだろう。奴のMPも殆どカラのはずだ。


 視界一杯に、「YOU WIN!」と表示され、俺は強制的に、先程の闘技場の前に飛ばされた。


 俺が周りを見回すと、先程の面子が全員……、ん? 居ない?


「シン! やったわね! やっぱり、あたしの応援の効果は抜群のようね!」

「シンさん! おめでとうっす! あたいの思った通りっす!」

「おう、シンさん、おめっとさん。途中、何が起こったんかの見当はつく。せやけど、なんも心配要らんかったやろ?」

「シンさん、おめでとうございますわ。」

「シン君、おめでとう。しかし、あれは何をされたんですか?」


 仲間全員が笑顔で俺に駆け寄って来る!


「うん、ありがとう! しかし、あいつ、居ないぞ? 何処行った? 闘技場のPVPじゃ、死んでもデスぺナはつかないはずだが?」

「え! ちょっと待てや! それ最悪やぞ! クリス!」

「サモンちゃん、落ちられたら、どうしようもありませんわ。バットマンさん!」


 クリスさんは、残念そうに俯いている、悪魔アバターの男に声を飛ばす!


「え? あいつ、逃げたのだ? 負けたのは仕方ないとしても、これは不味いのだ! アイテムは全部あいつが持っているのだ! これでは、シンさんに賭けの報酬を支払えないのだ!」


 うわ! まさかこんな事になるとは!


「まあ、逃げられたのはもうしゃあない。バットマンさん、あいつの居場所は分かりまっか?」

「フォーリーブスは落ちたのだ! これでは捕まえようが無いのだ! VRファントムの皆さん、本当に申し訳無いのだ!」


 バットマンさんは、深々と頭を下げる。

 続いて、茶髪イケメンも頭を下げた。

 う~ん、これはいたたまれない。


「頭を上げて下さい。貴方達もある意味被害者でしょ? 報酬のアイテムは元々は貴方達のでしょ? 多分、あいつはこれから逃げ回るでしょう。ギルドも退会するはずだ。そうなれば、貴方達も貸したアイテムが返ってくる訳も無く。」

「お気遣い、ありがとうなのだ。しかし、フォーリーブスはうちのメンバー。僕にも責任があるのだ。」

「せやな。しかし、ここではなんや。バットマンさん、悪いけど、少し付き合うて貰うで。」

「分かったなのだ。」

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