第24話 姉の考え

            姉の考え



 その後、結局俺はぼっちである。

 皆が落ちてしまい、することが無いので、TVを見ている。

 厳密には、サモンとクリスさんはエンドレスナイトのギルドルームにいるのだが、そこへ押しかける気はさらさらない。


 すると、いきなり目の前に、案内バニーが出現した!


 まあ、想像がつく。

 こういう事をする奴は一人だ。


「今晩は、八咫さん。」

「あら、ID非表示にしているのに、良く分ったわね~。流石は姉弟ってところかしら?」

「いや、こんなことするの、姉貴だけだろ。大方、会社の備品で暇潰しってところか?」


 姉貴は、少しむっとした表情で、俺の向かいに腰掛ける。


「相変わらず、アラちゃんは可愛くないわね。でも、こうやって直に見ると、ちょっと感じが違うわね。姿形は別人だし。」

「う~ん、自分では良く分からないな。で、用は?」

「あら、用が無くちゃ悪い? 最愛の弟を心配してダイブしてきた姉を邪険に扱うものじゃないわよ~?」

「い、いや、会いに来てくれたのは、素直に嬉しい。だが、姉貴の場合は、大抵、何かおまけがつくだろ?」

「そうね。じゃあ、本題。会話の記録を見ていたのだけど、『メイガス』って言葉が出て来るの。このゲームの用語じゃないわよね?」


 ふむ、確か、ローズとサモンが言っていたな。


「う~ん、会話の記録があるなら、分かると思うが、魔法の出が異常に早い人の事を指すらしい。どうやら、俺もその、『メイガス』と呼ばれる存在のようだ。自覚した事は無いが。」

「ふんふん、なるほどね。確かに、新庄君とかが驚いていたわね。この成功率はありえないとか何とか。分かったわ。じゃあ、アラちゃんは、その『メイガス』って呼ばれている人、他に知っている?」

「いや。サモンさんか、クリスさんなら知っているかもしれないが。聞いてみようか?」


 うん、彼等には、後でメールしておこう。今、ここに来られても厄介だ。


「そうね。良ければ聞いてみて。後、ローズバトラーって、アラちゃん、どうするつもり? 私も調べたけど、あまりに気の毒よね~。まあ、身体があるだけアラちゃんよりはマシだけど。」

「う~ん、彼女の境遇には同情するが、今の俺に出来る事は何も無いだろう? 彼女には、普通に接してあげるくらいしか。ローズは自分の身体にコンプレックスを持っているようだからな。まあ、無い方がおかしいが。」

「うんうん、アラちゃん、分かっているじゃない。それで、どう責任取るつもり?」


 姉貴はにこにこしながら何度も頷く。


「へ? 責任? あ~、巻き込んでしまったことへのか。それに関しては、もうどうしようも無いな~。そして彼女はそれを知って、尚且つ、こんな俺でもちゃんと人間として扱ってくれる。だから非常に感謝している。」


 そう、責任と言われても、現状幽霊の俺に何が出来る?


「ふむふむ、我が最愛の愚弟は、鈍感と。」

「ん? 鈍感? 俺、何か変な事言った?」


 姉貴は何故か溜息をつく。

 なんか、馬鹿にされたようで少しむかつくぞ。


「まあいいわ。そうね。アラちゃん、あなた数学は得意よね?」

「そのつもりだが、それは、その記憶が抜け落ちていなければの話だ。抜けていた場合、自分では分からないからな~。」

「あ~、そうなのよね~。」


 しかし、いきなり、何故に数学の話? さっぱりわからん。


「じゃあ、アラちゃん、暇潰しに、数学の勉強してみない? うん、それがいいわね。そこのモニターで見られるように、教科書をダウンロードしておくから。高校用でいいわね。それで、覚えていないところがあれば、教えて頂戴。」

「ふむ、抜け落ちた記憶の照合か。うまくすれば、規則性みたいなものが分かると?」

「ええ、そうね。じゃ、さっきのメイガスとやらも、宜しく~。」

「分かった、まあ、することも無いしな。気休めにはなるかもしれん。」


 案内バニーはそこで消えた。

 まあ、機嫌は良さそうだったし、問題はなかろう。

 なので、俺は早速サモンにコールしてみる。


「サモンさん、今いいかな?」

「お、シンさんか。かめへんで。」

「いや、この前言っていた、『メイガス』の話なんだが、俺以外にも、誰か知っている?」

「う~ん、わいも直接会うたことはあらへんからな~。うん、クリスにも聞いとくわ。済まんな。」

「いや、ありがとう。少し気になっただけなんで。」

「そか。ほな、また明日。」


 ふむ、サモンでも面識は無いと。まあ、明日クリスさんに聞いてみよう。

 しかし、これ、実はとても重要な事なのではなかろうか?

 昔から姉貴は妙に勘がいい。ひょっとしたら、俺がこうなった事への、核心をついている可能性がある。



 その後、モニターで、数学の教科書を見る。


 うわ。かなり抜け落ちている。

 読めば、理解はできるのだが、ちと悲しい。

 全く覚えていなかった部分をチェックしながら、タブレットを片手に格闘する。


 途中、流石に飽きるので、テレビを見たりはするのだが、なんだかんだで、読み進めたというか、それなりに勉強してしまったようだ。

 ふむ、今度はテスト問題とかもしてみるか。


「シンさん、お早うっす。」

「ん? もう7時か。お早う、ローズ。しかし、これはいいな。時間の経過が辛くない。」

「え? 何やってるんすか? げ! 何すか? あの意味不明な数式は?」


 ローズは当然のように俺の隣に腰掛けるのだが、モニターを見て驚いたようだ。

 まあ、教育TV以外じゃ、あんなもん、普通は見ないよな。


「あ~、俺の記憶のチェックだ。幽霊になってから、結構抜け落ちているようで、その規則性とかを調べるのに、役立つようだ。」

「へ~、そうなんすか。あたいは学校に行っていないから、さっぱりっす。まあ、今更勉強しても、無意味っすからね。」


 ローズはあっけらかんと答えるが、こういうのはヘビーだ。

 どう返事していいのか迷う。


「まあ、現状の俺もそうなんだが、暇潰しというか、やってみると、結構面白い。もっとも、俺が生前、得意だったというのもあるようだが。そうだ、ローズも一緒に暇潰ししないか? 今日は試合まで、レベルを上げられないから、俺は狩にも行けない身分だしな。勿論、無理にとは言わないが。」

「ん~、迷うっす。あたいは、一応中学は卒業してるんすけど、高校は行ってないっすから。多分、シンさんからすれば、アホレベルっすね。」

「ふむ、これ、丁度高校の教科書だ。どうだろう? 俺が教えてやろうか? と、言っても、俺も抜け落ちている部分がかなりあるんで、あまり自信はないが。」


 すると、ローズが身を乗り出して来た。


「え! シンさんが教えてくれるんですか?! じゃ、じゃあ、やってみたいです!」

「お、前向きだな。うん、じゃあ、最初から一緒にやろう。」


 そうだな。こんな俺に付き合ってくれるローズにできる事は、これくらいしか無い。

 もっとも、彼女にこの知識を活かせる機会があるとも思えないが、やらないよりはマシだろう。教育を受ける権利って奴か? とにかく、彼女が望むなら、それでいい。



 ふむ、彼女は、あまり数学は得意では無いようだ。

 しかし、懸命に理解しようと努力している。

 うん、この姿勢はいいな。俺も思わず熱が入る。


 途中、40分ごとに休憩を取るようにしたつもりだが、気が付いたら、オーバーしてしまっている。

 う~ん、学校の教師って大変だな。


 彼女は一度、9時に落ち、10時くらいにまた戻って来た。

 多分、病院で色々とやることがあるのだろう。


 そんなこんなで、あっという間に12時だ。


「よし、今日はこんなところだろう。そろそろ、他の奴も来そうだ。」

「そうですね。シンさんの説明、分かり易かったです。ありがとうございました。」

「あははは、褒めてくれても何も出ないぞ。うん、俺も久々に頭を使ったな。そしていい暇潰しになった。付き合ってくれて、ありがとう。」


 うん、ローズも嬉しそうだし、これでいいのだろう。



 俺がモニターをTV番組に替え、二人で寛いでいると、クリスさんが来た。


「クリスさん、今日は。」

「クリスさん、今日はっす。」

「シンさん、ローズちゃん、ごきげんよう。それで、シンさん、メイガスの事なんですが、残念ながら、連絡が取れそうな人は、現在居ませんわ。」

「う~ん、クリスさんでもか。そんなに少ないんだ。」

「そうですわね。私も一度だけパーティーを組んだことがあるくらいで。その方は、最近は潜っていないみたいですわね。あ、IDは分かりますので、お教えしますわ。」

「うん、ありがとう。無理言って済まない。」


 俺はクリスさんから聞き出したIDを、姉貴宛てにメールしておく。

 ふむ、俺の場合は全く自覚が無かったので、周りが気付くしかないのかもな。

 更に、もしそのメイガスだったとしても、前衛とかなら気付きにくいはずだ。

 う~ん、これは苦労しそうだ。


 そうこうするうちに、サモンが来たので、早速作戦会議だ。

 全員、真剣な顔をしているので、俺も少し緊張する。


「え~っと、まずは武器と防具なんだが、相手がウィザードなら、この前の時に貰った奴でいいのかな? 今回の取り決めでは、最初の装備から変更できないから、これは最重要だな。」

「せやな~。PVPは駆け引きの部分が多い。流石に試合が決まる前からせえへんはずやから、魔法職なんは間違いないやろ。クリスはどうやった?」

「そうですわね。私の調べたところですと、ウィザード兼バッファーですわ。回復系統もある程度は持っているようですわね。」


 うわ! クリスさん、凄すぎるだろ!


「そか、ほな良かった。防具はあれでええやろ。ほんで、武器の前にアクセサリーや。3つ持てるけど、シンさんの場合は、一つは『ファントムカース』で固定や。それで、二つ目は『真・八尺瓊勾玉』、ほんで三つ目やねんけど、これは、前回はHPを上げる奴にしてんけど、今回もそれでええか。そうなると、武器はあれやな。『髭切の太刀』で決定や。今の所、シンさんにはまともな攻撃手段はあらへんからな。まあ、しょぼい初級魔法の連発でも行けるやろけど、相手の魔法防御考えたら、MPがもたへんやろしな。」

「ふむ、通常攻撃で削るわけか。だが、どうだろう? ウィザードの天敵はアタッカー。相手もそれくらいは見越しているのでは? なら、やはり杖の方が良く無いか? サモンさんなら分かっていると思うが、バッファーの攻撃手段は、無い訳じゃあ無い。」

「お! あれやるつもりか! そらええな! うん、シンさんなら問題無い! これは相手びびるで。うん、杖で決定や!」

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