第23話 サモンの目的
サモンの目的
フォーリーブスが帰ったので、俺はサモンに聞く。
「流石だな、サモンさん。4つ要求したのも、値切られる事を承知の上だろ? 本当に欲しいのは3つだけ。そう、俺とカオリンと、タカピさんの分だ。そして、サモンさんの本当の目的は更に上にありそうだ。俺達の装備を完璧にして、何をするつもりだ?」
うん、サモンが俺達の為にやってくれたのは理解している。
しかし、その先が謎だった。
サモンは額に手を当てて答える。
「あっちゃ~。シンさんこそ流石やわ。全部ばれとる。うん、わいがしたいんは、このVRファントムの面子で、『八岐大蛇』のクエストをコンプリートすることや! 勿論、『八咫鏡』もやけどな。」
「え? コンプリートって、条件が分かっているの? それに、もし分かっているのなら、あたし達じゃなく、エンドレスナイトの人とやった方が簡単でしょ?」
カオリンの疑問は当然だろう。
現状、サモン達エンドレスナイト組からすれば、俺とカオリンとタカピさんは、足手纏い以外の何物でも無い。
「いやな、カオリンちゃん、条件に関しては、ぶっちゃけ、まだ自信が無いねん。せやけど、シンさんがおったら、何とかなりそうな気がしてるねん。そいで、シンさんとやるには、ここでやるしかあらへん。」
ここで、クリスさんが肘でサモンを小突く!
「サモンちゃん! その言い方は誤解を招きますわ! 正直に言いなさい!」
すると、サモンは少しうな垂れたが、その後顔を上げ、全員を見回しながら答える。
「せやな。わいはもうなんか、飽きてきたんやろな。わいのギルドを立ち上げた時の最初のメンバーが、クリスとローズちゃんや。ほんで、ローズちゃんは何や居辛そうな感じになってもて、そしたら、ここや! うん、ここは新鮮や! シンさんみたいなびっくり箱があって、しかも、みんな発展途上や! ここやったら、なんちゅうか、初心に戻れる気がするねん!」
ふむ、サモンはギルドを作ったはいいが、大きくなりすぎて、逆につまらなくなったと言う所か? ベンチャー企業を立ち上げて成功した社長さんみたいだな。
「なるほど。何となくだが、分かる気がするよ。うん、神器クエストに関しては、俺もやってみたいな。皆はどうだ?」
「え? あたしなんかが参加できるなら、当然やりたいわ! 面白そうじゃない!」
「あたいは、シンさんがやるなら、当然やるっす!」
「私も当然付き合わせて頂きますわ。」
「そうですね。これは願ってもないチャンスです。是非ともお願いしますよ。」
うん、皆に異存はないようだ。場の空気も一気に明るくなった。
「うん、皆がいいなら、決まりだな。しかし、先ずは明日だ。こっちから仕掛けておいて、負けたら洒落にならないぞ?」
「せや! そこでやな、シンさん、カオリンちゃん、タカピさん、ちょっと退屈やろうけど、特訓させて欲しいねん。まだ10時すぎやし、時間はある。具体的には、耐性付けや。あいつは見たところ、ウィザードや。デバフ、状態異常系統もそれなりに取ってるやろ。せやけど、シンさんの耐性には、まだ少しやけど穴がある。そこを埋めておかんとな。普通、レベル50台で耐性が完璧な奴は少ないから、狙ってくると見たほうがええやろ。」
サモンが少し興奮しながらも説明してくれる。
なるほど、彼は今回の件、PVPの話が出てからは後は、すぐにこのシナリオに行き着いたのだろう。
「なるほど。皆も上げられるなら、それに越した事は無いな。うん、頼むよ。」
「確かに、僕のこの、『ハデスの兜』はあらゆる状態異常を無効化しますが、防御力自体はゴミですからね~。耐性はつけておいた方がいいでしょう。はい、喜んで、その特訓とやらを受けましょう。」
「そうね。あたし達前衛は最も攻撃を喰らうわ。サモン、感謝するわ。」
そうと決まれば話は早い。全員が一斉に腰を上げた。
俺達は、早速部屋を出て、転移装置へ向かう。
やる場所は、MPをすぐに補給しに戻れる、街のすぐ外がいいのだが、なるべくなら人目につかないところの方がいい。
なので、最もクエストの無い街、『鳴門』に向かう。
この街だけは、何故か初心者用のしょぼいクエストが一個あるだけで、他には何も無い。街自体も、必要最低限の設備しか配置されていない。
また、普通の街なら、門を出るとすぐに魔物が出るのだが、何故かここは出ない。
『鳴門』に着くと、予想通り誰も居ない。案内バニーだけがぼーっと突っ立ているだけだ。
門を出て、少し木々を分け入ったところで集合する。
「うん、ここならいいですね。シン君達のアクセサリーの効果は目立ちすぎますからね~。」
「そうね。見られたら、それこそ、それ何?って集られるわ。サモンも、本当はくれくれ君とやらが大変じゃないの? シンのように無名でも、あの始末だわ。」
「あはは、カオリンちゃん、逆にわいのように有名になってしまうと、声はかけられへんねん。どうせ相手にしてくれへんって、勝手に思いこんどるからな。せやから、これからカオリンちゃんとタカピさんは要注意やで。わいも、あんな話聞くのはもう嫌や。」
「あれは、あたいが付いて居ながら、シンさんには申し訳ない事したっす。でも、怪我の功名っす! 倍返しっす!」
「そうですわね。それに、ローズちゃんも、ここでは元気が出て来て良かったですわ。じゃあ、始めますわね。」
俺は一旦パーティーを解散させる。これをしておかないと、同士討ちができないからだ。
「まずは最も厄介な石化からやな。これはシンさんは無効やから、カオリンちゃんとタカピさんや。ほな、いくで!」
「「「チェンジストーン! チェンジストーン! チェンジストーン! チェンジ………。」」」
俺とサモンとクリスさんで、矢継ぎ早に、連続で唱える!
耐性は、状態異常攻撃を喰らうと、その回数が保留されていき、きりのいい数値で小、中、大、無効と昇格していく。また、その効果を喰らっている時でも、重ね掛けができる。今までなら、こんな無茶な上げ方は出来なかったのだが、リキャストタイム無しの効果で可能となった訳だ。
ちなみに、こういった状態異常系統の魔法は、かける側の魔力の高さと、受ける側の魔法防御の兼ね合いで、成功率が変化する。なので、こういった育て方をするなら早いうちがいい。
お互い何も装備していない状態だと、俺が唱えても、カオリン達への成功率は7割くらい。少しでも耐性をつけられると5割くらいになるが、クリスさんが唱えればほぼ100%成功する。魔力を上げる杖とかを装備すれば、『耐性大』でも、ほぼ成功だろう。
「ふ~、俺はもうMP切れだ。一旦街に戻って回復してくる。」
俺が街に戻ろうとすると、手持無沙汰だったローズがついて来る。
「あの~、俺ってそこまで信用無い? 確かに、今日は絡まれてしまったが。」
「い、いえ、あ、やっぱり信用無いです! なので、私が常に見張る事にしました! だから、私が居ない時は、絶対にギルドルームから出ちゃダメです!」
「う~ん、まあ、なんだ、ありがとう。でも、何かローズに飼われている気分になるな。」
「そ、そんなつもりじゃないです! でも、幽霊を飼うって面白そうですね。」
「ぐは! まあ、くれぐれもその話は、タカピさんとカオリン以外にはしないでくれ。俺も、君の事は絶対にしないから。」
「そうですね、私の事を話したのは、シンさんだけです。別に知られて困る訳じゃないんですが…。でも、二人だけの秘密ってなんかいいですね。」
ローズは顔を上げて微笑んだ。
「お~い、交代や。なんや、まだいちゃついとんのかいな。」
「あらあら、少し妬けますわね。」
「「いちゃついてない!」です!」
その後も耐性上げを続け、12時前になる頃には、俺の全ての耐性が無効になり、カオリンとタカピさんも、全て大以上に昇格した。
「うん、これだけやれば大丈夫だろう。皆、お疲れ様。」
俺はもう慣れてしまっていたが、カオリンとタカピさんはきつそうな感じだ。
完全にへたり込んでいる。
「こ、これは流石に効いたわ! 毒以外はダメージはないのだけれど、当たり判定の振動だけはするわ。す、少し酔いそうね。」
「確かにこれはきついですね~。でも、こんな短時間で上がられるとは、やはりそのアクセサリーの効果、凄いですね~。うん、シン君、サモン君、クリス君、ありがとう。」
「せやな、今まではこんな真似できへんかった。これも元はと言えばシンさんのおかげや。せや、シンさん、何でシンさんだけ、そないに耐性高かったんや? あんたら、元々同じパーティーやん? 増してやシンさんは後衛や。」
「あ~、それは、あのクエストのせいだよ。あのボスの物理攻撃、実は状態異常効果の塊だ。それを全てまともに喰らったからな~。サモンさん達は全部無効だから、気付かなかっただけだな。」
「あははは、あそこに行ける奴なら、大抵は、ほぼ耐性は大以上っすね。確かに、喰らってもそうそう発動しないっすからね~。」
「納得ですわ。あそこでの前衛は、まだ耐性を獲れていない人には要注意ですわね。」
「せやな、ほな帰るか。」
俺達は、街の中心の転移装置を目指す。
「ほな、ここで解散でええか? そんで、シンさん、明日は頼むで。ちゅうても、なんや無理矢理させたみたいで悪いねんけど。」
「いや、それはいいんだが、やはりまだ自信が無い。サモンさん、明日は試合前に、レクチャー頼むよ。」
「シンさんは心配性やな~。大丈夫やって。うん、そっちの方は任してや。ローズちゃんもクリスも頼むわ。」
「任せろっす!」
「承知しましたわ。」
「「「「「「お疲れ様~。」」」」」」
そこで、サモンは歩を止める。
ふむ、またやる気か。もう、ばればれだぞ。
しかし、カオリンは警戒しているようには見えない。
「ほな、お別れの……」
「かかったわね! あなたの相手はあたしじゃないわ!」
カオリンは、飛び込んで来るサモンを軽く躱し、後ろを取って背中を押した。
「お、わ、っと、あ、バニーちゃん!」
サモンは無様に、顔面から案内バニーの胸に突っ込む!
「エッチな人にはお仕置きです!」
案内バニーの声と共に、サモンは消えた。
「ぐは! そんな返し技があったとは!」
「むむ、カオリン、やるっすね! あたいも真似させて貰うっす!」
「あらあら、せっかくの経験値が勿体無いですわ。バニーちゃんのレベルを上げても無意味ですわ。」
ぶっ! 良く見ると、案内バニーの表示レベルが、1から12に上がっている!
タカピさんは、呆れかえったのか、俯いて首を振っている。
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