第22話 PVP

          PVP《プレーヤー・バーサス・プレーヤー》



「え、ローズちゃん、そんなことがあったの?! あたしも情報の価値は良く分らないけど、それにしてもやりすぎよね!」


 カオリンは、かなりお冠の御様子だ。


 今は9時前。あれからギルドルームに戻り、二人でTVを見ていたところに、丁度全員揃ったので、ローズがさっきあったことを話している。


「まあ、もう済んだ事だ。常に何万人とログインしているサイトだし、あいつに会う事はもう無いだろう。」

「シン君、それはどうですかね~? 君は、ローズ君の事を忘れたのですか? このギルドの街の転移装置の前で見張って居れば、ログイン率の高い人なら、見つけるのにそれ程苦労はしませんよ。」


 あ~、確かにタカピさんの言う通りかもしれない。ローズには、あそこで捕まったんだ!


「しかし、相手も逃げたし、そこまではしてこないのでは?」

「シンさん、甘いな。くれくれ君はしつこいで~。ちょっとでも隙見せたら、とことん纏わりついてきおる。しかも、その様子やと舐められた可能性が高いな。」

「う~ん、相手のレベルは85だったから、ローズはともかく、俺は舐められただろう。はっきり『おんぶにだっこの身分』と、言われてしまったよ。事実なんで、否定できないのが辛いところだが。」


 ん? 何か全員の雰囲気がおかしい。


「あれを見ていれば、そんな事言わせませんわ! 私が証人になりますわ! あのクエストは、私とサモンちゃんが居なくても達成されていましたわ!」

「せやな。シンさん以外は、全員ただの飾りやったで。わいもむかついてきた!」

「そうっす! あたいも否定したんすけど、逆にからかわれたっす!」

「そいつ、あそこに放り込んでやりたいわ! 何分持つかしら?」

「そうですね~。いくら見ていないとは言え、それは酷いですね。僕も少し説教してやりたくなりましたよ。」


 う~ん、一緒に怒ってくれるのは嬉しいのだが、少し俺を持ち上げすぎだろう。


「で、ローズちゃん、IDは覚えてるんやろな?」

「勿論っす! 『フォーリーブス』って奴っす!」

「クリス! 知っとるか?」

「流石に99未満の人は……。でも、調べておきますわ。それで、サモンちゃん! 分かっていますわね!」

「当然や! 隠密玉無しでは、街から出られへんようにしたる!」


 うわ! これは、クリスさんへの評価を少し変えないといけないな。


「いや、サモンさん、クリスさん、気持ちは嬉しいが、そこまでは必要無いだろう。絡まれたのは俺とローズだ。ローズも、もういいよな?」

「確かに、PKまではあたいも望んでないっす。でも、なんか仕返しはしてやりたいっすね~。」


 ふむ、ローズも俺の女扱いされて、謝られたとは言え、気は済んでいないのだろう。


「なら、あたしに考えがあるわ。」


 カオリンが身を乗り出す。

 ふむ、こういうのはカオリンに任せた方が良さそうだ。


「ん? カオリンちゃん、何かおもろい手ぇあるんか?」

「面白いかどうかは分からないけど、要はシンの実力を分からせればいいのよね?」

「そうっす! あたいもあれだけが許せないっす!」

「やり方は単純よ。シン! PVPでそのくれくれ君とやらに勝ちなさい!」


 ぐは!

 単純すぎるだろう!

 しかも、レベル差30だぞ? こいつ、正気か?


 しかし、皆の意見は違うようだ。


「確かにそれはええな。うん、丁度ええわ。」

「なるほど、いい案ですね。それで、ローズ君、相手はどんな感じでしたか?」

「杖持ってたっすから、魔法職なのは間違いなさそうっす。」

「じゃあ、私が近日中に何とか探し出しますわ。サモンちゃん、交渉はお願いね。」

「おっしゃ、任せとけ!」


 おいおい、いいのか? それに、俺の意見は?


「もしも~し、皆さ~ん? レベル差30ですよ~? 分かっていらっしゃいますか~?」


 素直にぶつけてみる。


「愚問やな。」

「楽勝ね!」

「問題無いですね。」

「負ける要素が見当たりませんわ。」

「問題は、相手が大したアイテム、持ってなさそうなことくらいっすね。」


 う~む、タカピさんとクリスさんまでがOKならば、信用してもいいか?


「ところで、クリスさん。さっきのタカピさんと、サモンさんの話からすると、あいつ、簡単に捕まるんじゃないかな? 今は最も人が多い時間帯。奴からすれば……」

「流石はシンさんですわ! サモンちゃん!」


 クリスさんは最後まで言わせず、サモンをけしかける!

 サモンと、ローズ、そして、カオリンがマッハで部屋を飛び出して行った!

 クリスさんは、部屋の隅に行き、何やら小声で話している。おそらく、仲間に連絡を取っているのだろう。


 俺自身は、あまり気が乗らないが、こうなってしまっては仕方が無い。

 とりあえず、あいつが来ても大丈夫なようにと、モニターを不可視に設定する。


 待つこと数分、カオリンからコールが入る。


「シンの予想通りね! 向こうからあたしに声をかけてきたわ! 今から連れて行くわね!」

「お、おう、任せる。だが、ゆっくりでいいぞ。」


 俺も、サモンとローズに急いで戻ってくるようにとコールする。


 ふむ、やはりか。

 全員同時に出たはずなのに、カオリンに声をかけたという事は、低レベル者を狙っていると考えていい。


 サモンとローズがすぐに戻ってきて、ソファーに並んで腰掛ける。そして、その横にクリスさんも座るが、まだ小声で話している。

 タカピさんは、俺の横で腕を組んで思案中のようだ。


 うん、部屋を少し広くして正解だな。

 ソファーが二人掛けのものから、三人掛けになり、これなら9人まで大丈夫だ。


 そして、カオリンが戻ってきた。後ろにあの男、『フォーリーブス』を従えている。

 こいつは、部屋に入って少し驚いていたようだが、意を決したのか前に進み出て来た。


「あ、えっと、その…、あ、そうだ。先ずは自己紹介からですね。皆さん、お揃いですね。初めまして。僕は『フォーリーブス』と申します。先程はローズさん、シンさん、大変失礼しました。僕としては、皆の意見を聞きたかっただけなんですよ。他意はありませんよ。それで、カオリンさん、早速ですが、その、えと、八尺瓊勾玉のクエストのコンプリートの方法なんですが……」


 なんだこいつ? いけしゃあしゃあと! あれに他意が無いだと?

 明らかに周りを焚き付けて、俺達を囲むつもりだったろう!


 ここで、サモンが立ち上がった。


「あ~、そいつはちょっと待って欲しいんですわ。まずはわいも自己紹介させて欲しいんで。あ、遠慮のう、そこの空いてるソファー、かけて欲しいですわ。」


 フォーリーブスが座ったので、立ち上がろうとした全員が座り直す。

 カオリンも、俺の隣に腰掛けた。


「じゃあ、わいは、もう知ってはるかもしれませんけど、この『VRファントム』のメンバーであり、『エンドレスナイト』のオーナーもさして貰うてる、『サモンナイト』と言いますねん。『サモン』でええですわ。どうぞ、よろしゅうに。」

「は、はい、サモンさん。お、お会い出来て嬉しいです。」


 ふむ、まずは肩書でびびらせにかかったようだ。


「ほんで、フォーリーブスさん、あんさん、あの神器クエストの情報、知りたいそうやないですか。ええですわ。教えまっせ。」


 今まで警戒していたフォーリーブスの表情が、この一言で一気に明るくなる。


「え、本当ですか! 流石は大手ギルドのオーナーさん。シンさんやローズさんとは違いますね!」


 しかしこいつ、全く遠慮が無いな。


「いや、せやけど、あのクエスト、わいらもかなり苦労してコンプしたんですわ。それこそ試行錯誤の繰り返しですわ。せやから、それなりの対価は払うて欲しい。わいも只で教えたとなると、一緒に苦労した仲間に申し訳が立たないんですわ。」

「いや、ですから、それはさっきシンさん達にも言ったように、情報は皆で共有するものです。だから、僕が代表して、攻略サイトにアップさせるつもりなんです。なので、対価とかは払えませんよ。」


 ふむ、これではさっきと一緒だ。サモン、どうする?


 すると、さっきまでずっと小声でコールしていた、クリスさんが、サモンに耳打ちする。


「へ~、そうでっか。ギルド、『ドウプスター』のフォーリーブスさんは、情報は無価値やとおっしゃるんですか?」

「え? な、なぜ…、あ! 掃きだ…、いえ、すみません。そういう意味では無いんです。飽くまでも、皆に知らせるべきだと言っているんです。」

「それはおかしな話やな~。情報ギルド、ドウプスター。オーナーさんとはわいも知り合いですねん。うちのギルドで得た情報を、いつもええ値段で買うて貰てますわ。で、その情報を他所へ売る。買い手がつかなくなったら、サイトにアップしてはるみたいやけどな。」


 なるほど! これは俺でも理解できる。

 要はこいつ、最初から俺達を騙して、只で聞いて、それを売り払うつもりだった訳だ!

 そして、こいつは自分の正体がばれていないと思っていたのだろうが、掃きだめの鶴こと、クリスさんにあっさりと見破られたと。


「え、い、いや、うちのオーナーはそんなことをしているのかもしれませんが、僕は違いますよ! すぐにアップするつもりです!」

「あ~、そんなこと、どうでもええねん。で、買うんか買わへんのか、はっきりして欲しいねん。勿論、ここまでわいらの手煩わせてんねんから、それなりに手数料は貰うつもりやけどな。」

「え! それって脅しですか? そんな脅しには屈しませんよ! 管理側に報告しますからね!」


 う~ん、しても無意味だと思うぞ。連中も、これくらいの事で動く程暇じゃあるまい。

 もっとも、その暇を削っているのがこの俺なのだが。


「いやいや、脅しなんかやないて。手を煩わせたっちゅうんは、うちのオーナーさんを舐め腐ってくれた事ですわ。あんさん、シンさんに、わいらのおかげでクリアできたみたいな事言いはったらしいな。」

「え、あ、えっと、た、確かに言いましたが、事実でしょ? レベル50台じゃ、あのクエスト、瞬殺とは言いませんが、戦力にならないはずです!」

「それが違うんや。はっきし言って、わいは横で見てただけや。そら、少しくらいは手ぇも貸したけどな。」

「そ、そんな! あり得ません! 恐喝に続いて、今度は嘘ですか? 大方、『少しくらい』の意味が違うのでしょう。全く、大手廃神ギルドだからって、言いたい放題ですね!」

「嘘かどうか、試してみはりますか? シンさんとタイマンで勝負したら分かりますわ。せやな、もしあんさんが勝ったら、コンプリートの情報に加えて、この、コンプリート報酬のアイテムも差し上げますわ。いや、実はな、シンさんから、舐められたままなのは嫌やって、相談されたんですわ。で、チャンスが欲しいと。そういう訳ですわ。でなけりゃ、こんな不利な勝負、こっちから仕掛ける訳あらへん。」


 サモンはそう言って、首にかかっている、深紅に光る勾玉を撫でる。

 ん? 良く見ると、クリスさんもしている。

 はや! たった4時間程で、もう2回もクリアしたとは!

 しかし、サモン! 俺はそんな事、一言も言っていないぞ。


「い、いいでしょう! たかがレベル55で85の僕に勝てる訳が無い! ええ、受けますとも! サモンさん流に言えば、僕を舐め腐ってくれた代償は高くつきますよ!」


 フォーリーブスは、俺を睨みつけるが、すぐに視線はサモンの勾玉へと戻る。

 ふむ、現物を見せつけられて、受けてしまう訳だ。

 まあ、俺の面子を立てる為という布石もあるしな。

 もし、彼が冷静だったら、こんないかにもな条件、絶対に受けないはずだ。


「そら、おおきに。これでシンさんもレベルの差がどんだけでかいか、ええ勉強になるやろ。ちょっと高うつきそうですけど。ほな、そっちは何を賭けます? このアイテム、今の所、数が出回ってへんのですわ。」

「そ、そうですね。僕に出せるのは、『草薙のくさなぎのけん』か、『八尺瓊勾玉』くらいですね。」

「勾玉は、これ見たら分かると思うけど、わいらにはもう無用のもんや。そやな、『草薙の剣』、四つでどないです? 勿論、あんさん一人じゃ持ってへんのは分かりますわ。なんで、ドウプスターのオーナーさんにもわいから声かけときましょか?」


 うわ! 4つって!

 ちなみに、『草薙の剣』は、神器クエスト、『八岐大蛇』の報酬アイテムで、武術系統のスキルのリキャストタイムを半減してくれる、素晴らしい効果のアクセサリーだ。

 しかし、三種の神器クエストの中で唯一のコンプリートアイテムとその情報、それくらいの価値はあるのかもしれない。


「え、え、でも、流石に4つは…、せめて3つなら!」

「せやけど、あんさんからしたら負けるはずも無い勝負、わいやったら、他所のギルドから借りてきまっせ。」

「い、いや、流石にそこまでは…、僕達のギルドではこれが限度です。僕からオーナーのバットマンさんに頼んでみます。」

「しゃあないな~、3つでええですわ。ほな、成立と言う事で。」


 サモンは立ち上がって、フォーリーブスの手を強引に握る。


 その後、彼も、流石に今からではアイテムが用意できないし、準備もしたいとの事で、勝負は明日、日曜の昼一時からとなった。丁度、全員潜れる時間のようだ。

 タカピさんがサモンに耳打ちし、更にいくつかの取り決めをした後、彼は帰って行った。


 しかし、大丈夫か?

 レベル30の差は、本当にでかい!

 単純に能力値だけでも全て150の差。そこに、レベルアップで得られるスキルポイントの差が約2万。彼がもしウィザードならば、攻撃魔法系統はほぼ極めているだろう。そして、スキルは、習得するごとにそれぞれの特性に合った能力値が上がるものが多いので、更に差が開く。恐らく、魔力に限って言えば、250くらい差があるはずだ。現状の俺が350くらいなので、倍に近い。

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