第20話 二柱
二柱
「「「「「「かんぱ~い!」」」」」」
俺達はギルドルームに戻り、いつもの祝勝会だ。
俺も、心に引っかかっていたものが取れ、かなり清々しい。
「今回はええことづくめや! これでシンさんは堂々と遊べるし、わいらもええ情報を貰えた! おまけに、あの称号まで貰えたで。これ、名前の割にはええ効果やな。」
「そうね。でも、この、『神の試練に耐えし者』に較べれば、今一つね。」
「あははは。しかし、『チキンオブチキン』、入手条件は想像がつきますね。おそらく、連続で何百回か、攻撃を受けても、反撃しなかったというところでしょう。」
「あたいも、タカピさんの言う通りだと思うっす。でも、雑魚相手だと、あたいら前衛には、こっちの方が都合がいいかもっすよ? 25%も回避率が上がれば、ほぼ攻撃を受けないかもっす。」
ふむ、確かにローズ達の素早さなら、何もしなくても、攻撃を躱せるのかもしれないので、直接回避率が上がれば、かなり便利かもしれない。
「では、このアクセサリーなんだが……」
「あ~、それは、わいとクリス以外にあげてや。わいらはもう、いつでも取りに行けるさかいな。」
「そうですわ! それで、サモンちゃん、あれ出しなさいね!」
「分かっとるって! もう、クリスは怖いな~。ほれ、シンさん、『八尺瓊勾玉』や。」
サモンは、今まで装備していたであろう、『八尺瓊勾玉』をテーブルに置く。
「え? サモンさん、どういう意味だ? 俺達は既にこの防具まで貰ってしまっているぞ?」
「いや、わいとクリスは今からエンドレスナイトの仲間と再挑戦や! そして、獲れたら、もうわいには必要の無い物や。せやから、カオリンちゃんか、タカピさんにでも渡して欲しいねん。」
「そうか。分かった。ありがとう。じゃあ、遠慮なく頂くよ。そして、この『真・八尺瓊勾玉』はローズにあげようと思う。今回のクエストの発案者だしな。タカピさんもカオリンもそれでいいかな?」
俺は『真・八尺瓊勾玉』をローズに渡す。
「ええ、あたしに異存はないわ。ローズちゃんには当然の権利よ!」
「無論、僕もそれがいいと思いますね。僕達が貰っても、大した魔法が使えませんから、無意味ですしね。」
「え? いいんすか? あたいも大した魔法は使えないっすけど、これは嬉しいっす! ありがとうっす! じゃ、あたいのこれも、もう必要ないっすね。」
ローズもテーブルに勾玉を置く。
「ふむ、じゃあ、この二つはタカピさんとカオリンだな。」
なるほど、サモン達はこうなることを見越していたのだろう。
確かに俺達だけじゃ、あのクエストはまだ無理だ。
そして、報酬に与れない者が出るのはよろしくない。
なので、自分のを一個くれた訳だ。まあ、今回の場合はパワーレベリングして貰えただけでも、お釣りがくるが。
「え! 嬉しいわ! あたしも魔法系統に転向しようかしら? ローズちゃん、サモン、感謝するわ!」
「おお~! 僕も考えてしまいますね~。スキルポイントもいっぱい貰えましたしね~。うん、シン君、ローズちゃん、そして、サモン君、ありがとう!」
皆で歓談し、話題も尽きたところで、タカピさんが立ち上がる。
「もう4時ですか。じゃあ、僕は一旦落ちますね。そうですね、今日はまた9時には戻れるでしょう。」
「あ、あたしも先に課題を済ませておくわ。じゃあ、9時にここに集合ね。」
「ほな、わいも一旦落ちるわ。うん、今日はええもん見せて貰た。よっしゃ、9時やな。了解や!」
「そうですわね。じゃあ、私もギルドに戻りますわ。皆さん、楽しかったですわ。」
「うん、お疲れ様。じゃあ、また。」
「はいっす! お疲れ様っす!」
俺とローズ以外の全員が立ち上がって、ドアを目指す。
「キャッ! ちょっと…!」
ぬお!
やっぱりやりやがった!
今度は尻か。
そして、カオリンが振り返ると同時にサモンは消えた。
あいつ、これ、毎回やるつもりか?
「「「「はぁ~。」」」」
残った全員が溜息をつく。
しかし、俺は見逃さなかった!
うん、既に実装されたようだ。土曜なのに、対応早いな。
「全く、あいつ、今度こそ絶対に引っ叩く! クリスさんもいいわよね?!」
「ええ、PKして構いませんわ。その時は私も協力しますわ。」
「あたいもっす!」
「ふむ。しかし、カオリン、自分のステを確認してみろ。」
カオリンは不思議そうな顔をする。
そして、大声を上げる!
「え~~っ! 何もしていなのに、レベルが2も増えているわ!」
「まあ、なんだ。俺が提案したのが採用されたようだ。しかし、流石はレベル99だな。デスぺナだけで、2も上がるとは。」
「え? どういう事?」
皆も、一斉に俺を見る。
「いや、セクハラで、デスペナ喰らうじゃないか。で、そのペナルティー分を、被害者にって事だ。多分、所持金も増えているはずだ。」
「なるほど、そういう事ね。確かにお金も増えているわ。でも、微妙な心境ね。なんか、お金で買われる安い女みたいよ?」
「あ~、それは気付かなかったな。でも、少しは気が晴れるだろ?」
「まあ、それはそうね。でも、やっぱり今度会ったら引っ叩くけど。」
「その提案、もっと前にして欲しかったっす!」
「あらあら、じゃあ、ローズちゃんには私がしてあげますわ。」
「い、いや、クリスさん、そういう意味じゃないっす。それに、あたいにその趣味は無いんで勘弁っす!」
ふむ、しかしこれ、よくよく考えると、究極のパワーレベリングになり得るな。
まあ、誰も困らないし、問題ないか?
そして、結局残ったのは、俺とローズだ。
これもパターンになりつつあるな。
「で、これからどうする? どっか狩りでも行くか?」
「それもいいっすけど、あたいはもう少しのんびりしたいっすね。流石にあれだけ攻撃喰らえば、ノーダメージとは言え、しんどいっす。」
ふむ、当然だろう。ダメージは喰らわなくても、当たり判定の振動だけはきっちり喰らう。俺が喰らったのは魔法だけだが、前衛はほぼ全ての攻撃を貰っている。
「それは納得だな。俺もあれだけ魔法唱えたので、暫く唱えたくはないな~。ところで、ローズ、あのクリスさんってどんな人だ?」
「ふ~ん、シンさんもクリスさんに惚れたっすか? まあ、あれだけの美人っすからね~。でも、あのアバ、課金かガチャの景品っすね。」
「いや、確かに美人ではあるが、俺にそういう感情は無いよ。所詮はアバターだしな。ただ、あのサモンさんを完全に抑え込んでいたので、単純に凄いなと感心していたんだ。」
「あははは、そういう事っすか。安心したっす。」
「ん? 安心したとは?」
「え、あ、へ、変な意味じゃないんです! そ、そのクリスさんは、あのアバですし、おまけに面倒見が凄くいいので、エンドレスナイトのマドンナみたいな存在なんです。だ、だから、クリスさんに言い寄ろうものなら、ギルドの男全員に袋にされかねないっす!」
ん? なんか、また口調が一瞬ぶれたぞ?
まあ、流しておくか。
「あ~、なんか解るな。どうせ、サモンさんがあの調子なんで、クリスさんが皆のフォローをしてくれていそうだな。さっきも、自分のギルドほったらかして、今晩も来るみたいな事言ってたし。まあ、俺としては、賑やかになって嬉しい限りだが。」
「まさにその通りっすね。エンドレスナイトクラスになると、パーティーの編成が大変なんす。皆、それぞれ欲しいアイテムがあるんすけど、当然、一人じゃ取れないっすから、クリスさんがその調整をして、パーティーを組ませてくれるんす。ギルドへの貢献度とか、個人の戦闘スタイルとかを踏まえて、今回は誰に報酬アイテムを渡すとかまで指定してくれるんす。なんで、サモンもクリスさんだけには頭が上がらないっすね。実質、あのギルドは、サモンとクリスさんだけで成り立っているようなもんす。」
ふむ、やはりか。
しかし、その鍵の二人を俺が借りてしまって、なんか悪いな。
「なるほど、大手ギルドにもなると、大変そうだな。うちなんて、パーティー編成を変える必要すらないからな~。」
「あははは、でもシンさん、そんな他人事みたいに言っていていいんすか?」
「え? だって、現実、サモンさんとクリスさんを入れたとしても6人しか居ない。いじりようがないぞ?」
「いや、VRファントムは、もはや超有名ギルドっすよ? 何しろ、三種の神器イベントの扉に名前が載ってしまったんす。」
げ! そう言えば、ボス部屋の扉には、最初にクリアした奴の名前が載るが、それと一緒に、パーティー名か、所属ギルドの名前も載る。今回の場合、俺はパーティー名をつけていなかったから、自動的にリーダーの所属ギルド、VRファントムの名前が載る事になる。
「うわ、そこまでは考えていなかった。俺としては、雑魚の俺がチートアイテムを持っていることに、良からぬ噂を立てさせない為だけに載せたんだが。」
ローズは更に俺を脅す。
「おまけに、エンドレスナイトの二柱、サモンナイトとクリスタルメアがメンバーって、それなりに知っている奴なら、確実に一目置くっすね。」
「ぬお! サモンさんとクリスさんって、そんな有名人だったのか?!」
「それに、神器イベントで名前が載ったのは、あそこが初めてっす。秘密を知りたい奴は五万と居るはずっす。下手したら、情報目当てに入会希望者が殺到するかもっすよ?」
ぐは!
こいつは想定外だ。俺としては、身体を取り戻すまで、適当に時間が潰せるだけで良かったのだが。
「う~ん、しかし、ここまで世話になっておきながら、あの二人に出て行けとも言えないし、そもそも切る理由が無い。サモンさんはあれだが、クリスさんには非の打ちどころがあろうはずもない。というか、今の話じゃ、今更何をやっても無意味だろう。」
「そうっすね~。でも、用心はした方がいいっすね。情報目当てのくれくれ君は、しつこいっすから。」
「しかし、あの情報に関しては、サモンさんが目下配信中だろうし、じきに広まるだろう。そうなれば俺に価値なんてない。」
「それはどうっすかね~? あたいの見ているだけで、シンさんは既に3個、コンプリートを達成してるっす。クリアとコンプリートの違いを知っている奴だけでも少ないのに、たった数日でそれを3つも解いたんすよ? 少しは自覚して欲しいっす。」
「あんなもん、全部偶々だ。それに、ローズが居なければ、どれも達成できなかったものだぞ。」
「そ、そう言ってくれるのは嬉しいんすけど、とにかくシンさんは凄いっす! 今日のあれだって、あたいはサモンと一緒に目を丸くしてたっす。サモンに至っては、『ローズちゃん、VRファントム、丸ごとうちにスカウトしたい!』って、馬鹿な事言い出してきたから、殴っておいたっすけど。」
「ぐは! 戦闘中に余裕ありすぎだろ!」
しかし、確かに最後の方は、前衛二人、座り込んでいたな。
「それもシンさんのせいっすよ? あたいら、ガードだったのに、殆ど攻撃喰らわなかったっすから。はっきり言うっす。あの場の映像流したら、シンさんは、全てのギルドからスカウトされるっす!」
「え? あれ、そんな凄い事なのか? 攻撃パターンさえ分かってしまえば、誰でも出来そうな気がするのだけど?」
「以前にも言ったっすけど、シンさんはメイガスっす。あたいでも、噂でしか聞いた事が無かった存在っす。というか、シンさん、本当に人間なんすか? 全体攻撃スキルを無効化したなんて、噂でも聞かないっすよ?」
俺は少し考える。
確かに自分はもはや人間とは呼べないかもしれない。
しかし、魔法を唱える感覚は、生前と全く同じだ。
だが、ひょっとしたら、その記憶そのものが抜け落ちているのかもしれない。そして何よりも、俺はPCないしはサーバーと一体化した、データ人間だ。
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