第19話 更なる力

         更なる力



 ローズとサモンが盾を翳しながら、部屋の奥にかかっている簾の前まで、一気に走り込む!

 そして、俺とクリスさんが、その後を追う。

 カオリンとタカピさんが、更に後ろに続く。


 俺達が配置につくと、以前と同様、簾越しから声がする。


「よくぞ参られた。わらわは玉祖命たまのおやのみこと、神の座に位置する者じゃ。おやまた6人かえ? しかも、何度も見た顔もおるようじゃの。しかし、何度来ても、わらわは手を緩めぬぞよ? 覚悟はいいかや?」


 ふむ、このAI,挑戦者を記憶しているようだ。全く良く出来ている。


 そして、簾が上がった!


「では、神の試練の始まりじゃ。耐えて見せるが良い! 見事乗り切った暁には、褒美を遣わそうぞ!」


「城塞! ガードアップ!」

「城塞! ガードアップ!」

「オールマジックバリア! スピードアップ! スピードアップ!」


 簾が上がり切ると同時に、前衛二人が盾スキルを使ってから、般若に突進する!

 そして、今のバフはクリスさんだ。これは、俺が唱えるよりも効果が高いし、俺だとリキャストタイムがあるから、仕方が無い。

 そして、予定通り二人は、そこからこのボスを一歩も前に出させないつもりだ。


「準備も出来たようじゃの~。では、遠慮なく行くぞえ。神の力、味わうが良い! サンダーレイン!」


 前回同様、無数の雷線が部屋に溢れる!


「「「「「「ぐっ!」」」」」」


 これは思った通り、全体魔法だったようだ。

 俺のHPが一気に2000減る!

 全員のを確認すると、全く同じく、2000ずつ減っている。

 ふむ、これは固定ダメージのようだ。魔法防御無視だな。


「オールヒール!」


 クリスさんの回復魔法で、全員のHPが一瞬で回復する!


「…2、3、4、…」


 タカピさんがカウントしてくれているおかげで、次の攻撃のタイミングが分かる。


「耐えたかや? 次々行くぞよ。」


 あのでっかい槌だ! 全くどっから取り出しているのやら。


「…5、来ます!」


 般若は大槌を振り翳す!

 む! あの向き! 狙いはサモン!

 間に合うか?!


「神の『ダメージキャンセル!』鉄槌!」


 俺は迷わずボスとサモンを選択し、唱える!


 大槌が振り下ろされる!

 瞬間、盾を前に身構えていたサモンの身体がまっ青に光る!


「よっしゃ! 思うた通りや! シンさん、ナイスや!」

「ほほ~う、どうやら小癪な真似をする者がおるようじゃの。しかし、そうでなくては、わらわの試練も意味が無いでのう。もっとも、何もしなかった者も居ったがの~。」


 ぐは!

 『何もしなかった者』って俺の事に違いない。


「まあ、俺はそれこそ何度も喰らったからな。タイミングは掴めているよ。」

「…4、5、来ます!」


 今度はあの爪攻撃だ! 狙いはローズ!


「ダメージキャンセル!」


 げ! リキャストタイム中だった。

 俺の声は空しく響き、盾ごとローズが吹っ飛ぶ!

 そういや、何も考えずに唱えようとしたしな。


「どんまいっす! これくらい、余裕っす!」

「グランドヒール!」


 ローズはすぐに立ち上がり、再び、般若に肉迫する!


「ほ~、ほっほっほ。いい様じゃのう。まだまだ続くぞよ。そ~れっ! トルネードF5!」


 俺の身体が宙を舞い、そして、地面に叩きつけられる!

 周りを見ると、全員同様に喰らったようだ。

 チッ! 全体魔法だ!

 HPが3000程減り、一気にイエローゾーンだ!


「オールグランドヒール! ヒール! ヒール!」


 クリスさんの回復魔法で、再び全員のHPが全回復する。ヒール2回はカオリンとタカピさんへだろう。彼らの方が、称号効果のある俺よりも、魔法防御が少ない分、余計に喰らったはずだ。


「…4、5、来る!」


 今度もまたどっから出したか知らないが、巨大な剣が般若の両手に握られている!


「これはどうかえ? 灰塵『ダメージキャンセル!』剣!」


 俺は咄嗟に、ローズとサモン、そして玉祖命、3人を選択して唱える!

 うん、何度も喰らっていたので、タイミングは合っているはずだ。しかし、普通は、攻撃側とそれを受ける側、二人だけなのだが、どちらに攻撃してくるのか読めず、思わず両方を選択してしまった!

 しくった! これは失敗だろう。


 般若は剣を持ったまま回転しだし、それに二人が巻き込まれる!


 ん?

 二人の身体が青く光る。

 そして、予想に反して吹き飛ばされない。


「え? 成功?」

「思った通りっす! シンさんは範囲攻撃でも、成功するっす!」

「へっ! わいの睨んだ通りや。シンさん、次、魔法でも試してみてや! クリス!」

「分かっていますわ!」


 クリスさんが、俺の側に駆け寄って来て、あの勾玉を俺に差し出す。

 俺も、すぐに理解して、装備していた奴と交換する。


「…4、5、来る!」

「全く小癪よの~、そ~れっ! 炎『ダメージキャンセル!』獄!」


 今度は迷わず全員を選択する!

 部屋中が炎に包まれるが、全く熱くない。以前は、視界が真っ赤に染まり、それなりに熱いと感じたのだが。


 周りを見ると、全員の身体が青く光る!

 ふむ、また成功のようだ。選択する対象を絞らなくていい分、こっちの方が楽かもしれない。


「よっしゃ~っ! カオリンちゃん、分かっとるな? シンさんのMP、頼むで!」

「勿論よ! シン! MPは気にせず、唱え捲りなさい!」

「お、おう。」


 俺のMPを確認すると、今の2回で640減っている。なるほど、かけた人数分消費したと。そして、クリスさんの回復魔法と比べると、彼女の方が俺の3倍近くのMPがある事を考えても、この方が、若干分がいい。ただ、失敗するリスクを考えると、微妙なところだが。


「なんと! これもかや! じゃあ、これはどうじゃ! 絶対『マジックキャンセル!』零度!」


 うん、こいつも覚えている。このボスが唯一使う、普通の範囲魔法だ。これはスキルでは無く、魔法なので、『マジックキャンセル』が有効なはずだ。


 思った通り、詠唱は中断されたようで、何も起こらない。


「ええ~い! 口惜しや! しかし、それでこそ、わらわに挑む資格があると言えようぞ! では、次々行くぞえ。わらわを失望させるでないぞよ。」

「……5、来る!」

「神の『ダメージキャンセル!』鉄槌!」


 よし! 今回も成功だ!

 前回、喰らいまくったおかげで、こいつの攻撃は全て読める!



 それから何度攻撃を無効化したか分からない。

 流石に20回に一度くらいは失敗するが、ほぼ成功だ。

 また、失敗しても、クリスさんが自分の出番だと、寧ろ嬉しそうだ。


 時間を見ると、入ってから、もう40分くらい経過している。

 6秒に一回として、もう400回の攻撃を耐えたことになる。

 普通なら集中力が持たない筈なのだが、データ人間の俺には、おそらく疲れとかは無縁なのだろう。

 敵の攻撃も既にループしているので、完全に単調な作業と化している。


 前衛の二人は既に、盾だけ翳して座り込んでいる。

 最初のうちは、30秒ごとに、『城塞』と『ガードアップ』をかけ直していたが、それも止め、サモンに至っては欠伸をしている。そのうち、ちゃぶ台でも出して、二人で茶でも飲みださないか心配だ。

 おかげで、般若の台詞が怒り狂っているが、特に攻撃に変化は無い。


 クリスさんだけが、律儀に30秒ごとに『オールマジックバリア』をかけてくれる。これは、もし俺が失敗した場合、タカピさんとカオリンが一撃でレッドゾーンになってしまう可能性があるので、絶対に必要だ。


 しかし、後ろを振り返ると、タカピさんとカオリンが心配そうな顔で俺を見ている。


「シン君、何か違和感があったら、すぐに言って下さいよ!」

「はい、タカピさん、全く問題無さそうです。あるとすれば、そろそろ飽きて来たというくらいですかね。」

「シン! ここまで来てポカは許されないわ! 油断は禁物よ!」

「そうですね、シン君、サンダーレイン、来ます!」


 もはや、完全にループしているので、次に何が来るか、全員分かっている。

 俺は難なく無効化させる。

 この攻撃だけは固定ダメージなので、効かないかと思っていたのだが、大丈夫なようだ。



 そして、遂にあの台詞が出た!


「ほほ~う、そなた達、やるではないか! わらわの試練に見事耐えきった、二組目じゃ! 褒美を進ぜよう! 受け取るが良い!」


 視界いっぱいに広がる「CONGRATULATION」の文字!

 そして「八尺瓊勾玉のクエスト、コンプリート!」と続く!


 更に、般若の顔が絶世の美女へと変化する!


「おっしゃ~っ! コンプリートや! おう、称号も『神の試練に耐えし者』や!」

「へ~、これがシンさんの好みの天女っすか。確かに美人っすね。よし、覚えたっす!」

「シンさん、お疲れ様ですわ。なんか、出番を取られたみたいで少し悔しいですわ!」

「シン君、おめでとう! これで心置き無くなりましたね。」

「シン! やったわね! 皆さん、お疲れ様。あたし、何も出来なかったので、ちょっと心苦しいわ。」

「うん、皆ありがとう!」


 そして、天女は続ける。


「このクエストをコンプリートしたそなた達の名前をそこの壁に残してやろうと思うのじゃが、どうかえ? 最初に達成した、そこの者には拒まれたのでな。」


 ぬお! きっちり覚えていやがる!


「今回は残してくれ。皆、いいよな?」

「当然や!」

「嬉しいですわ。」

「あはは、なんか恥ずかしいですね~。」

「あたしも少し後ろめたいけど、いいわ。ちゃんと証拠を残しておかないと、変な噂が立ちそうだし。」

「あたいの名前はサモンより上に載せて欲しいっす!」


 俺達は奥に出現した扉から、胸を張って出る!

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