第15話 金太郎クエスト

          金太郎クエスト



 ビデオで映画を見ていると、ローズがやって来た。


「シンさん、おはようっす。早いっすね、ちゃんと寝てるんすか?」


 う! この質問は痛い!


「お、おう。年取ると、朝が早くて。」

「なんか爺むさいっすね~。で、今日のメインは昼からっすから、それまでどっか狩りに行かないっすか?」


 うむ、自分でも、フォローになっていないのは分かっているが、流してくれて良かった。


「そうだな~、昨晩、あれからサモンさんが来て、結局、俺はバッファーを極めることになった。それで、いくつかスキルを取得したんだ。なので、それの練習をしてみたい。サモンさんとだと、なんか試験を受けさせられている気分だったからな~。」

「あははは、早速試されたっすか。まあ、あたいも他人の事は言えないっすけど。高レベルになると、色々とお節介したくなるんすよ。見下してるとかじゃないんで、安心して欲しいっす。で、どのスキル取ったんすか?」


 俺がローズに昨晩の事を説明すると、彼女は何度も頷きながら聞いてくれた。


「なるほどっす。サモンもあたいと同じ見立てっすね。その試し撃ちの結果からすると、やっぱりシンさんはメイガスっすね。じゃあ、ちょっと、高レベルの所でやって見るっすか?」



 ローズと相談した結果、俺達は『箱根の街』へ向かう。

 ここにあるクエスト、『金太郎の熊退治』をやるつもりだ。


「ここ、初めて来るけど、そこら中が温泉だな。リアルなら入りたいところだが、ヴァーチャルじゃちとな~。」

「そうっすね~。更に、このゲームのアバ、裸の設定はないっすから、期待しても無理っすよ?」 

「アホ! サモンさんと一緒にしないでくれ!」


 ふむ、ローズはあのエロ廃神にかなり鍛えられたと見た。

 しかし、水着の設定くらいはあってもいいかもな。

 サモンに相談すれば、奴の事だ。運営側に呑ませる妙案を捻り出すかもしれない。

 ぐへへ。今度、桧山さんに提案してみるか?


「あははは。ちなみに、あたいの感じじゃ、結構いい気分になれるっすよ。」

「ふ~ん、そうなんだ。なら、時間があれば浸かってみたくもあるな。」

「じゃ、終わって時間が余れば入ってみるっす。なんなら、一緒でもいいっすよ~?」

「ふむ、それはいいけど、そのアバ、湯に入ると、毛が抜けたりしないだろうな?」

「失礼っすね! もう頼まれても一緒に入らないっす!」


 あら、怒らせてしまったか?

 しかし、口調とは裏腹に、ローズの顔はにこやかだ。


 そして、辺りを見ると、この時間にも関わらず、カップルらしき人達が、何組か湯船で寛いでいる。

 皆、鎧とか装備したままだが、そこら辺は仕方無いと、割り切っているようだ。



 俺達は街を出て、『金時の山』に向かう。

 推奨レベルは55。ローズには楽勝だろうが、現在レベルが44の俺にとっては、結構きついかもしれない。増してや、たったの二人だ。


「じゃあ、予定通り俺が支援するから、ボス部屋までの雑魚はローズが狩ってくれ。俺も手伝いたいところだが、いい武器も無いし、足手纏いになるだけだろう。」

「了解っす! 武器ならいくらでも貸せるっすけど、シンさんの練習っすからね。で、早速、山の住人のお出ましっす!」


 見ると、道の脇から狐と思しき魔物が2体、俺達に向かって駆けて来た!

 結構素早そうな奴らだ。

 そして、ローズもそいつらに向かって突進する!


 ん? 良く見ると、ローズは盾を装備していない。代わりに、両手に銀色と金色の斧を装備している。


「スピードダウン! スピードダウン!」


 先ずは相手の機動力を削ぐ!


「いい感じっす! これなら盾は必要ないっす!」


 ローズはあっさり狐の爪攻撃と、噛み付き攻撃を躱す!


 うん、ここだ!


「一匹目! アクシズ『ダブルアタック!』ラッシュ!」


 俺は、ローズが斧スキル、『アクシズラッシュ』を放つ瞬間に、『ダブルアタック』を詠唱する!

 ローズの身体が一瞬真っ赤に光り、容赦の無い二斧での4連続攻撃が、一体を襲う!


 ちなみに、『ダブルアタック』は文字通り、一度だけ、かけた相手の攻撃力を倍加させる。

 味方が攻撃をしようとしてから、敵に攻撃が当たるまでにかけなければならないので、タイミングとしては、1秒も無い。

 そして、攻撃力を30秒間、詠み手の魔力に比例して増加させる、『パワーブースト』との重ね掛けはできない。なので、一撃だけに限って言えば、元々攻撃力の高いローズの攻撃力を倍にさせるこちらのほうが、遥かに効率がいい。消費MPも一緒の80だ。


 狐の魔物一体が、光の輪を描いてから、消える。


「おし! 決まった! しかし、一撃って……。やっぱローズは凄いな。」

「いや、絶妙っす! あたいも、この支援を受けられるのは久しぶりっす! できるのも分かったし、MPも勿体無いっすから、もう一匹は任せて欲しいっす!」


 ローズはそう言いながら、軽やかに舞いながら、もう一体の攻撃を躱し、更に躱し様に攻撃を入れて行く!


 少々時間はかかったが、それでも30秒もかからずにもう一体も消えた。


「これは快感っすね。この調子でどんどん行くっす!」



 それから、道中、何度も似たような感じで、MPを節約しながら殲滅して行く。

 敵が3体までなら、さっきと同じ手順で一体を屠ってから、残った奴をローズが躱しながら仕留める。

 そして、団体さんで来られた場合でも、心配は要らなかった。

 ローズが突っ込み、斧の全体攻撃スキル、『ローリングアクシズ』を放つ時に、俺が『ダブルアタック』を唱える。その一撃で大抵は全滅する。


「うん、いい感じだ。ってか、俺居なくても、ローズ一人で行けそうなのがちと辛いが。」

「そんな事ないっす! シンさんのアシストが無いと、あたい一人じゃ流石にきついっす。うん、シンさんとなら、あたいもアタッカーの方がいいっすね。」

「ありがとう。しかし、あの斧スキル、目が回らないのか? 独楽みたいに回転しながら、両手の斧でぶった斬っているけど?」

「あははは。そこまでは設定されていないみたいっすね。視界は確かにぐるぐる回るんすけど、そういう感覚は無いっすね。」



 そして、遂にボス部屋の前に来た。

 ローズのおかげで、たった二人でも、あまり時間がかかっていない。1時間半くらいか?

 幸い、まだ朝も早いからか、誰も入って居ない。


「ここのボスは一体だけ、真っ赤な3mくらいの巨熊っす。要注意は、鋭い爪で掴んでからの投げ技っすね。まともに喰らうと、あたいでも5000くらい持って行かれるっす。」


 ローズのHPは18000くらいなので、1/3弱というところか。HPが5000弱しか無い俺なら即死だな。


「分かった。じゃあ、ローズは『城塞』かけてから、タイマン勝負。そこを俺が支援するでいいのか?」

「タイマンは任せろっす。だけど、シンさんを信頼するんで、盾スキルは使わないっす。あたいのスキルは全て攻撃に集中させるっす。盾も装備しないっす。」

「ふむ、確かに喰らっても、3発まではギリ耐えられそうだ。俺も回復はできるし。ただ、MPの残量が心配だ。現在半分、3000くらい残っているけど、全回復のエクストラヒールだと、杖のおかげで800消費。ハイパーヒールなら、俺の魔力だと、5000くらいの回復で、MP240食う。ローズくらいのレベルなら、ハイパーヒール一発で10000くらい行けるんだろうが。まあ、一応MP回復アイテムを持っているので、何とかなると思うが、出来れば使いたくはない。」


 そう、『布袋の巾着』は、昼の本番の為に、残しておきたいのだ。

 もっとも、ここに来るまでにレアドロップで2個ゲットしたので、ローズと一つずつ分けたが。

 ふむ、このくらいのレベルのクエストになると、ドロップ率が高くなるのかもしれないな。


「なら大丈夫っすね。あたいもやばくなったら自分で回復するっす。攻撃スキルと魔法は、リキャストタイムが別勘定っすから。ただ、敵は一体なんで、あれを使って欲しいっす。『ダメージキャンセル』なら、消費MPも80。決まればかなりの節約っす。」

「分かった。サモンさんとの時は、猿の攻撃が読み易かったけど、今回は未知だ。なので、自信は無いが試してみるよ。あまり成功しないようなら、俺はヒーラーに徹するから。」

「了解っす! じゃあ、行くっす!」


 俺とローズは扉の窪みに手を触れ、最後に俺が中心の白球に手を触れる。

 重い音と共に扉が開いた!

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