第14話 姉
姉
実験は上々だった!
柿の木の上に陣取る猿共から、『柿の実爆弾』を投げつけられるが、それを『ダメージキャンセル』で、ほぼ無効化する。
また、サモンにかけた『ダブルアタック』も、いい感じのようだ。
但し、サモン、頼むからノーリアクションで攻撃するのはやめてくれ。
それに合わせろって無茶振りだろ!
もっとも、半分以上は成功したが。
そして、現在俺は、ギルドルームに戻って、結果についての考察をサモンから受けている。
「うん、やっぱり思うたとおりや。シンさんはメイガスやな。」
「ん? メイガス?」
「あ~、わいらの造語みたいなもんや。たまにおんねん。魔法の出がめっちゃ早い奴。シンさんは正しくそれや。色々試させてもろたけど、わいの、あんな攻撃に合わせられる奴はまずおらへん。」
ふむ、やはりわざとか。
「う~ん、自分ではそう思ったことは無いんだがな~。確かに、ローズにも同じような事を言われたが。そして、あれくらい誰でもできそうな気がするんだがな~。」
「シンさん、それはできる奴にしか許されへん発言やで。今の、うちのバッファー連中に聞かせたら、泣くか怒るかどっちかや。」
俺が首を捻っていると、サモンは更に続ける。
「まあ、シンさんの実力はよう分かった。それを含めて、昼からの作戦、組ませて貰うわ。そんで、こっちも色々と準備せなあかんし、一旦うちのギルドに戻るわ。ほな、また昼に。」
サモンはそう言い残して、ドアから出て行った。
サモンの『準備』の意味は分かる。おそらく、ローズ以外の、俺達3人の防具の調達だろう。
さて、これから昼まで、どう暇を潰すかと考えていると、頭にいきなり声が響く!
また新庄かと思ったが、女の声だ!
しかも、こいつは……。
「アラちゃん! で、いいのかしら? でも、ずっと見ていた感じ、やっぱりアラちゃんよね~?」
「そ、その声は…、もしかして、姉貴?」
俺の名前、新アラタを、家族からのみ、アラちゃんと呼ばれている。なので、俺の事をアラちゃんと呼ぶのは、現在姉貴だけだ。
「ふふ~ん、やっぱり間違いないわね。私も半信半疑だったけど、良かったわ!」
「ふむ、遂にここまで乗り込んで来たか。どういう手段を使ったかは知らないが、姉貴らしいと言えば、それまでか。まあ、なんだ、心配かけて済まない。見た通り、無事とは言えないが、かろうじて生きているようだ。」
「ほんっと~に、心配したんだから! 全く、中途半端に死ぬのは止めて欲しいものね! それで、何か不自由は無い? そこのモニターから、有料だけどエッチなビデオも見られるはずよ。お金はそのIDから自動的に引き落とされるわ。」
「アホ! この身体でどうしろと? ふむ、あの金はそういう意味があったのか。まあ、映画とかアニメとか見られるのなら、それはそれでいいけど。ところで、今更だけど、どうやって潜り込んだ?」
姉貴の話によると、どうやら、NGMLに非常勤として臨時採用されたようだ。
その結果、夜中の見張りを新庄に代わったらしい。
手段は教えて貰えなかったが、大体想像がつく。大方、直接乗り込んで、雇わなければ大騒ぎするとか脅迫したのだろう。
まあ、NGMLとしても、身内を巻き込めたのなら、むしろ好都合と言うところか。
「なるほど。納得できた。本当にありがとう。それで、何か進展とかあったら、教えて欲しいのだけど?」
「う~ん、私は専門家じゃないから。詳しい事は松井さんか、住吉院長にでも聞いてね~。私の目的は、専ら、あいつらに好き勝手させない事と、アラちゃんを元の身体に戻す手伝いをする事。アンダスタ~ン?」
「ふむ、理解はできるし、嬉しいけど、好き勝手させないって、ここで言ってしまっていいのか? 俺に関するログとかは全て記録されているはずだろ?」
「あ~、それは大丈夫。最初にそこはしっかり釘刺しておいたから~。」
なるほど。心配はしていなかったが、姉貴は、既に俺に関する主導権を獲ったと見ていいだろう。
そして、
「分かった。それで、姉貴はどうする? 申し訳ないが、今の仕事も辞めさせてしまったようだし。生き返れるかどうかも分からない俺に付き合わせるのは気が引ける。」
「アラちゃんは、そんな事、心配しなくて宜しい! ちなみに給料は前の会社よりいいわね。それで、勿論、アラちゃんが元の身体に戻れるまで付き合うつもり。ペッピーノにはまだ言っていないけど。」
「う~ん、なんか彼氏さんにも申し訳無いな~。しかし、そう言う事なら、姉貴に甘えるしかなさそうだ。ところで、用件は当然、俺の確認だけじゃないのだろ?」
「あ、忘れるところだったわ。これ、頼まれていたんだっけ。え~っと、今からモニターに映す絵を見なさい。」
モニターには、見た事も無い画像が映される。
足が6本あるところを見ると、昆虫だろうか?
「これ、何か分かる?」
「いや、分らん。何かの虫か? 尻にある、クワガタの頭みたいなのは武器になるのか?」
「これは、ハサミムシ。石なんかをひっくり返すと居るわ。そう、やっぱりね。」
「ん? そんな虫が居たのか。とにかく、初めて見たよ。」
「まあいいわ。じゃ、次。」
「ん? これは誰でも分かる。Gだ! 奴らの殲滅作業は、俺に押し付けていたよな。」
「なるほど、これは分かると。じゃ、次。」
そんな感じで、モニターに次々と画像が流れて行く。
見た事も無い奴もあれば、誰でも知っているような動物とかもある。
「それで姉貴、これは一体何のテストだ?」
「結論から言うわ。アラちゃん、あなた、結構記憶が抜け落ちているわね。最初の虫にしても、アラちゃんなら知っているはず。昔、私の筆箱に入れられたの、忘れないわよ!」
ぐは! 俺、そんな事したのか? 全く記憶に無い!
「え? しかし、記憶が抜け落ちているって? 俺には、全く自覚が無いが。そもそも、あんな生物、本当に存在するのか? バクとか言ったっけ? あの配色はあんまりだぞ?」
「良く聞きなさい。あれは本当に存在するわ。そして、名前は分からなくても、TVとかで見た事くらいはあるはずなの。じゃ、続けるわよ。」
次は親族とかの質問をされる。
覚えている人が大半だが、遠縁の人とかは、存在すらが分からない。
ここで、俺も気付いた。
そう、俺の記憶全部が、たかだが1テラのPCに納まり切るはずが無いのだ!
そして、もし全部入っていたのなら、とっくにパンクしていただろう。
「うん、理解できたわ。どうやら、普段全く使わないような知識は、抜け落ちていると見ていいわね。幸い、良く使うのは覚えているようだけど。」
「う~ん、どうやらそのようだ。しかしそう言われると、益々俺の存在がデータ人間として確立されてしまう。それに、もし元の身体に戻れても大丈夫なのだろうか?」
「それは私には分からないけど、とにかく今は元の身体に戻ることが先決よ。記憶の不具合とかは、それから心配しなさい。じゃあ、私はやりたい事があるから、何かあったら呼びなさいね。」
「分かった。ありがとう。じゃ、また。」
姉貴との会話はこれで終わった。
俺はする事が無いので、教わった通り、モニターで映画を見る。
まだ朝の5時だ。
眠くならないっていうのは、本当にきつい。
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