第13話 サモン

             サモン



 その後はサモンさんに、俺達の現状、習得スキル等を伝え、打ち合わせをする。

 彼の役目は、俺達を守ることになる訳だから、これは必須だ。


「ほな、明日の昼、1時にここ集合ってことでええですか? 色々準備もせなあかんし。あ、その前に、わいもこのギルド、入らせて欲しいんですけど?」

「はい、明日は宜しくお願いします。しかし、パーティー組むだけなら、わざわざうちに入らなくても構わないのでは? 増してやサモンさん、オーナーでしょ? いいんですか?」

「そないな事は気にせんでええですわ。オーナーなんて只の飾りや。ローズちゃんも来てもて、ここ、なんかおもろくなりそうやしな~。それに、管理サイドからのおこぼれ話とかにありつけそうや。なんや、特別待遇されてるんは、そのモニターでも分かるし。当然、あのアイテムは今買いましたで。うん、装備もした。で、入れてくれはりますか?」


 ぐは!

 しっかりばれてる。まあ、あの話をした時点で終わりか。

 視界の隅に流れるログから、サモンナイトの入会を承認する。


「まあ、サモンさんがいいのなら、俺に断る理由は無いです。うん、承認した。じゃあ、これから宜しくお願いします。俺のことはシンでいいです。」

「おおきに。わいの事も、サモンと呼び捨てでお願いしますわ。シンさんはここのオーナーさんやから、シンさんや。」

「う~ん、俺も、サモンさんの事は、サモンさんですね~。あ、じゃあ、話し方だけでも、お互いフランクに行こう。それでどうだろう?」

「せやな、仲間やったら当たり前のことや。じゃあ、タカピさん、カオリンちゃん、そんで、ローズちゃんも、よろしゅう。」


 サモンさんは、皆と握手する。


「しかし、カオリンちゃんのアバ、ええな~。わいの好みや。」

「あら、サモンさん、ありがとう。でも、このアバ、普通の奴よ?」

「そこがええんや! この世界、皆、美男美女ばっかや! でなければ、わいらみたいなファンタジーもんや。シンさんや、タカピさん、カオリンちゃんみたいなんは、結構、希少やで? そいで、カオリンちゃんのは、普通やのに美人や! これは凄い事や!」


 う~ん、自分では気にした事がないのだが、そんなもんだろうか?

 カオリンに限って言えば、リアルの彼女を知っているので、違和感が無く、俺も気楽ではあるが。

 カオリンも、そこまで褒められると悪い気はしていないようで、交渉の時には険しかった目元が、一気に穏やかになった。


 相変わらずちょろいな。


「ほな、わいはこれで一旦落ちますわ。じゃ、また明日。」


 サモンさんが扉に向かおうとした、その時だ!

 奴は、手を伸ばして、カオリンの胸を揉みやがった!


 おい! と俺が叫ぶ間もなく、カオリンの怒声!


「きゃ! ちょっと何すんのよ!」


 カオリンは引っ叩こうとするが、その前にサモンは消える!

 ふむ、セクハラぺナで強制退場と。


「な、何だったんだ、今のは? あそこまで露骨な奴、初めて見たぞ?」

「確かに、ミントさんでもしなかった事ですね~。」

「あ~、あれがあいつの挨拶なんすよ。気に入った相手には、ログアウトする時に必ずやるっす。あたいも…いや、何でもないっす。あいつはあれをやる為だけに廃になったって、噂もあるくらいっす。とにかく、気にしたら負けっす!」


 確かに、セクハラぺナは、死亡と一緒の扱いなので、資金と経験値が減る。常に稼いでいなければ、そうそうできない筈だ。

 そして、どうやらローズもされたことがあるようだ。彼女、それでアバ変えたのかもな。

 ローズの彼に対する評価も納得だ。


しかし、セクハラぺナをログアウト機能として使うとは! 関西人のセンス、恐ろしいわ!


「挨拶だろうが何だろうが、どうでもいいわ! シン! あのエロ兎、次会ったら必ず引っ叩く! いいわね!」

「わ、分かった。好きにしてくれ。ん? もう12時前だ。皆、遅くまでありがとう。今日はここで解散だ。」

「そうっすね。あたいも眠いっす。お疲れ様っす。」

「うん、ローズありがとう。君のおかげで、何とかなりそうだ。お休み。」


 ローズはここで消えた。


「じゃ、じゃあ、シン、悪いわね。約束した通り、あたしも落ちさせて貰うわ。お疲れ様。」

「うん、シン君、僕もここで落ちるよ。何かあったら、私の家に連絡させるようにしているから、安心して欲しい。お疲れ様。」


 そして、二人も消えた。



 その後、皆が居なくなって、する事も無くなったので、TVをつけてみる。


 すると、サモンが戻って来た。

 名前通り、宵っ張りなのか?


「お帰り、サモンさん。残念ながら、皆、落ちてしまって、残っているのは俺だけだ。」

「いや、ちょっとあれから考えてん。シンさんも知っての通り、ボスの攻撃は凄まじい。なんぼ回復アイテムがようさんあるっちゅうても、耐えきれる保証はあらへん。おまけに、VRファントムは、ファントムカース装備が必須や。つまり、わいやローズちゃんが耐えきれても、他の誰かがレッドゾーンに入ってしもたら、クリアにならへん。」


 ふむ、通常ならば、途中で誰かが死んでも、残った誰かがクリアすれば、挑戦した全員がクリア扱いとなる。

しかし、ファントムカースを付けて居れば、死ぬことは無くても、HPがレッドゾーンに入ってしまうと、直近の転移装置に飛ばされてしまい、挑戦したと認められない。


「そこでや。シンさん、バッファー、極めへんか? まだスキルP余ってるって言うてたやん。」

「うん、俺もそれには異存が無いのだけど、まだたった4人のギルド、新規メンバーが入った時の事を考えて、保留しているんだよ。今の所は、ヒーラーとしてなら通用しそうだし。」

「そら分かるわ。シンさんとこは、前衛は完璧やけど、シンさん以外、後衛がおらへん。一人で全部はそら無理や。せやけど、ローズちゃんの話では、『マジックキャンセル』、全部成功させたって言うやないか。それ、凄い才能やと思うで?」

「う~ん、しかし、ボス相手じゃ効く奴少ないし、対人くらいでしか、あまり使えないしな~。」


 そう、魔物の魔法はスキル扱いされているものが大半で、それには通用しないのである。


「いや、実はな、八尺瓊勾玉のボス、確かに『マジックキャンセル』は効かへんねんけど、バフ系上位の、『ハーフダメージ』と、最上級の『ダメージキャンセル』は効くねん。まあ、あれは効かへん奴はおらへんけどな。」

「なるほど。しかしあれ、敵の攻撃が決まる直前に、攻撃側と喰らう側、両方を選択してかけないといけないので、タイミングがかなり難しいと聞くが? ただ、消費MPは少ないらしいので、決まればラッキーって、認識だけど?」

「せや。うちの連中でも、そうそう成功せえへんかった。せやけど、あいつの場合は、『挑発』も、その上の『スーパーアイドル』も効かへん。せやから、攻撃は半径3m以内の奴にランダムや。なんで、わいらはガード二人で、奴の移動を抑え込みながら攻撃しとってんけど、わいらでも一発喰ろたら、『城塞』かけとっても、HPの1/3、5000くらいは持っていかれんねん。」


 なるほど。サモンの言いたい事は理解できた。

 『ダメージキャンセル』は、喰らったダメージ全てを無効化するので、決まればかなりの効果だ。しかし、『挑発』とかで、攻撃側と、防御側、かける相手が限定している場合でも難しいのに、防御側が二人だと更に成功率は低くなる。

 それでも、もし俺が成功すれば、それだけヒーラーの負担は減る。

 俺達はどうせお荷物なんだから、それくらいは協力しろと言う事だろう。


「分かった。すぐに取得するよ。」

「お~、おおきに。これで少しでも楽になるわ。それに、これでVRファントムの編成も一気にようなった! わいは、贅沢言わへんかったら、一応何処でもこなせるさかいな。」


 ん?

 サモンは、今回限りのピンチヒッターだと思っていたが?

 まあ、彼が加わってくれるのなら、心強い限りだが。


 俺がスキル取得の画面と睨めっこしていると、サモンが更にアドバイスしてくれる。


「後、上位の、『ダブルマジック』と、『ダブルアタック』も取ってみいへんか? これも同様、味方の詠唱が始まってから、攻撃が当たるまでにかけなあかんから、タイミングが命やけどな。なんで、他の奴には勧めへん。ローズちゃんの話で、シンさんやったらできそうやと思うたからや。」

「分かった。今回は必要無いと思うけど、ポイントあるから取っておくよ。うん、ありがとう。ただ、あんま自信無いんだけどな~。」

「まあ、騙されたと思うて。ほな、試し打ちしに行こか。せやな、猿蟹合戦がええな。あそこの猿は、スキル主体の攻撃やし。レベルもそれ程高ないしな。」

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