第12話 交渉
交渉
「「「「かんぱ~い!!」」」
現在、俺達は、ギルドルームに戻って祝勝会の真っ最中だ。
「それで、この防具、これはカオリンにあげようと思う。カオリン、まだ毒耐性、完璧じゃなっただろ。タカピさんには、必要無さそうですからね。当然ローズもね。それでいいかな?」
「え! 嬉しいわ! シン! ありがとう。でも、タカピさんとローズちゃんには、申し訳無いわ。」
「問題ないっす。あたいは、既にそれ以上のがあるっすからね。カオリン、どうぞっす。」
「あはは、やはりばれていましたか。この、『ハデスの兜』は、全耐性を無効にしてくれますからね~。カオリン、遠慮なく受けって下さい。」
やはりだ。これも、確か500円ガチャの当たりだったはずだ。しかし、タカピさん、どんだけガチャに嵌ってるんだ?
当たりと呼ばれるアイテムの種類は多いが、単品での確率は、確か1/1000だと聞くぞ?
ちなみに、クエスト報酬のアイテムは、通常一個しか手に入らず、クリアするとパーティーリーダーに支給される。なので、前回の奴は皆で相談して、ガード(盾役)のアロさんが貰っていた。
勿論、何度クリアしても構わないので、欲しい人が複数居れば、同じクエストに何度も挑戦するのが普通だ。
ただ、2度目以降は、貰えるスキルポイントが半減して行くので、アイテムさえ取ってしまえば、同じクエストは一気に魅力が無くなる。当然、飽きもする。
なので、報酬アイテムの優先権を巡って揉めるパーティーも少なくない。酷い例だと、リーダーが、アイテムを支給されたらそのままパーティーを解散させたりするらしい。
「ところで、新参のあたいが提案するのもなんっすけど。いいっすか?」
「新参って、確かに俺と一緒のパーティーではそうだが、もう立派な仲間だ。遠慮なく頼むよ。うん、それで?」
「あ、シンさんの事っす。シンさんの称号はともかく、『真・八尺瓊勾玉』の効果は目立ちすぎるっす。今日のPK連中にも、完全に不審に思われているはずっす。」
「うん、確かにそうだよな~。チート野郎って烙印を押されているのは確かだろう。まあ、実際そうなんだが。」
そう、リキャストタイム短縮効果や、連続詠唱できるアイテムは他にもある。しかし、3連続以上できる奴は、聞いた事が無い。
「え?! PKって?! シン! 大丈夫だったの?! って、何があっても死ねないのよね…。でも、頭に来るわね!」
「そうですか。そっちもばれてしまいましたか。でも、遅かれ早かれとは思っていましたが。」
ふむ、あの場にカオリンが居たら、下手したらローズ以上になっていたかもしれなかったな。
そして、タカピさんの指摘はもっともだ。俺もいつかばれるとは思っていた。
「それで、あたい考えたっす! 要は、正当な手段でシンさんがあのクエストをクリアすれば、問題無いっす!」
「それはいいわね! シンもこそこそしなくて済むわ! それに、あたしもそのクエスト、挑戦してみたいわ! ローズちゃん、ナイスよ!」
「うん、いい提案ですね。そうすれば、シン君の心の負担も減りますね。ですが、あのクエスト、先程聞いた話では、ボス部屋に行くだけでも大変のようです。例えローズ君が居ても、我々だけでは不可能でしょう。もっとも、ボスだけなら僕も考えが無い訳では無いですがね。」
うん、ローズの気持ちは嬉しいが、物理的に不可能では?
「ローズ、ありがとう。しかし、タカピさんの言う通り、俺達だけだと、ボス部屋までも辿り着けないだろう。タカピさんのボス対策には、興味あるけど。」
「そう、問題はそこっす! あたいも一人じゃ絶対無理っす! なので、援軍を雇うっす!」
「あ、ローズの知り合いか! 確かにエンドレスナイトの人なら凄い戦力だ。」
「え、ローズちゃん、あのエンドレスナイトに所属しているの? あたしからすれば雲の上の存在ね。」
「あはは、只の暇人の集まりっすよ。それで、あたいから頼んでみようかと思うっす。ただ、ちょっと問題があるっす。」
「分かったわ。いくら仲間のローズちゃんの頼みでも、あたし達みたいな低レベル、増してや知り合いでも無い相手に、タダでは動いてくれないってことね。」
「そうっす。カオリン、鋭いっす。でも、報酬はあるっす。あのクエストコンプリートの情報っす。でも、あたいは話さないって約束したっす。」
なるほど、連中にとって、情報は貴重って奴か。しかし、ローズも律儀だな~。
「ん? そう言う事なら、問題ないだろ? 遠慮なくばらせばいい。どうせ、いつか誰かが気付く。まだ価値があるうちに利用しよう。」
「そうですね。僕も、エンドレスナイトの人達のアイテムとかへの執念は凄いと聞きますからね~。引き換えなら動いてくれるでしょう。そして、シン君の言う通りです。」
「そうっすか。なら問題はないっすね。ただ、上手く話を持って行かないと、情報だけ取られるって事になるっす。あたいじゃ自信ないっす……。」
あ~、そこを気にしていた訳か。確かに、先に情報を教えてしまうと不味いかもしれない。
また、説明の仕方も難しい。俺の事を全部話す訳には行かない。
「う~ん、確かに、入手した経緯を話さずに、協力を得るのは厳しそうね。それで、ローズちゃん、聞いていい?」
お? カオリンには何か考えがあるようだ。
「どうぞっす!」
「そのギルドのオーナーさんって、信用できる…、いえ、約束を守れる人?」
「それは大丈夫っす。伊達に『廃神』ギルドのオーナー張ってないっす。約束だけは守る人っす。」
『だけは』なんかい!
「なら行けそうね。あたしに任せて頂戴。と言っても、失敗したら、ごめんね。」
「うん、カオリン、ありがとう。どうせダメ元だ。任せた!」
「ダメ元って失礼ね! それなりに勝算はあるつもりよ。そして、任されたわ。」
「あははは、カオリン、じゃあ、手順を教えて下さい。皆で打ち合わせと行きましょう。」
「「「はい!」」っす!」
カオリンの話は至ってシンプルだった。
エンドレスナイトのギルドオーナーをここに呼びつけ、ここでの話を一切他言無用にすることを約束させるだけだ。
「確かにオーナーのサモンナイトは、称号とかには目が無いっすから、教えると言えば、飛んでくるはずっす。でも、その情報を他人に教えないと約束させるのは無理っす。あいつの情報目当てに集まっているメンバーも多いっすから。」
「いえ、約束させるのは、ローズちゃんがしてくれたのと似たような内容よ。それと、あたし達、この4人を、八尺瓊勾玉のクエストをコンプリートさせる。それだけよ。」
「なるほど。彼らと一緒にクリアしてしまえば、情報はその時点で教えた事になりますね。」
ふむ、タカピさんの補足で納得だ。
「じゃあ、カオリン、その交渉をいつする? できれば、今、全員揃っている時にやりたい。しかし、今は夜の10時半。皆も、そろそろ眠いのでは? そして、そのサモンナイトさんも、捕まるだろうか?」
「あら、あたしはなんか目が冴えてきちゃったわ。それに明日は土曜で休みよ。問題無いわ。」
「僕も明日は休みですし、大丈夫ですね。そして、これはシン君がクリアした時とのタイムラグを少なくする為に、出来るだけ早い方がいいですね。」
「あたいもまだ大丈夫っす。ん? 丁度いいっす! サモンは今、ギルドルームっす! 連れて来るっす!」
ローズはそう言うと、部屋を飛び出して行った。
待つこと数分。ローズが一人の男と一緒に帰って来た。
身長は170cmくらいの亜人、真っピンクなうさぎ顔のアバター。武器は装備していないが、他の装備はローズとほぼ一緒。前衛か?
「VRファントムへようこそ。初めまして、サモンナイトさん。俺はシン。ここのオーナーです。」
「初めまして。わいはサモンナイト。エンドレスナイトのオーナーです。サモンでええですわ。そいで、後の二人は、タカピさんと、カオリンちゃんでええですね。あ~、挨拶なんかどうでもええです! はよ、話聞かせて下さい。」
カオリンとタカピさんが、立ち上がって挨拶をしようとするのを、サモンは手で制する。
そして、コの字型に配置されているソファーの、俺の正面に腰掛ける。
そして、俺と一緒のソファーには、カオリン。隣のソファーには、タカピさんとローズが腰掛ける。
「じゃあ、サモンさん、まず最初に約束して下さる? 今からの、ここでの事は絶対に誰にも話さない。話はそれからよ。」
ふむ、ここは全てカオリンに任せよう。
彼も、情報が欲しいのなら、これには大人しく従うだろう。
「それは、流石に話次第やな~。わいもガセネタ掴まされたら、ええ笑いもんやし。そいで、そっちも当然、只で教えてくれる気はないんやろ? だったら尚更や。」
なるほど、こいつは一筋縄では行かなそうだ。
「そうね。話の内容はもう分かっているわよね。シン! あの称号に付け替えて!」
「分かった。」
俺は、称号を、用心して付け替えていた、『チキンオブチキン』から、『神の試練に耐えし者』に戻す。
「お~! それですわ、それ! 今日、変な称号つけた、チート野郎見かけたって話が伝わってきたんですわ。勿論、さっきの称号ちゃいますで。あれはあれで聞きたいけど。それとローズちゃんや! 今朝の話、聞いたで。ローズちゃんが嘘つくとは、わいには思えん! 絶対になんかあるはずや!」
チッ、もう伝わっているのか!
あいつら、結構人脈あったんだな。
そして、ローズ、凄い信用だな。
「あら、じゃあ、話しは早いわね。そのチート野郎が、このシンよ。それで、さっきの約束、してくれるのかしら? 嫌ならここでお終いよ。そして、クエストの扉の、最初のコンプリート達成者の一覧に、サモンさんの名前が載らなくなるだけね。聞いているわよ。サモンさん、名前載せるの好きだって。」
ふむ、気にしたことは無いが、確かに、サモンナイトの名前は扉に良く書いてあった気がする。しかし、カオリン、そんな物よく見ているな~。
「う~ん、確かに他所に持って行かれたら敵わんな。おっしゃ! 約束する! 今からここで聞く話は、一切他言無用や! まあ、はなから呑むつもりやってんけど。」
「いいえ、話だけじゃないわ。サモンさんがこの部屋に入ってきてからの事、全てよ。」
「うわ~、カオリンちゃん、用心深いな~。勿論それも呑む!」
よし!
流石はカオリンだ! これでもう大丈夫だろう。
「じゃあ、話すわね。分かっていると思うけど、そのシンの称号は、八尺瓊勾玉クエストをコンプリートした時に得た物よ。」
「まあ、わいらも、神器クエストには絶対まだなんかあると思うとったんやけど、ほんまにあったとはな~。で、シンさん。それ、どないして取りはったんや? レベル40台で取れるとは思えへんねんけどな~。」
「あっと、シン! まだよ! それを話す前に、サモンさん、もう一つ約束して! 内容はもう分かっていると思うけど、この4人を、八尺瓊勾玉クエストをコンプリートさせる。それだけよ!」
うん、俺も当然まだ話すつもりは無い。
話してから逃げられたら、元も子も無い。
「ちょ、ちょっと待って欲しいわ。ローズちゃんと、そのシンさんは別としても、カオリンちゃんと、タカピさんのレベルではきついやろ? コンプリートの条件も教えてくれへんのに、それは無茶振りや。」
「じゃあ、教えたら、約束してくれる? あたし達の考え方では可能なはずなのよ。それに、ローズちゃんに聞いたわよ。貴方達、1パーティー6人でクリアしたって。なら、2パーティー組めば、楽勝じゃない。」
サモンは、腕を組んで考え込む。
確かに、条件を知らされずに、クリアさせるなんて、普通、無理な話だ。
「う~ん、済まん! ここまで聞いてなんやけど、流石にこれでは約束できん! わいもやりたいのは山々や。せやから、もうちっと話してくれへんか?」
ふむ、彼にその気はあると。うん、まだ脈はありそうだ。
「なら、サモンさん、俺がどうやってこれを取ったか、そして、何故この依頼をするのか、正直に話します。判断はそれからでいい。俺は貴方を信用する事に決めた。断られても後悔はしない。ただ、最初の約束だけは守って貰うが。それでどうでしょう?」
「え? シン! それは……。」
思った通り、カオリンが遮ろうとする。
「いや、カオリン、これでいいはずだ。今のままじゃ、俺が逆の立場で、本気でクリアさせるつもりなら、やはり受けられないと思う。そして、サモンさんは、大手ギルドのオーナーだ。それなりの何かが無ければ、いくらレベルが高くても、皆がついて来ないはずだ。話だけ聞いて断る人とは思えない。」
「シンさん、なんか凄い話になりそうやな。そこまで、わいを信用してくれはるんなら、それにきちんと返すのが礼儀や。うん、ええですわ。さっきの約束、受けます。うん、わいも腹くくった! さあ、話して下さい!」
俺は、ローズにした話をサモンさんにもする。
サモンさんは真剣な顔で黙って聞く。
「うん、納得できました。シンさんが、何故そないなったかは聞きません。誰でも、他人には言えへんことはある。そいで、確かにこのままじゃ、この世界では具合が悪いですわ。コンプリートの条件もそれで間違い無いと思う。なので、約束通り、お宅ら3人、あ、ローズちゃんもか、きっちりコンプさせますわ!」
やはり思った通りだ。
この人は、こっちが誠意を持って接すれば、応えてくれる人だった。
お互い、信用が無ければ何も進まない。
それには、どちらかが、先に相手を信用しなければならないはずだ。
「ただ、ちょっと問題がありますわ。手持ちのアイテムが足らへん。なんせ1時間近くの長丁場や。ローズちゃんは当然として、シンさんだけなら何とでもなるんやけど、タカピさんとカオリンちゃんもとなると、大量の回復アイテム、『アマテラスの涙』か、『布袋の巾着』が必要ですわ。両方、500円ガチャの景品か、レアドロップでしか手に入らへん。わいも流石にそこまでの持ち合わせはあらへんし、あったとしても、勘弁して欲しいところですわ。」
「え? 2パーティー、12人で挑んで、そちらが8人貸して下されば、そこまで回復アイテムに頼らなくても、不可能では無いはずよ?」
うん、俺もカオリンの言う通りだと思う。
ヒーラー8人居れば、楽勝では?
ちなみに、『アマテラスの涙』は、最高級の回復アイテム。あらゆる状態異常と、HP、MPがそれ一個で全回復する。『布袋の巾着』だと、MP全回復だけだ。
「カオリンちゃん、それはそうなんやけどな、恥ずかしい話やけど、わいも信用できる奴、7人用意するんは、ちときついんや。それに、このクエスト、できればあまり誰にも知って欲しないやろ? なんで、うちからは、わいともう一人だけ。それだけで挑むつもりや。勿論、成功するまで、責任もって付き合わして貰う。そう言う事ですわ。」
確かに俺も、この人を巻き込むだけでも気が引けるのに、更に7人は辛い。
そして、その配慮をしてくれるサモンさんには感謝だ。
すると、いきなりタカピさんが笑い出した!
「は~、はっはっは! ここで私の出番ですね~! いや~、アイテムボックスを拡張しておいてよかったですよ。『アマテラスの涙』と『布袋の巾着』、全部でいくつ必要ですか? 10個? 20個? それくらい屁でもないですね~! 100個くらいまでなら今すぐ出せますよ!」
ぐは!
そういや、タカピさん、ボスだけなら何とかみたいな、意味深な事言っていた気がする!
カオリンは目を丸くし、ローズは呆れたのか、ため息をついている。
「うわ~! こないなとこにもガチャの亡者が! タカピさん、あれ、確率としては1/5くらいなんで、計算上は、1個2500円するんでっせ? それを100個て! なんぼ注ぎ込んではるんや! あ~、でも、装備見たら、何か納得できましたわ。それ、全部500円ガチャの当たりですやん! ま、まあええですわ。これで問題は解決です。後は何時やるかだけですわ。」
流石は廃神、アイテム名を見なくても、見ただけでそれが分るとは。
しかし、良かった。俺もその気になれば、姉貴の振り込みのおかげで、揃える事は出来たのだが、ここはタカピさんに甘えよう。
どうせ、地道に遊んでいたら、滅多に使わないし、タカピさんにとっては、只の外れアイテムっぽいしな。
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