第11話 コンプリート

          コンプリート



 3人でギルドルームに入ると、ローズはまだ熱心にTVを見ていた。


「え~っと、君がローズバトラーさんですね。僕はタカピ。以前、シン君と一緒にパーティーを組んでいました。レベルは25の槍使いです。宜しくお願いしますね。」

「あ、済まないっす。あたいはローズバトラー、ローズって呼んで欲しいっす。タカピさん、宜しくっす。」

「狼アバターですか。新鮮ですね。ところで、皆さんはこれからどうされますか? 早速どっか狩りにでも行きますか?」


 ふむ、特には考えていなかったな。


「先ずはパーティーを組もう。リーダーは俺でいいのかな?」

「当然っす。」

「当然ね。」

「当然ですね。」


 俺がパーティー編成画面を出し、リーダーに就任すると、すぐに3人の登録申請が来たので、それを承認する。


「じゃあ、皆で行き先を決めよう。タカピさんも座って下さい。」

「はい、おや、いい物を貰えたようですね。これなら安心だ。」

「あはは、ローズが一番喜んでいるようですけど。」

「あ、あたいは別に。で、どうするっすか? あたいは何処でも付き合うっすよ。」


 ローズが慌ててTVを消す。

 俺は少し考えた。

 ローズが居るから、4人でも、実質は前のパーティーよりも強いはずだ。


「じゃあ、前回、タカピさんが行けなかったクエスト、『蟻帝国を潰せ!』でいいかな?」

「おや、それはありがたいですね~。当然賛成ですよ。」

「ええ、いいと思うわ。あたしも気になっていたし。」

「蟻帝国っすか、うん、この面子で行けそうっすね。面白そうっす!」


 俺達は早速、転移装置から、『昆虫人間インセクターの街』に飛ぶ。

 ここの建物は全てハチの巣のようになっており、NPCも全て昆虫人間だ。

 カマキリあり、カブト虫あり。なんか、童心に還るような街だ。


 ボス部屋までの道中、タカピさんに例の八尺瓊勾玉のクエストの事を聞かれたので、皆で説明する。ローズもこの時点で、タカピさんもカオリンと同じく、俺の事情を知っている人間だと理解してくれたようだ。


「ところで、タカピさん、いいっすか?」

「はい、ローズ君、なんでしょう?」

「その槍、それ、500円ガチャの当たりっすよね?」

「あ~、ばれてしまいましたか。はい、この『ポセイドンの槍』は、ガチャの景品ですね。当たりは、他にも沢山あるようですが、僕にはこれが当たったので、ランサーになったんですよ。」

「え~! タカピさん、それ、初耳よ! で、どんな性能なの?」

「あはは、カオリン、当たりと言っても、高難度クエストで得られる奴よりは劣ります。攻撃力は+200で、追加効果:麻痺 ですね。」


 うん、俺もそれは気付いていたのだが、本人が言いたがらなさそうだったので、黙っていた。


「凄い性能じゃない! 道理でタカピさんがいつも瞬殺していた訳だわ。」


 しかし、カオリン、それに気づかない君はどうかと思うぞ。

 まあ、カオリンの場合、戦闘になると頭に血が上ってしまい、周りが見えなく傾向があるから仕方ないか。


「だが、カオリン、君もローズから、その『髭切の太刀』を貸して貰ったじゃないか。もっとも、俺もそれと引き換えに、この『ラインの杖』を借りたが。」

「ええ、これ、凄いわね。ローズちゃん、ありがとう。」

「えへへ、あたいはこの斧の方がいいっすから。アイテムボックスに寝かしておくより、ずっといいっす。」


 そう、俺がさっきまで借りていた剣をカオリンにスライドさせ、その代わりにこの、

ラインの杖:攻撃力+80 効果:魔力+20% 消費MP20%↓ 

という、凄い杖を貸して貰った。これはヒーラーを兼務する俺には、正に宝である。


 ん? 今気付いたが、カオリンのローズへの呼び方が、ちゃん付けになっている。

 武器で釣られたか? ちょろい奴め。


 とは言え、さっきから、俺は殆どする事が無い。

 あまりに武器の性能が良すぎて、大抵瞬殺なのである。

 また、ローズの存在がでかすぎる。

 彼女のおかげで、前衛はほぼ無傷だ。たまにカオリンが図に乗り過ぎて喰らっているが。


「そろそろ、敵のレベルが上がる頃だな。これでやっと俺も参加できる。」

「あははは。しかし、皆さん、気付いてないみたいっすけど、シンさんは凄いっすよ。あたいは、シンさん以上のバッファー(支援魔法役)は見た事ないっすね。」

「あ、あたしは気付いていたわよ! シンの魔法、いつもドンピシャなのよ。勿論、リキャストタイムの制限で、完全とは言えないと思うけど。」

「いや~、そうだったんですか。そして今やそのアクセサリーがある。これは鬼に金棒ですね。」


「ローズ、褒めても何も出ないぞ。そして、皆には言っておく、ローズを怒らせてはいけない。あれは俺も怖かった。」

「だ、だから、あれは仕方なかったんす! そんな事言うなら、その杖返して貰うっす!」

「あ、悪かった。ね、皆、分かったでしょ?」


 カオリンもタカピさんも笑いながら、進んで行く。

 うん、いい雰囲気だ。

 ローズ一人が高レベルだったので、心配だったが、溶け込めているようだ。



 そんなこんなで、あっという間にボス部屋だ。

 まあ、2度目と言う事もあるが、以前より30分以上早い。

 1時間ちょいだ。


「じゃあ、まずはお引きから掃除しよう。ローズは、最初に挑発。防御力は俺が上げる。カオリンとタカピさんは、普通に。俺が最初に攻撃力上げるから。」

「「「了解!」」」

「よし、行くぞ!」


 全員でボス部屋の扉の窪みに手を触れ、俺が最後に真ん中の白球に触れる。

 重い音と共に、扉が開く。


「ぐぎ、ぐぐ、ぐげ?」

「ぐご~。」

「ぐぐぐ、ぐぱ?」


 う~ん、前回もだったが、インセクター語はさっぱり分からんぞ。

 俺はもしかしたら、あの時のように、上位アイテムが貰える方法があるかもと、注意していたが、これじゃヒントにはならんな。


 だが、待てよ?


「皆、予定変更だ! ローズは変わらず! カオリンとタカピさんは、ボス蟻に集中! そして、絶対にお引きを倒さないでくれ! 少し苦しいが、今の俺達ならできる!」


 そう、『蟻帝国を潰せ!』がクエストの題名だが、帝国と言えば独裁者。お引きの蟻に罪は無いのではなかろうか?

 それに、このボス蟻は真っ黒だが、お引きは緑色。種族も違うのでは?


「なるほどっす! 了解っす!」

「ええ! シンの考えが分かったわ!」

「うん、やってみましょう!」


 ローズを先頭に全員が雪崩れ込む!


「挑発! ガードアップ!」


 先ずはローズが敵を引き付ける! 

 更に、自身の防御も強化する。

 そこへ6匹、ボスを含めた全てが群がって行く!


 よし、今だ!


「マジックブースト! スピードアップ! スピードダウン! アタックダウン!」


 俺は連続で魔法を詠唱する!

 マジックブーストは俺に、スピードアップはローズ。スピードダウンとアタックダウンはボス蟻に。

 本当はお引きにもかけたいのだが、そこまでの余裕が無いし、前回の感じでは、アロさんでも耐えられたのだから、ローズなら楽勝だろう。


 うん、カオリンとタカピさんが、ボス蟻の背後に回り込んだ!

 更に詠唱する。


「ガードダウン! パワーブースト! パワーブースト!」

「喰らいなさい! 兜割り!」

「行きますよ~! 三点衝!」


 よし、間に合った。

 当然、ガードダウンはボス蟻に、パワーブーストは二人のアタッカーにだ。


 ふむ、これはかなり効いたようだ。

 一気にボス蟻のHPゲージが1/5くらい減る!


 俺も効果が切れるまではすることが無いので、参戦しようかと思ったが、ボス蟻にしか攻撃できないので、俺の入る余地は無さそうだ。

 うん、ここは大人しく皆に任せた方が良さそうだ。


「パワーブースト!」


 これはローズへだ。蟻共の攻撃を受けるのに必死かと思いきや、隙を見つけて、ボス蟻に攻撃しようとしたからだ。


「流石っす! 喰らうっす!」


 ローズは、武術系統のスキルは、リキャストタイムの関係で、『挑発』しか使えない。もっとも、あと一息となったら、使うだろうが。


 うん、皆の攻撃で順調に削れていっている。


「カオリン! スキル使える! タカピさんは3秒後です!」

「わ、分ってるわよ! 兜割り!」

「了解です! よし! 三点衝!」


 しかし、凄いな。前回とは、減り方が全く違う。

 改めて武器の攻撃力の差を思い知る。まあ、アタッカーも2枚に増えたが。

 まだ30秒経っていないのに、ボス蟻のHPは半分近く削れている。


 うん、そろそろだ。


「マジックブースト! スピードアップ! スピードダウン! アタックダウン」

「挑発! ガードアップ!」


 どれも効果が30秒なので、一斉に切れるので、かけ直しだ。

 ローズの場合は、『草薙の剣』という、武術系統のリキャストタイム半減という、アクセサリーを持っている。なので、挑発の効果時間と、リキャストタイムが一致するので、いい感じだ。

 そして、これにも上位アイテムが存在するのではないかというのが、俺達の見解だ。


 更に一呼吸置いてから、唱える


「ガードダウン! パワーブースト! パワーブースト!」


 うん、これでかけ直し完了。

 ん? 流石にヤバいか?

 ローズのHPがイエローゾーンになった。


「ヒール! ヒール! ヒール! ヒール! ヒール!」


 うん、これで満タンだ。

 ハイパーヒールなら一発なのだが、このほうが燃費がいい。


 その後、もう一度かけ直しをするが、もうボス蟻のHPはレッドゾーンだ!


「止めです! 串刺し投げ!」


 タカピさんの攻撃が、宣言通り止めとなり、遂にボス蟻は倒れた!


「や、やりましたよ! しかし、思ったよりあっさりですね~。」


 タカピさんの言う通りだ。

 やはり武器の違いと、ローズの存在はでかすぎるだろう。

 また、俺が全員に、効果を存分に付与出来た事も大きいのかもしれない。


 そして、思った通りだ!

 視界一杯に「CONGRATULATION」と、流れた後、「クエスト、コンプリート」の文字が流れる!


「ぐげ! ぐぐが!」

「ぐげ! ぐげ!」

「ぐる~。」


 更に、お引きの蟻達が攻撃を止め、手をすり合わせて、何か喋っている。

 恐らくだが、感謝の言葉なのだろう。


「やっぱりな! 前回の報酬は、鍬形の鎧:防御+50 効果:毒耐性大 だった筈なのに、今回は、甲虫の鎧:防御+70 効果:毒無効 になっている!」

「シン! あたしにも後で見せて!」

「え? スキルポイント、こんなに貰えるんですか? これは嬉しいですね。」

「おめでとうっす! しかし、シンさんもいい勘してたっすね~。でも、これは多分知っている奴も居そうっすね。」

「うん、皆、お疲れ様。しかし、これは病みつきになりそうだな。とにかく一旦戻ろう。祝勝会だ!」


 俺達は、奥に出現した扉を、意気揚々とくぐって行く!

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