第9話 PK狩り

         PK狩り



 二人で部屋を出て、ギルドホールから転移装置まで歩いていると、知らない男に、ローズが声をかけられた。


「お、ローズちゃん、丁度良かった。またあの神器クエスト、付き合ってやって欲しいんだけど。盾役がいないんだよ。」


 ふむ、知り合いのようだ。ローズと同じギルドのメンバーか?

 ギルドの掛け持ちはOKなので、ローズクラスなら、引く手数多だろう。

 IDはマチョマチョ、レベルは99。真っ青に輝く曲刀を二本装備し、銀色の鎧兜に身を包んでいる。ふむ、前衛だな。身長180cmくらいの、筋骨隆々、イケメンアバター。称号は以前ローズがつけていた、『災厄を屠りし者』。


「いや、済まないっす。これから、この人と狩りに行くっす。あ、あたいも丁度良かったっす。パーティー抜けるんで、リーダーのワンニャンコさんには、宜しく言っておいて欲しいっす。」


 ふむ、パーティー抜けるって、結構大ごとのようなイメージがあるのだが、かなりあっさりだな。まあ、大手ギルドとかじゃ、日常茶飯事に組み替えるのかもしれんが。


「あちゃ~、残念だな~。まあ、仕方無い。うん、言っておくよ。でも、ローズちゃん、その人、レベル43だろ? 大丈夫か?」

「これもまだっすね。あたい、この人のギルドに入ったんで、そういう事っす。」

「なるほど、早速、オーナーの実力を知りたいってとこか。って、え? あんた、何だその称号? 初めて見るぞ!」


 その男は俺を指さす!

 俺がどう説明しようかと迷っていると、ローズが先に答えた。


「えへへへ~。知りたいっすよね~。でも、教えないっす。まあ、マチョさんじゃあ、取れないっすね~。」

「ふ~ん、何か面白そうな人を見つけたようだな。あ、悪いな。引き留めてしまって。シンさんだっけ、また縁があれば。」


 これもあっさり引き下がると。うちの仲間なら、教えるまで解放してくれないだろうに。まあ、これが廃神さん同士の付き合いなのかもしれんな。



 俺達は『肥後の国』へ転移し、門をくぐって、河童街道を進み、河童の洞窟を目指す。


「じゃあ、手筈通り、あたいが引き付けるので、シンさんは、その剣で凹って欲しいっす。」

「しかし、こんな凄い剣、今日会ったばかりの奴に貸してもいいのか?」

「問題ないっす。これから長い付き合いっすから。」


 俺は、ローズに貸して貰った剣を、しげしげと見る。


髭切の太刀:物理攻撃力+240


 俺の物理攻撃力が現在250くらいだから、俺からすれば、とんでもない性能だ。これなら、へっぽこ剣士の俺でも、何とかなるだろう。


 ステータスの最大値は、レベル上昇と、スキルボーナスを併せると、最大1000くらいと言われている。そして、そこに称号と、こういった武器の性能が加算されると、最大物理攻撃力は、2000を超えるのではないかとの噂だ。

 なので、彼女からすれば、大した事はないのかもしれないが。


 ちなみにローズは斧装備。金時のマサカリと言うらしいが、これも恐らく凄い性能なのだろう。


「出たっすね! 挑発!」


 見ると、身長120cmくらいの、緑色の河童が6匹。

 横の茂みから飛び出して来た!

 うん、このサイズの奴ならまだ弱い。これなら、俺でも行けるだろう。

 こいつらは、奥に行けば行くほどでかくなるからな。


 ところで、ローズのスキル、『挑発』はプレーヤーには効かない。

 なので、一緒のパーティーでは無い俺でも大丈夫だ。

 もっとも、同一パーティー以外の全てに効果が出る最上級スキルもあると聞く。



「ガードアップ!」


 俺は、ローズに群がる河童の攻撃が当たる直前に、ローズに魔法を唱える。

 本来は、魔力を高める杖を装備した方が効果は高いのだが、今は仕方あるまい。


「パワーブースト!」


 続いて、今度は俺が切りかかる直前に俺自身に。

 うん、いい感じだ。リキャストタイムを気にしなくていいのは便利すぎるだろ!


「くぁ~」


 一撃で河童が消える!


「くぇ~」

「くぉ~」


 河童が次々と断末魔の悲鳴を上げながら、消えて行く!

 全て一撃だ。やはり凄い性能だ。


「次!」


 更に残った奴に畳みかける!

 ローズを見ると、驚いた事に、全く攻撃を喰らっていないようだ!

 河童全ての攻撃を、斧と盾で軽くいなしている。


 そして、俺はそいつらを背後から斬りつけるだけだ。

 あっさり、全滅させる。


「お~、やっぱ、凄い性能だ。カオリンなら、一匹に3発かかっていたぞ?」

「まあ、バフまで付ければ、シンさんでも一撃っすね。しかし、シンさん、凄いっすね。」

「へ? 凄いのはこの剣では?」

「いや、そこじゃないっす。魔法のタイミングっす。きっちり、攻撃を受ける直前に入ったっす。手慣れた奴でも、なかなかあのタイミングにかけられないっすよ?」

「え? そうかな? 俺としては、効果時間を1秒でも無駄にしたく無いだけなのだが。それに、凄いのはローズだ! HPは確認できないけど、一発も喰らってなかったでしょ。俺のかけた魔法、無意味だったし。」

「あはは、あの程度の素早さの奴なら、慣れればできるっすよ。しかし、これなら、次も安心できるっす。」

「ん? 俺はローズから見て、合格ってこと?」

「あ~、そういう意味もっすけど、こういう意味っす! いい加減、出て来るっす!」


 ローズは、反対側の茂みに向かって怒鳴りつける!


 なるほど、俺は理解した。彼女は最初から気付いていたのだろう。

 こういう半端なレベルのクエストには、良くPKが出る。

 連中からすれば、ちょっと慣れてきて、死亡ペナルティーが惜しくなる頃の奴を狩るのが楽しいようだ。


「チッ! レベル99の奴相手には、手出ししたくなかったんだが、そう言われちゃ、退けないよな~。」


 茂みからぞろぞろと人が出て来た。

 総勢4人。全員、隠密玉を使用しているようで、IDもレベルも表示されていない。

 その中の一人が更に続ける。


「こっちは4人だ。そうだな、そこの銀髪の兄ちゃん、さっき見ていた感じ、いい剣じゃないか。それを置いていけば見逃してやるよ。あ、そっちの姉ちゃんの斧でもいいぞ。」


 ふむ、こいつら、まだあの新アイテムを知らないっぽいな。

 しかし、あまりにお決まりの台詞だな~。


「これは借り物なんで、それはできないな。しかし、お前等遅れているな。新アイテムのせいで、俺達を狩るのは不可能だぞ?」


 そう、ファントムカースのせいで、HPがレッドゾーンに入れば、強制的に街に転移させられる。

 俺の場合は、それ以前に死ねないが。


「チキン野郎のはったりじゃあ、通用しないね~、しかし、笑かしてくれる。『チキンオブチキン』って!」


 連中は全員一斉に笑い出した。


 あ、称号を戻すの、忘れていたな。

 しかし、ローズの知り合いとはえらい違いだ。彼は見ても笑わず、純粋にこの称号の事を知りたそうだった。もっとも、ローズには思いっきり笑われたが。


「う~ん、この称号、結構使えるんだがな~。何れにせよお前ら、ハイリスク、ノーリターンだぞ? 何しろ、こっちはレッドゾーンになったら、強制転移だ。」

「そうっすね。それで、あたい、PK狩りって一度やってみたかったんすよ。シンさん、いいっすか? それで、6対2っすか。伊達に廃神とは呼ばれていないっす。いいハンデっす。」


 ふむ、まだ二人隠れていたようだ。

 隠れている事の意味が無くなったからか、茂みから、更に二人出てくる。

 しかし、ローズは凄いな。俺には全く分からなかったぞ。


「それは、あちらさん次第だろ? 通してくれるならそれでいいし、ダメなら、俺もやるしかない。前に進めないからな。」

「そこまで言われて、はい、どうぞって言えるか! やってやるよ!」


 一斉に襲い掛かってきやがった!


 ローズに二人、盾と剣装備のガードと、槍装備のランサー!

 俺に二人、大剣装備のナイトと、ヌンチャク装備のモンク!

 後から出て来た二人はそのまま動かない。ローブ装備で杖を持っているから、多分、ヒーラーとウィザード。


 そして、ローズが俺の前に踊り出る!

 俺は意味を理解して、武器を杖に持ち替え、後ろに下がる!

 これが本来の俺のスタイルだ。


「城塞! ガードアップ!」


 ローズのスキルだ! 30秒間、己の物理防御と魔法防御を倍増させる効果だ。

 更に、自身に、物理防御増加の魔法もかけたようだ。

 ふむ、俺は試されていた訳だ。


「ファイアトルネード!」


 チッ、ウィザードの範囲魔法だ!

 咄嗟に俺は称号を『神の試練に耐えし者』に付け替える!

 同時に目の前が真っ赤になる!


 こいつは仕方ない。魔法は避けられないからな。もっとも、魔法を打ち消す魔法もあるのだが、これは間に合わなかった。

 称号の付け替えが間に合っただけでも御の字だ!


 頭の片隅で意識すると、HPは、思ったよりは減っていない。1000くらいか? 称号効果、凄いな。

 現在俺のHPは5000くらいなので、それでも2割だが。

 ローズのHPは、まだパーティーを組んでないので、確認できないが、彼女のHPからすれば、掠った程度だろう。


「マジックブースト! スピードダウン! スピードダウン スピードダウン! スピードダウン!  スピードアップ!」


 最初のマジックブーストは俺に、スピードダウンは群がって来た前衛に、スピードアップはローズに、連続でかける! 

 うん、範囲効果のオールスピードダウンより、個別にかけた方が燃費がいい。覚えなくて正解だった。また、バフ系上級に、纏めてステータスを上げる呪文もあったが、これも不要だったな。まあ、リキャストタイム無しのおかげだが。


「何だ? 連続詠唱? とにかく、四方突き!」

「え? バッファーだったのか? え~い! 十文字斬り!」

「おい! リキャストタイムは?! ままよ! 旋風棍!」

「数では勝ってる! シールドアタック!」


 しかし、連中の攻撃はスピードダウンのおかげで、俺でも避けられそうだ。

 当然、ローズは二撃を軽く躱し、残りの二撃も盾で受け止める!


 ちなみにこのデバフ(ステータスダウン)効果、バフ効果で上書きするか、回復系の上級魔法でしか打ち消せない。

 連中がすぐに打ち消さなかったところを見ると、バッファー(支援魔法職)は居ないようだ。

 また、ヒーラーも、そのスキルを持っていないか、連続詠唱に打つ手無し、と諦めたかのどちらかだろう。


「遅いっすね~! 隙だらけっす!」

「パワーブースト! ガードダウン!」


 ローズの斧の一撃がランサーにまともに入る!

 直前に俺の物理攻撃力アップの魔法がローズに、そして、敵にはデバフのガードダウンも入ったから、これは効いただろう。


「げ! 一気に半分も! グランドヒー…」

「マジックキャンセル! させるかよ!」


 俺は回復呪文を唱えようとしたヒーラーに、一度だけ魔法を無効化する呪文を放つ!

 相手の詠唱が始まってから、魔法が発動するまでに唱えないといけないので、タイミングが命の呪文だが、ぎりぎり決まったようだ。

 更に奴は、今唱えようとした魔法のリキャストタイム、後15秒間、魔法を唱えられない。


「まずは一人!」


 ローズが続けてランサーに斧を振るう!

 他の三人もローズに群がるが、ものともしない!

 正に名前の通り城塞だな。


 そして、光の輪を残してランサーが消えた。


「次っす!」


 ローズはナイトに照準を定めたようだ。


「チッ! なら雑魚から!」


 げ! モンクが回り込んで来やがった!

 だが、遅いな。


「そう来ると思ったっすよ! 頂きっす!」

「ガードダウン!」


 案の上、モンクはローズに背後からの一撃を喰らう! こいつもデバフのおまけ付きだ。

 俺も、装備を剣に持ち替える。

 今のこいつなら、俺でも当たるだろ。

 しかし、モンクは体勢を崩しながらも、ヌンチャクを俺に振るう!


「フェイント!」


 うん、空振りさせたな。


 続けて剣で薙ぐ!

 よし! 手応えあり!

 更に、モンクの背に、ローズの一撃が決まる!


 モンクも消えた。


 ここで俺はもう一度杖に持ち替える。


「好き放題させるかよ! 五月雨斬り!」

「剣舞!」


 ローズの背後から、ナイトとガードが斬りかかる!


「パワーダウン! パワーダウン!」


 よし! 間に合った!


「ぐは!」


 しかし、ガードの放った全体攻撃、『剣舞』が俺を襲う!

 だが、あまり効いていない! 500くらい減っただけだ! まだHPゲージはグリーンだ!


 ローズは両方喰らっているが、あまり効いているようには見えない。


 うん、来るな。

 そろそろウィザードのリキャストタイムが終わるはずだ!


「ダウン……」

「マジックキャンセル!」


 こいつが唱えようとしたのは、多分、上級の風系統の範囲魔法、ダウンバースト。

 これで、こいつは後30秒唱えられないはずだ!


「そろそろ本気っすよ! 大木断!」

「ガードダウン!」


 うわ! いくら、バフ、デバフ付きと言っても、一撃って!


 ナイトが消えた。


「次っす!」


 更にローズはガードに向きを変える!


「く、来るな~っ!」


 うん、これは決まったな。相手は完全に逃げ腰だ!

 そろそろローズと相手の効果も切れる筈だが、もう必要無いだろう。

 タイマンでローズに勝てるとは思えない。

 大体、この時点(リリース半年)でPKなんかしようとする奴が、そこまでレベルが高い訳がない。


 俺は再び剣に持ち替えて、今度はヒーラーに走り込む!


「うわ! メッサー! 何してる! 俺を守ってくれ! ガードだろ!」

「出来るか! こっちは化物相手だ!」


 もはや完全に統制を失っているな。リキャストタイム中の、ウィザードもおろおろするだけだ。


「じゃ、遠慮なく行くぞ! パワーブースト! ガードダウン! スピードダウン!」


 そして、剣で斬りつける!


「うわ! グラン……」

「マジックキャンセル!」


 うん、読みやすいな。


 更に連続で薙ぐ!

 薙ぐ!

 斬る!


 これで、ヒーラーも消えた。


「う、うわ~! か、勘弁してくれ!」


 ふむ、遂に降参か。

 見ると、ウィザードがへたりこんでいる。

 ローズは既にガードを仕留めたようで、そいつに走り込んで行く姿が目に入る。


「全く~、PKするなとは言わないっす! でも、弱そうな相手だけ狙うのは頂けないっすね!」


 ローズが足を止めて説教する。


「わ、分った。もうしない。そ、それでいいだろ?」

「いや、信用できないっす!」

「ケッ! 廃神だからって、偉そうに!」

「ダイヤ割り!」


 そいつが、手を振り翳そうとした瞬間、ローズの斧が真っ白に光り、振り下ろされた!

 うん、こいつは『緊急転移の石』を使おうとしたのだろう。俺でも分かる。


 最後の一人が消えた。


「ふ~、何とか終わったな。しかし、ローズは強いなぁ。改めて差を思い知らされたよ。」

「いや~、照れるっす。ってか、あたいの方がびっくりしたっす! 何すか? あのタイミング? シンさんの支援がなければ、ああ上手くはいかなかったっす! それに、マジックキャンセルなんて、そうそう決まらないっすよ?」

「いや、あいつらの行動、読みやすいだろ?」

「それはそうっすけど、なんて言うか、魔法の出が早すぎるっす!」

「え、そう? 普通だと思っていたけど?」


 う~ん、自分では早いと思ったことないのだが。

 反射神経だって人並みだ。シューティングゲームとかは得意じゃない。


「い~や、普通じゃないっすね。魔法を唱えるとイメージしてから、表示された魔法を、詠唱しながら、相手を選ぶっす。どんなに早い人でも、コンマ数秒はかかるっす。でも、シンさんのは、即座に出ている感じだったっす。」

「え? 普通、目標に向けて詠唱しようと思ったら、それで終わりじゃない?」

「え? え? あたいがおかしいっすか?」


 二人して首を傾げる。


「まあ、勝てたんだし、それでいいかと。で、どうしよう? 今ので、MPも結構減ったし、何よりも興が冷めてしまった。悪いけど、少し休みたい。」

「そうっすね~。それと、あたいは一旦街に戻らないといけないっす。」

「え? なんかあるのか?」

「いや、あいつらの後始末っす。」


 ん? 連中はデスペナ喰らって終わりでは?


「大抵の奴は、デスペナ開けたら、懲りずにまた潜って来るっす。」

「まあ、そうだろうな~。」

「そこを、とっ捕まえるっす。アバは覚えたっすから。」

「しかし、街の転移装置から出てくるのは分かるが、街中じゃ手出しできないだろ?」

「いや、目的はIDの確認だけっす。一度死ぬと、隠密玉の効果は解除されるっすから。まあ、見てれば分かるっす。」


 俺は良く理解できなかったが、ローズと一緒に街に戻る。

 うん、いい時間だ。そろそろあれから20分経つ。


 転移装置の前で待つこと数分、見覚えのある顔が出て来た。

 最初に死んだ、槍使いの奴だ。


「IDはポロロン、レベルは64。うん、控えたっす。」

「あ~っ! さっきの狼女! へっ! まだやる気かよ? だが残念だったな。ここじゃ戦闘はできねぇよ!」

「いや、ポロロンさん、あんたのIDをうちのギルド、エンドレスナイトに報告するだけっす。意味は分かるっすよね?」


 エンドレスナイト! 聞いたことがある。大手の廃神ギルドだ。確か入会条件は一日6時間以上潜れる人だったか?


「へ! それがどうした? 廃神ギルドだからって威張るなよ! 全く暇人が!」

「分かってないようっすね。これから、うちのメンバーが、街の外であんたを見かけたら、即座にPKするっす。そして、うちと付き合いのあるギルドにも、あんたの情報は流れるっす。」


 うわ! これはきつい!

 こいつ、これからは常に隠密玉を使わないと、街の外には出られないな。

 そして、交友関係も限られてくる。どっかのギルドに所属していたのなら、追い出される可能性もある。

 これは流石に効いたはずだ!


 イケメンアバターが、みるみる真っ青になる。


「わ、分かった。済まない! もうしない! だから許してくれ!」

「本当っすか~? まあ、いいっすよ。今回は見逃すっす。」


 男はすぐに転移装置から消えた。まあ、他の街に逃げたのだろう。


 その後、3人が同様に恫喝され、そして釈放された。


 う~ん、ローズさん、怖すぎます。



「もう出ないようだな。じゃあ、一旦休もう。ギルドルームで、お茶でも飲もう。」

「そうっすね。あ、でも、誤解しないで欲しいっす! あ、あたい、そんな怖い女じゃないっす! あれは、全部はったりっす! ああでも言わないと、あいつら懲りないっす!」

「う~ん、怒らせてはいけない人だとは理解できたかな? 俺、大丈夫か? ローズさんには逆らわないようにしよう。」

「あ、あ、ち、違うっす! あたいは、ああいうのが許せないだけっす! 確かにギルドの威は借りたっすけど。」

「あははは、冗談だよ。それとありがとう。ローズが居なかったら、俺一人じゃ、暫くこの街のクエストが出来ないところだった。」


 うん、ああいう輩は一度でも弱い所を見せると、つけこんでくる。

 そして、連中にはいい薬になっただろう。



 二人でギルドルームに戻って、ジュースを飲む。

 味はするのだが、実際に喉の渇きを癒せる訳ではないし、今は、そういう感覚も無い。

 しかし、現在の俺にとっては、気休めでも人間らしさが欲しいので、これで満足だ。


「しかし、よく隠れている奴が分かったな~。俺にはさっぱりだったよ。」

「あ~、あれは盾系統の上級スキルっす。周りの全ての敵と人間が感知できるっす。」

「う~ん、俺も欲しいけど、そこまでポイントの余裕は無さそうだ。」

「そんなことより、シンさん、称号、途中で付け替えたっすね? あれ、多分、ばれたっすね。しかし、あの状況で、その判断力には畏れ入るっす。戦闘中の称号の付け替えは、ちょっとしたテクニックっす。」


 ふむ、それで気付いたが、現在、ローズの称号は『災厄を屠りし者』になっている。

 こっちの方が都合が良かったのだろう。


「褒めてくれるのは嬉しいが、実際は無我夢中だったよ。今の俺には、あれ以上の効果の称号は無いし。それに、連続詠唱した時点でアウトだろ? 美人天女の話じゃ、あのアイテムも、あの時点ではどうやら俺が初めてらしいから、誰も持っていないはずだ。」


 ローズが不思議そうな顔をする。

 ん? なんか俺、変な事言ったか?


「え? 美人天女って? シンさん、あんなのがタイプっすか?」

「え? クリアしたら、超絶美女になったぞ? バニーちゃんより絶対いいぞ。」

「あ~、あたいらは倒しちゃったからっすね。あたいも見たかったっす!」

「ローズならできるだろ? エンドレスナイトのヒーラーと一緒に行けば簡単だろ?」

「いや、それはそうなんすけど。なんか、シンさん見てると、あっちより……」

「あ、済まん! コールが入った。ちょっと外すね。」

「あ、それなら、あたいも一旦落ちるっす。ちょっと疲れたっす。夕方には戻るっす。」



 ローズが消えたので、俺はコールに出る。松井からだ。

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