第8話 チキンオブチキン
チキンオブチキン
「そうだ。シン、ごめんなさい。あたし、まだ朝ご飯、食べて無かったの。」
時間を確認すると、9時だ。
「いや、気を遣わなくていい。行ってらっしゃい。」
「あ、9時っすね。丁度良かったっす。あたいも一旦落ちるっす。多分10時までにはここに戻って来れるっすから、何処行くとか決めておいて欲しいっす。」
「ああ、ローズも行ってらっしゃい。」
二人のアバターが消えるのを見届けた後、俺は考える。
やはり、カオリンにはかなり気を遣わせている。
俺が食事を摂れない事を知っているからだ。
そして、今日は、学校まで休ませてしまっている。
うん、これは俺がしっかりしないといけないな。
さて、じゃあ、何処に行こうか?
何処に行っても、ローズにとっては既にクリアしたクエストだろう。
また、人数も少ないし、高レベルのところには行けない。
じゃあ、彼女に見繕って貰うのが最善だろう。
うん、あの、『クリア』と『コンプリート』の違いがありそうな所がいいな。
後、俺のスキルPの使い道だ。少々後ろめたいが、カオリンの言葉で、かなり気が楽になった。
現状、パーティーには欠かせない、ヒーラーが居ない。
ふむ、ここは取っておくべきだろう。
俺は、ステータス画面を呼び出し、現在取得可能なスキルを確認する。
ぐは!
まあ、こうなるわな~。
視界に、無数のスキルが表示される。
基本スキルから発展するスキルが大半なので、殆どが薄暗く表示されているが、12000Pもあれば、一系統だけなら極められるだろう。
う~ん、迷うな。
ローズに合わせれば効率がいいだろうが、彼女がずっと一緒である保証は無い。
うん、どうせ元々無かったと思えばいい。
俺は、回復魔法系統の、HPを回復するのに必要な、ヒール系統を取り進む。
ヒール→グランドヒール→ハイパーヒール→エクストラヒール
更に派生で、ダブルハイパーヒール→トリプルハイパーヒール→オールハイパーヒール
取り敢えずはこんな所だろう。一気に6000Pくらい消費したな。
エクストラヒールが回復系最高で、HPが全回復する。オールハイパーヒールは、パーティー全員にハイパーヒールの効果だ。
更にパーフェクトヒールという、状態異常も一緒に全回復させるのがあるが、それは状態異常回復系統を極めなければ取れない。
なので、状態異常回復系統も取るべきか悩んだが、俺は現状ほぼ完璧だし、ローズは多分パーフェクトだろう。
カオリンには悪いが、地道に耐性を取得して貰おう。
ちなみに、回復系統を取得した結果、魔力と魔法防御、そしてMPが結構増えた。
これはスキルを取得した時のボーナスなので、沢山覚えれば、更に強くなるという設定だ。
まあ、使うスキルに関連したステータスが増えると思えばいい。
なので、武術系統なら、攻撃関連。盾系統なら、防御関連だ。
勿論、レベルが上がれば、自動的に全ステータスが5ずつ増えるので、特色が出る程度だが。
じゃあ、余ったポイントは、バフ、デバフの支援系統に回すか?
そこでカオリンが帰ってきた。
はや! 20分くらいしか経っていないぞ?
「お帰り、早いな。」
「そ、そう? 普通よ。」
「ところでカオリン、君にはお願いがあるがいいかな?」
「ええ、言って頂戴。でも、エッチなのはダメよ。」
「アホか! それは虐めに等しい発言だぞ。そんなことよりも、カオリンには、今から大学に行って欲しい。まだ9時過ぎだ。2限には間に合うだろう。」
「え? あ、あたし、邪魔?」
カオリンは泣きそうな顔になってしまった。
「い、いや、そういう意味じゃない。俺に気を遣ってくれるのは嬉しいのだが、それだと、俺が辛いんだ。だから、今まで通りの生活スタイルを崩さないで欲しい。」
「あら、別にあたしのしたいようにしているだけよ? 気なんか遣ってないわ。」
「う~ん、カオリンはそうでも、俺にはそうは取れないんだ。だから、お願いだ。今まで通りで行こう。」
俺は頭を下げた。
「え? そこまでしなくても…。でも、分かったわ。シンがその方がいいのなら、そうする。だけど、あたしのログイン時間は増やすわよ。そうね、今まで一日2~3時間くらいだったけど、3~4時間くらいにするわ。なので、今晩は8時くらいにログインするわね。」
「ああ、本当にありがとう。感謝している。」
「いいのよ。それこそ変な気を遣わないで欲しいわ。じゃあ、行ってくるわ。」
「うん、行ってらっしゃい。」
カオリンが消えたので、再びステータス画面と睨めっこをしていると、ローズが帰って来た。
うん、丁度いい。アドバイスを頂こう。
「お帰り、ローズ。思ったより早かったな。」
「そうっすね。今日は早かったっす。で、どこ行くか決まったっすか? あ、カオリンがまだっすね。」
「いや、まだ決まっていない。そして、カオリンは学校だ。今日は無理して俺に付き合ってくれていたんだ。晩にはまた潜ってくるだろう。そして、現在俺はチートで得た大量のスキルPの使い方で悩んでいる。」
「あははは。確かに一人700P、それの総取りで、8400Pはでかいっすね。贅沢な悩みっす。」
「え? 12000P入ったんだが? あ、これもか!」
「そうみたいっすね。で、何処で迷っているんすか?」
俺は、今の俺のステータスとスキルの状態を説明する。
「そうっすね~、そのままヒーラーになるのもいいっすけど、主要なのはあらかた揃ってるっす。状態異常回復を取らなかったのは正解っすね。あたいらくらいになると、耐性のおかげで、まず喰らわないっすから、万能薬が数個あれば充分っすね。あたいも、回復系統も少しは使えるんすけど、盾役に、そんな余裕はないっす。」
ふむ、アロさんもそんな感じだったな。防御に精一杯で、周りが見えていないようだった。
「なるほど、じゃあ、引き続き、
「カオリンはアタッカー、ナイトっすよね? 出来れば範囲魔法が使える人が欲しいっすけど、一人でヒーラーとウィザード、MPが持たないっすね~。」
「そうなんだよ。今のままなら、MPも伸びたし、バッファーとヒーラー兼務だけなら、何とか行けそうだ。相性もいいしね。」
「じゃあ、もう一人来てくれる予定って人は、どうっすか?」
「まだ確定していないけど、彼は槍使いランサー。レベルも25くらいだったと思う。」
「うわ~、あたいを入れると、前衛だけは完璧っすね。でも、後衛を一人でやるなんて無理っす! あたいの意見としては、もう少し待つっす。シンさんの総合能力はレベル43にしてはあり得ないっすから。焦らず、まだ我慢したほうがいいっす。」
「うん、ありがとう。参考になった。そうさせて貰うよ。」
流石は廃神さん、納得できる説明だ。
しかも、親身に教えてくれる。
しかし、本当にこんな人がうちのへっぽこパーティーでいいのだろうか?
無理していなければいいのだが。
「じゃあ、どっか狩りに行こう。って、済まない。まだローズとはパーティーを組めないんだった。実は俺、まだ前のパーティーを抜けていないんだ。それで抜ける挨拶をしないといけないのだが、皆が揃うのが、晩の9時くらいなんだ。」
そう、ここで俺がアロさんのパーティーを抜けるのは可能なのだが、そうなると、パーティールームに入れなくなる。
「別に問題ないっす。こういう言い方は悪いっすけど、シンさんが狩れる魔物じゃ、あたいの経験値の足しにはならないっすから。あたいが引き付けるんで、遠慮なく止め刺して欲しいっす。そういや、あたいもまだ抜けていなかったっす。お互い様っすね。」
「なんか、無理させて悪いな。じゃあ、甘えるよ。」
「どんと来いっす。」
結局、ローズと話し合った結果、河童を狩りに行こうとなった。
目指すは肥後の国を経由して、河童街道。
ここにある河童クエストの推奨レベルは30。攻撃手段に乏しい俺でも、ギリギリ何とかなるレベルだ。
「あ、その前に、シンさん、その称号は隠したほうがいいっす。付け替えるか、隠密玉っすね。」
「あ~、忘れていた。ローズ、ありがとう。付け替えるよ。」
俺は慌てて付け替える。ついでに勾玉も外しておく。
称号:『チキンオブチキン』 効果:回避25%アップ
「あははは! なんすか、その称号? 初めて見るっすよ!」
ローズは腹を抱えて笑っている。
「いや、これも無敵チートの時に貰ったんだけど、多分、あの神器クエスト中、一発も反撃出来なかったのが条件だと思う。そういや、俺、魔法も使わなかったな。まあ、名前はあれだが、効果は凄いぞ。回避25%アップだ。」
「あはははは! なんか、状況が想像できるっす。うん、その称号なら大丈夫っす。でも、いい効果っすね~。」
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