第5話 意味不明な結末

           意味不明な結末



 さて、じゃあ、不安要素も無いことだし、入るかと思った瞬間、隣の安全地帯の輪が明滅しだした。


 ん? 誰か、ダイブしてきたのか? こんな朝っぱら、しかもこのダンジョン。多分、『廃神』さんだろうな。


 光の輪から一人出現する。大きな盾を構え、重装備。いかにも前衛担当って感じだ。

 身長は165cmくらいで、狼顔。驚いたことに女の体型だ!

 ふむ、最近導入された、亜人アバターだな。

 IDは「ローズバトラー」、レベルは99、称号は『災厄を屠りし者』。

 なんか、凄い称号だな。俺の『へたれ』とはえらい違いだ。感じからすると、ここと同様の三種の神器関連で得たのだろう。


「おや? 先客さんが居たみたいっすね? ん? えらく用心深い人っすね。心配しなくても、このダンジョンでPKなんかする奴、居ないっすよ。お兄さんもここで待ち合わせっすか? ここで会ったのも何かの縁っす。ちょっとの間だけっすけど、仲良くして欲しいっす。あ、あたいはローズバトラー。それで、もし良かったらっすけど、その『隠密玉』の効果、解除して欲しいっすね~。」


 狼顔に若い女性の声。何ともミスマッチだ。

 しかし、『廃神』さんって、もっととっつきにくいイメージだったが、こういう人も居るんだな。だが、これは少し困ったな。


「あ、初めまして。ローズバトラーさん。申し訳ないのだけど、これ、うちのギルドの方針なんで、解除はできない。それと、俺は今からここの偵察だ。ちょっと時間がかかるかもしれないんで、そちらのパーティーがすぐに揃うようなら、先を譲るけど?」

「あ~、ギルドの方針じゃ仕方ないっすね。いや、あたいらのパーティーは7時の待ち合わせなんすよ。なんか早起きしちゃったんで。誰か居たら、一緒にそこの下に居る奴狩って暇潰しでもと、思ってただけっすから。しかし、一人で偵察に出させるなんて、凄いギルドっすね~。あ、済まないっす。じゃあ、気を付けてっす。」


 う~ん、我ながら上手い言い訳だと思ったが、少し無理があったか?

 ここはさっさと入ってしまった方が良さそうだ。


「どうも。じゃあ、また縁があれば。」


 俺は扉の窪みに左手を当て、続いて右手で真ん中の光っている球に右手を添える。

 重苦しい音を立てて、扉が開く。

 俺が中に駆け込むと、扉はすぐに閉じた。



 部屋は、奥行きのある長方形で、天井は割と低い。とは言っても7~8mはあるが。そして、奥に簾がかかっている。

 なるほど、平安時代の天皇の部屋のイメージの大型版だな。


 俺が感慨深く、辺りを見回していると、簾越しから声がする。


「よくぞ参られた。わらわは玉祖命たまのおやのみこと、神の座に位置する者じゃ。おや一人かえ? しかし、たった一人でもわらわは手を緩めぬぞよ? 覚悟はいいかや?」


 ふむ、さすがは最高難度のボス。会話できるようだ。


「ああ、ちょっと訳ありでね。ヤバくなったらとっとと退場するので、そうなったら勘弁して欲しい。」

「では、神の試練の始まりじゃ。耐えて見せるが良い! 見事乗り切った暁には、褒美を遣わそうぞ!」


 その言葉と共に、簾が上がって行く。


 3mはあるか?

 天女? いや、少し違うな。

 確かに、平安時代風の貴婦人の衣装に、背中に羽衣。

 しかし、顔は般若だ! 角まで生えている!


「神の力、味わうが良い! サンダーレイン!」


 部屋中に無数の雷線が迸り、それが全て俺に突き刺さる!

 目の前が一瞬真っ白になる!

 そして、凄まじい衝撃!


 ふむ、全体魔法のようだが、ちょっと特殊だな。普通の全体魔法ならば、攻撃は散乱し、俺一人に来るってことは無い筈。特別仕様と見ていいだろう。


「耐えたかや? 次々行くぞよ。」


 そう言って、般若は今までは服に仕舞ってあった腕を出す!

 指先には鋭い爪!

 そして、その爪を振り翳して、俺に襲って来た!


「ぐは!」


 このゲーム、攻撃を喰らっても痛くはないのだが、とにかく振動が凄まじい!

 思わず悲鳴を上げてしまった。


「げ!」


 全く身動きできない!

 ステータスを確認すると、状態:麻痺、猛毒、混乱、と出ている!

 バッドステータスの塊のような攻撃だな。

 俺にはこの全てに耐性はあったのだが、最高でも『毒耐性中』、後は全部『小』だ。このクラスの奴からだと、効かないのだろう。

 まあ、麻痺も混乱も毒も時間限定の効果だ。麻痺と混乱は30秒、毒なら1分だ。

 流石に『猛毒』ってのは初めて喰らったが、多分数分もすれば消えるだろう。

 HPゲージを確認してみるが、微動だにしていない。


「ほっほっほ。いい様じゃのう。これはどうかや? 神の鉄槌!」


 これは、余裕かましてもいられないか?

 どっから出したか知らないが、巨大な槌を振り上げている!

 不死身と分かってはいても、これは怖い! 身体が動かないから、尚更恐怖だ!


「ぐぉ!」


 再び凄い衝撃が走る!

 目の前が真っ暗になる!

 状態を確認すると、さっきのに、暗闇と睡眠が加算されている!


 あ~、もうどうにでもしてくれ!


 万能薬を使おうかとも思ったが、睡眠と麻痺の状態では、一切の行動が封じられている。

 睡眠状態を解消するには、攻撃を喰らうか、3分間待つのだぞ、である。

 ちなみに、暗闇は1分だ。


 敵の声だけが聞こえる。

 う~ん、流石にそろそろ撤退するか?

 だけど俺、まだ何もさせて貰っていないのですが?


「ほ~、ほっほっほ。行くぞよ。トルネードF5!」


 また衝撃が走る!

 ん? 重力の感覚が無いな。俺、今、飛んでる?

 暫く無重力を味わった後、再び、衝撃が走る!

 どうやら、地面に叩きつけられたようだ。

 睡眠は切れたようだが、起き上がろうにも、まだ麻痺が切れていないので動けない。


「まだまだぞえ。炎獄!」


 おい! 神様のくせに、地獄の技出していいんかい!

 等と、心の中で突っ込むが、伝わる訳も無く。

 俺の視界は、暗闇状態な筈なのに、真っ赤に染まる!


 ようやく、麻痺が切れたようで、俺も立ち上がるが、まだ暗闇状態で、今、どっちを向いて居るかも分からない。


「う~ん、一発くらいは喰らわせたいなぁ~。」

「お~っほっほっほ。わらわに攻撃なぞと、おこがましいぞよ。そ~れっ!」


 チッ、聞かれたようだ。しかも、反応しやがる。

 うん、いいAIだ。

 何を喰らったか分からないが、衝撃だけが伝わる。

 流石に、見えないのは辛いな。

 俺はアイテムフォルダーから、万能薬を取り出し、口に含む。

 よし、見えるようになった。


 しかし、状況は最悪のままだ。

 目の前で般若が大槌を振り上げている!


 お! 今度は避けられた!

 般若の大槌は見事に空を切る!


 ふむ、『へたれ』の効果かもしれない。付けておいて良かった。


「ほほ~、やるではないか。ならば、これはどうじゃ? メテオクラッシュ!」


 げ! これも、どっから現れたか知らないが、上から真っ赤な無数の大石が、俺目掛けて降って来る!

 まあ、魔法系統は元々、このゲームでは避けられない仕様だ。なので、魔法には必ずリキャストタイムがあるのだから。もっとも、こいつには無いようだが。

 どうしようもない、甘んじて受けよう。

 再び衝撃が走り、視界が真っ赤になる!


「じゃあ、こっちも行かせて貰う!」


 俺は剣で般若に斬りつける! 

 的がでかいから、簡単に当たるかと思いきや、あっさり躱された。敵の素早さも高いようだ。


「ほ~っほっほ。何かしたかえ?」


 やはり、俺のへっぽこ攻撃では、意味が無いな~。

 うん、俺でこいつを倒す事が無理なのは、ほぼ確定だな。

 なら、ここは偵察に徹して、強くなってからまた来よう。この経験が生きるだろう。


「ぐは!」


 また喰らった!

 再び身体が動かなくなる!


 ステータスを確認すると、さっき同様だ。

 しかし、更に細かく見ると、麻痺と混乱の耐性が『中』に昇格している!


 ふむ、手ぶらで帰らずに済みそうだ。

 耐性だけでも上げさせて貰おう。


 その後、何発喰らったか、もはや分からない。

 ただ、耐性だけはしっかりと上がって行っている。

 今や、全ての耐性が『大』か、『無効』になった。

 そろそろ帰るべきだな。

 敵の攻撃も、一通り出尽くしたようで、ループしている。


 時間を見ると、もう7時前だ。

 さっきの奴も、そろそろ仲間が揃うだろう。待たすのも可哀想だ。

 しかし、我ながらよく粘ったな。

 称号も、かなり増えた。


称号:「鉄面皮」を獲得!

称号:「僕、硬いんです!」を獲得!

称号:「チキンオブチキン」を獲得!

称号:「耐性ナイト」を獲得!

称号:「耐性クイーン」を獲得!


 俺はアイテムフォルダーから、『緊急退避の石』を取り出そうとする、その時だ!


「ほほ~う。そなた、やるではないか。わらわの試練に見事耐えきったのは、そなたが初めてじゃ!」


 へ?


「褒美を進ぜよう。受け取るが良い!」


 視界には大きく「CONGRATULATION!」と表示される!

 続けて、「八尺瓊勾玉のクエスト、コンプリート!」と流れる。


 はぁ~~~???


 よく見ると、敵の顔が般若から、黒髪の現代美女へと変化している!

 完全な天女だ! 

 うむ、バニーちゃんよりこっちが好みだな。


 更に片隅にログが流れて行く。


称号:「神の試練に耐えし者」を獲得!

アクセサリー:「真・八尺瓊勾玉」を獲得!

12000スキルポイントを獲得!


 ぐは!

 倒していないので、流石に経験値と資金は得られないようだが、何、このスキルポイント?



 スキルポイントは、こういったクエストをクリアしたり、レベルが上がると貰える。新しい技や魔法を覚えたりするのに必須のものだ。最上級のものだと、平気で1000P以上消費する。

 レベルで貰える量は、上がる前のレベル×10である。

 つまり、レベル99までに貰える総量は、48510。まあ、約5万だ。

 もっとも、レベル99の場合、レベルはカンストだが、そこからレベル100に上がるだけの経験値が貯まると、その都度、990P貰えるので、実質無限ではあるが。


 そして、クエストの報酬の場合は、資金や経験値もだが、人数割りされる。

 このクエストの場合は、一人1000Pの設定だったのだろう。しかし、俺は一人でクリアしてしまったので、総取りしたという訳だ。

 まあ、ソロでやっている人にも旨味をってところか?


 ちなみに、クエストの報酬であるスキルポイントは、2度目からは激減し、5回目でゼロになってしまう。これは、一度クリアした奴なら、何度でもクリアできるので、って事だろう。色々なクエストに挑戦させる為でもあろう。


 後、このシステム、良く出来ていて、こういうボス部屋のあるクエストの場合、パーティーで挑戦して、途中で死んでしまった場合でも、残った誰かがクリアすれば、資金と経験値、スキルポイントも、ちゃんと得られる。また、その場合に限り、死亡ペナルティーの、経験値と資金の減少は免除される。全員でクリアしたという認識だ。

 これは、死ねば後の無い俺にはもう無縁の話か。



 俺が驚いていると、尚も天女は続ける。


「それと、初めてこのクエストをコンプリートしたそなたのIDを、そこの扉に残してやろうと思うのじゃが、どうかえ?」


 ぬお?

 俺が初めて?

 さっきも言っていたが、訳が分からん。ここをクリアした奴は、そう多くは無いだろうが、居るはずだ。

 でなければ、ここのクリアアイテムの情報とかは出ないだろう。


「全く意味不明なんだけど? まあ、名前を残すのは辞退するよ。じゃ、そう言う事で。」


 チートでクリアした?のに、名前なんか残されたら敵わない。


「そなたの疑問に、明確に答えることはできぬが、『クリア』と『コンプリート』では少し意味が違うのじゃ。でも、残念じゃのう。では、そこの扉から立ち去るが良い。『日向の国』の転移装置に通じておるでの。では、さらばじゃ!」


 指された方向を見ると、簾があった奥に、巨大な扉が出現している。

 俺が手を触れると、光と共に、扉は開け放たれた!

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