第2話 嫌疑
嫌疑
「「「「乾杯!」」」」」
俺達は現在、街に戻り、祝勝会の真っ最中である。
このゲーム、パーティーを組めば、パーティー専用の、カラオケルームのような個室を与えられるので、有効に活用させて貰っている。
「全く、酷いじゃないですか。僕が仕事で遅れたからって、先にクリアしちゃうだなんて。」
この人はタカピさん。
俺達がパーティールームに戻ると、既に待っていた。
48歳らしく、俺達のパーティーでは最年長である。レベルは25で、前衛の槍使い。アバターは、年相応の壮年の男性で、がっしりとした体格だ。
年齢以外は、装備とか、色々と謎の多い人でもある。
「それは、遅れたタカピが悪いなの! サイカもこの時間じゃないとログインできないなの!」
「まあまあ、うちは時間厳守が規則なので、そこは勘弁して下さい。では、次のクエストはタカピさんの時間に合わせるということで、皆、いいかな?」
「ええ、あたしも少し後ろめたかったし、構わないわよ。」
「俺も異存ないです。」
「それでいいわ~。じゃあ~、次はタカちゃん含めてもう一度やる~?」
「サイカはドラゴン狩りたいなの。」
「いや、僕も怒っている訳じゃないですし。確かに遅れた僕が悪いですね。アロ君、ありがとう。あ、こっちも遅れましたね。クエスト達成おめでとう!」
「じゃあ、改めて乾杯だ。かんぱ~い!」
「「「「「お~!」」」」」
うん、アロさんがうまく取り成してくれた。
たった6人とは言え、纏める苦労が偲ばれる。
その後は、タカピさんの質問攻めに遭うが、皆、上機嫌で答える。
「ところで、シン君、さっきカオリンが少し気になることを言っていましたが? 僕はその場に居なかったので、詳しく教えてくれませんか?」
「あ~、タカピさん、なんか一瞬意識が飛んだって感覚でした。それ以上は俺も良く分らないです。ただ、それまでは、なんかやたら調子がいいと言うか、身体が勝手に動いていたと言うか。」
「あたしが見ていた感じでは、シンの身体が完全に、10秒も無かったけど、停止していたわ。それまでは、横で派手に動き回っていたから、すぐに気付いたわ。」
「そうなの。サイカも見ていたの。シン、少し麻痺していたみたいなの。」
「う~ん、僕は防御に手一杯で、見ていなかったが、敵の特殊スキルじゃないのか?」
「え~、それはおかしいわ~。シンちゃんが貰うくらいなら、アロちゃんも貰っているわよ~。」
うん、ミントさんの言う通りだ。
俺だけ喰らって、最前線のアロさんが喰らわない訳がない。耐性の取得状況も、俺とアロさんは、ほぼ同じだ。
「やっぱ、バグですかね? このシステム、まだまだ改善の余地がありそうですし。」
「いや、シン君、一概にそうとは決められませんよ。しかし、現状ではそう取るしかなさそうですね。ん? リアルで電話が入ったようです。皆さん、後から来た分際で済みません。落ちますね。」
タカピさんは、そう言って姿を消した。このパーティーで最年長なのに、相変わらず丁寧な人だ。
「おや、俺もコールが入った。え? システム管理から? 悪い、俺を無視して、皆、続けてください。」
「え~、シン、何かズルしたのがばれたなの?」
「シン、先に謝った方がいいわよ!」
なんでこうなる?
「え~、貴方はIDネーム『シン』、本名は『
頭の中に直接声が響く。VR内の通信には、イマイチまだ違和感がある。
「はい、そうですが、何か?」
「う~ん、何処から話せばいいですかね。今、貴方にはある嫌疑が懸けられています。何か心当たりはありませんか? あっと、ログアウトはできませんよ。貴方のログアウト機能は、現在封印させて貰っていますから。」
な、何だ?
せっかく皆で楽しく祝勝会をしていたんだ! 何故水を差す?
そして、ログアウトさせない? 嫌疑? 訳が分からん。
「いや、全く心当たりはありません。」
「貴方がそのつもりならば、いいでしょう。今、貴方は他のプレーヤーと一緒ですね。こちらもこういう事はできるだけ穏便に済ませたいので、強制的に場所を移させて貰います。」
その声が響くや否や、俺の周りの景色は一変し、通信も切れた。
周りを見回すと、前方には、扇形にテーブルがあり、そこに3人の男が座っている。3人共、全く同じ顔で、銀髪ロン毛の、エルフ族のアバター。
俺はと言うと、教壇のようなところに立たされている。
ん? これって、TVとかで見る裁判所をイメージした部屋?
じゃ、俺は被告人?
真ん中の男が口火を切る。
「まず、貴方は誰ですか? 嘘は通用しませんよ。BA《ブレインアダプター》の購入には、身分証が必要です。調べれば時間はかかるでしょうが、判明しますから。」
「いや、さっきの確認通り、八咫新です。住所も言いましょうか?」
「困りましたね。ここまで強情とは。じゃあ、良く聞いて下さい。八咫新さんは、先程死亡されました。BAに異常が検出されたので、我々スタッフが救急隊と共に、大至急『八咫新さん』の自宅に確認しに行ったところ、BAをつけたまま死亡しているのを発見したのです!」
え?
俺、死んだの?
じゃ、今の俺は何?
ってか、死んいでるのに、この世界では生きているってあり得なくね?
今度は右隣りの男が怒鳴る。
「大分動揺してるようだな! そう、お前の嘘はばれたんだよ! 八咫さんのBAは既に外されているのだからな! 勝手に他人のIDを乗っ取りやがって! お前のせいで、八咫さんは死んだのかもしれないのだぞ! どうやってハックした? 詳しく話せ!」
「え?え? さっぱり分からない! 俺は死んでない! なら、今の俺の存在は何なんだ?!」
すると、3人が顔を寄せて話し出した。
「部長、こいつ、嘘をついているようには見えませんよ。」
「いや、開き直っただけなのかもしれない。しかし、確かにそんな感じだね~。新庄君はどう思う?」
「私には判断できません。ただ、このまま拘束し続ければ、必ず変化がある筈です。我々の想像通り、彼が八咫さんのIDを乗っ取ったのであれば、本体は別の場所で生きているはずです。ならば、排泄等の生理現象が必ず起こり、それはVR内にも伝えられます。目の前の彼も、それを隠せないでしょう。また、我慢し続ければ、BAより我々に異常信号が発せられます。」
なるほど。俺は理解した。
どうやら、俺には他人のID、アバターを乗っ取った嫌疑が懸けられていると。
もし、彼等の言う通り、俺が死んでいるのなら、この状況、確かに説明できない。
そして、俺が偽物であるならば、ログアウトさせなくすればそのうち音を上げるだろうと。
「あ~、いいですか?」
「ん、何ですか? 正直に話してくれるのなら、喜んで聞きますよ。」
真ん中の新庄とやらが答える。
「そっちが信じてくれないだけで、最初から正直なんですが。まあいいです。俺の家に行って、死体とやらを確認したのなら、俺の家族、今は姉だけですが、居た筈です。姉と話させてくれれば、俺が本人かどうか確認できますよね? 俺の予想では、多分、貴方達は別人の家に行っている。」
再び3人が顔を寄せる。
しかし、今度の会話は俺には聞こえない。カットしやがったな。
そして、暫くして結論が出たのか、また真ん中の奴が答える。
「う~ん、大分混乱されているようですが、確かに女性が居るそうです。では伺います。貴方のお姉さんのお名前は?」
「敦子です。25歳、生年月日は〇月〇日。ちなみに、付き合っている男性の名前はペッピーノです。彼はイタリア人で、△△という書店に勤務しています。これでどうですか?」
暫く沈黙が流れる。
大方、現場に確認しているのだろう。
「確かに間違っていないようですね。しかし、貴方がその敦子さんの知り合いという可能性もある。ただ、彼女は取り乱していて、これ以上は無理のようです。我々も八咫さんの死因を究明する方が重要です。なので、もし貴方が『八咫新さん』なら、ここに居続けても何の問題も無いでしょう。貴方は既に死んでいるのですから。」
新庄がそう言うと、景色が再び変わる。今度はホテルの一室のような空間だ。
ドアに手をかけてみるが、当然開かない。
ふむ、監禁されたと。
試しにログアウトしようとしたが、何も起こらない。
アイテムを使って脱出しようと試みるも、『アイテム使用禁止エリア』と表示され、取り出す事すら出来なかった。
確かに俺が悪意あるハッカーなら、いい対応かもしれないな。
ちなみに、『ポーズ』も出来なかった。
あいつらの言っていたように、ダイブ中でも、生理現象はきちんと伝えられる。そういう場合、一旦ポーズして、BAを外し、トイレに駆け込み、その後、再び装着してからポーズ解除という案配だ。ダンジョン内とかでは、一度ログアウトすると、街に戻されてしまうからだ。
ただ、ポーズ中でも敵の攻撃を受けるので、戻ったら死んでいて、ログアウトさせられていた、ってこともあるらしい。
ならば、俺がここで死ねばどうだろう?
死ねば強制的に一旦ログアウトさせられ、レベルに応じた経験値と所持金がいくらか減って、20分間の待機ペナルティーを喰らう。だが、致命的なものではない。
俺としては、こんな茶番に付き合う理由は無い。
剣で自分の腕を斬ってみるが、HPは減らない。
あ~、自傷行為はできない設定だった。そもそも、パーティー内では同士討ちも無効の甘々ゲームだ。
仕方無いので、更に考えてみる。
もし彼らの言っていたことが本当なら、俺は何なんだ?
幽霊?
幽霊って意思があるのか?
おまけに、俺が言った事に対して、彼等は反応を余儀なくさせられている。
死者が生者に干渉している?
う~ん、訳が分からん。
出来る事もないようだし、寝てしまうか? とは言っても全く眠く無い。
普通ならこの時間、そろそろ眠いはずなのだが。
まあ、気が張っているのかもしれないな。
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