第2話 頭に響く声の謎

 午後の授業が終わるチャイムが鳴った。

 授業から解き放たれた生徒たちは鞄に教科書をしまい、ざわざわと放課後ティータイム。早く帰ろうと教室から出ようとすると、肩が掴まれた。

「ちとツラ貸せや」

 全身の穴という穴から汗が噴き出す。防衛本能が逃げろと警鐘を鳴らしている。

 僕は急いで肩の手を払い、廊下に飛び出した。

「まずい。捕まったら、殺られる」

 人混みを習慣から身につけたボッチ技でするすると抜けていく。角を曲がり、急いで階段を下ろうとしたがそんな浅はかな考えは儚く散った。

 中嶋が追いつき、後ろからヘッドロックしてきた。

「離せぇっっ!」

「離せって言われて離す奴がいると思うのか?」

 まさか、脳筋ゴリラにこんなド正論を言われるなんて思ってもみなかった。

 ―すぐに迎えに行くから待っててね。奏―

 一瞬誰かの声が頭を過ぎった気がした。


「あいったー」

 屋上に着き、中嶋に蹴り飛ばされた。すぐさま立ち上がり、なんか打開策はないかと頭を回転させる。

「そういえば、お前、部活はサボっていいのかよ」

「その心配はいらねぇよ、今日はoffだ」

 なんで今日に限って休みなんだよ。そんなんだからいつまで経っても野球部は初戦敗退なんだよと言い返したいところだが、他の頑張っている部員が可哀想なので、代わりに中嶋に顎を思いっきりしゃくりあげ、眉間にシワを寄せて睨みつけやった。

「なんだその顔は!?」

 中嶋は声を張り上げる。

「見てわかんねぇのか?バカにしてんだよ」

 あ?と中嶋に挑発してみると、

「んだとォ、二度とそんな顔できねぇようにボコボコにしてやるよ!」

 中嶋は咆哮を放ち、突進。

 罠にかかった!

 ニヤッと笑い、中嶋の腕を掴み、体を反転させ、.........投げ飛ばす。

『 背負い投げファイヤアアァァァッ!』

 ―ダセェ!―

 声が頭に響く。

 ――それでも決まったと思った、次の瞬間。

「ウオオアアッッ!」

 中嶋は投げ飛ばされると同時に右腕を振り下ろし、投げ返してきた。

 視界が反転し、浮遊感に包まれた。

「――――がっっっ」

 大きな衝撃受けると同時、ふわりと体は高く舞い上がる。受け身を取れず、地面に激突した。

 霞む視界の中見えた青空もすぐさま中嶋の影に隠れた。

「まだ、やれるよなぁ、オイ。」

 中嶋は俺の髪掴む。

「最後に一つだけ聞かせてくれないか」

「あ?」

「お前、俺の技ダサいって言ったよな?」

 背負い投げをするときに確かに聞こえた。

 ―ダセェ!―

 と。

「やっぱり、ダサいって自覚あったんだな。言わなくても伝わってたみたいだ」

 中嶋は腹を抱えて笑いだす。

 今の発言で確信した。理由は謎だが、今の俺には他者の心の声が聞こえるんだ。

「もういいよな」

 と、中嶋が拳を握ったその時.........。

「中嶋、もうやめなさい」

 透き通った声が耳に届いた。カツカツとローファーが音を立てて、誰かがこちらに歩いてくる。

「なんで、お前がここにいるんだ?」

 中嶋は俺の手を放し、その人の前に立った。おかげでこちらからは誰なのか分からない。

「いいから、どいて。次、奏に手を出したら許さないから」

 そう言って、彼女は中嶋をどかした。

「奏、大丈夫!?」

 すぐさま彼女は動けずに仰向けになった奏の側に駆け寄った。

 彼女が何度も呼びかけてくるが遠くに感じる。意識が遠のいていく。奏の意識は深い闇へと落ちていった……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る