水樹奏の事象
水瀬 綾人
第1話 昼休みの出来事
学校の昼休み、教室の窓際にある一番後ろの席。開いた窓から涼やかな風を肌に感じ、小説を読みふけっていた。
「なんて快適なんだ」
水樹奏は独りでボッチライフを満喫していた。
僕がボッチになったのは中学二年の頃。当時、僕はいじめにあっていて、そのことを親友だった人に相談した 。最初は何とかしてやると言っていたが、三日経つ頃にはいじめる側に加担していた。僕の次に的にされたのはその親友だったけど、助ける気なんてさらさら起きなかった。人間関係なんて、こんな簡単に崩壊する。こんな脆い関係なら、始めから作らなければいい。それから僕は人と関わることをやめた。
「痛っ!」
小説のページを捲ろうとしたら、勢いよく頭に何かが激突する。机の下に消しゴムが転がっている。誰かが俺に消しゴムを投げたみたいだ。周りを見渡すと、廊下側の席から三人組の男子生徒がこっちを見て、ニヤニヤ笑っていた。
「わりぃ、水樹。手が滑っちまった」
そう言って、消しゴムを投げたであろう男が手をあげる。
あいつは確か、野球部の中嶋だ。身長は180くらいでゴツゴツとした岩のような体と坊主が特徴的。顔は良いが、性格の方はかなり酷い。
その証拠に手がっ滑ったなどと白々しい嘘を言ってのける。
仕方がなく消しゴムを拾うと、カバーからするりと音もなく消しゴムの本体が抜け、教室の床にポテッと落ちた。再び拾おうとすると、消しゴムの綺麗な表面に『 藍原月夜』と書かれている。藍原月夜は同じクラスで校内一可愛いことで有名でセミロングの黒髪が特徴だ。競争率かなり高い。もしや、中嶋は消しゴムに好きな人の名前を書き、誰にも見られることなく使いきるとその二人は結ばれるというおまじないを信じているのか?
馬鹿め中嶋、貴様の願いはいまこの瞬間に僕の手によって散ることとなる。
「あっれー、消しゴムに何か書いてあるなあ?」
そう声高にクラス中に聞こえるように言うと中嶋は自分の犯した失態に今頃気づいたのか、顔が面白いくらいに真っ青になっていた。
「藍原月夜って書いてあるぞー」
「言うんじゃねぇ!」
「もしかして、中嶋くんは藍原さんのことが大ちゅきなのかな?」
「テメェ、ぶっ殺す!」
この状況になることを誰も予期していなかったのか、周りは呆然とし、中には必死に笑いを堪えている人もいた。一人大爆笑しているのが藍原さんだったことは意外だった。
中嶋は鬼の形相でこっちに向かってきたが
そこにガラガラッと教室のドアを開けて先生が入ってきて、同時に授業開始のチャイムが鳴ったので、中嶋や他の生徒はみんな席に着いた。
授業が始まっても教室の喧騒は収まらなかった。
まだ手には中嶋の消しゴムが残っている。
どうしようかと悩んでいると、
―水樹の野郎、絶対ぶちのめしてやる―
―このクラスいつも以上に騒がしい―
―やべぇ、中嶋を怒らしちまったよ水樹―
―中嶋くん、藍原さんが好きなんだ―
―面白すぎ―
クラスメイト達の声が直接頭に流れてくる。
「なんだ?」
顔を上げ、辺りを見回すが、全員黒板を向いており、話している奴は誰もいない。
僕は思考をフル回転させることで、一つの可能性にたどり着いた―――
僕は超能力に目覚めたのかもしれない。
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