第12話

そんな事を考えていると、公園の前に一台のトラックが止まった。公園内に、緊張が走る。

「神野琴音ちゃんかね?」

トラックの運転席の窓が開いて、サングラスを掛けた男の目が少女を捉えて離さない。琴音は一瞬怯んだが、振り切る様に答える。

「そうよ。私が神野琴音。お金はこの中に入ってるって聞いた。妹はどこにいるの?」

「そうか。残念だけど、君の妹さんはここにはいないんだ。もし君がこのトラックに乗ってくれるんだったら、妹さんに会わせてあげるよ」

「って事は、妹とお家に帰れるって事?」

「君が大人しく、俺の言う事を聞いてくれるんならな」

「もしかしてお兄さん、そう言って私も琴美も殺そうとしてるの?それで、お兄さんも死のうとしてるの?」

男は眉を吊り上げた。読まれている。自分の考えを、僅か六歳の少女に読まれている。何故だ。そんな犯人の心に訴えるように、少女は続ける。

「お兄さん。私はね、パパもママもいないの。だからね、分かるの。大切な人の声が聞こえなくて、姿も見えないって事がどれだけ辛いかって。でもね、死んだらだめなの。死んでもね、パパにもママにも会えないし、声だって聞こえないの。ずっと一人ぼっちで…」

琴音の声はそこで止まった。犯人が銃口を琴音に向けたからだ。

「いい加減にしろ。命が惜しくて滑る舌など、俺の耳には一寸たりとも入って来ない。俺は知らねえよ。大切な奴が死んだ悲しみなんてよ。経験した野郎にしか知り得ねえ話だ。とっとと車に乗らねえと、妹の命が消えるって事、まだ分かってねえみたいだな」

琴音はどうすればいいか分からなくなっていた。でも、乗らなきゃ妹が一人で死んじゃう。もし妹がいなくなってしまうのなら、最期まで一緒にいてあげたい。琴音には、乗るという選択肢以外存在していなかった。

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