第10話
それからしばらくして、琴音は小宮と共に児童養護施設に帰所した。泣く子供からこれ以上深い証言は得られないと警察側が判断したからである。
児童養護施設のドアを開けると、高坂が玄関で待っていた。琴音の姿を確認するなり、琴音に抱きつく。
「大丈夫?琴美ちゃんはまだどこにいるか分からないの?」
「分からない。どうしたらいいの?琴美、早く助けないと死んじゃうよ」
不安という波が琴音の心を襲い、琴音はパニックに陥った。
「落ち着いて。琴音ちゃん」
高坂は、そんな琴音の肩を抱きながら、必死に言葉を探る。
「犯人からまた連絡があったの。身代金を琴音ちゃん一人で渡しに来てくれたら、琴美ちゃんを返してくれるって。行ってこれる?」
「琴美の為だもん」
琴音はもう、冷静さを取り戻していた。その瞳には、姉ならではの意思の強さが、滲み出ている。
「行くしかないよ。行けるに決まってる」
「そう。じゃあ任せちゃおうかしらね。この場所、知ってるわよね?」
高坂が示した場所は昔、姉妹が学校帰りに寄る、思い出の公園だった。
「知ってる」
琴音は意を決し、児童養護施設を後にした。
外は雨が降っている。冷たい水は、何か凄惨たるものを呼び込んでいる。琴音は傘を差して歩き続ける。
姉は妹を気遣い、妹は姉を気遣う。お互いを気遣ううちに、姉妹の絆を育んで行く。その途上にあったのが、この公園である。喧嘩して仲直りして助け合う。何にも代えられない、大切な時間のほとんどをここで過ごしてきた。今ここで、妹を殺してはいけない。姉の決意は固かった。小学一年の琴音だって、妹に対する思いは薄弱ではない。身代金百万円の入った鞄は、チューバのように重く、ずっしりとしていた。
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