第9話

子ども園の職員が悩みに悩んでいると、警察官が顔を出した。そして、琴音の前に来ると、琴音と目線を合わせ、琴音の目の高さに警察手帳を掲げた。

「神野琴音ちゃんだよね?」

琴音は無言で頷いた。警察官から発する独特の威圧感に、琴音の手足が無意識に震える。目の前の相手は、無理矢理笑顔を作っているのは明白だった。警察官はそれに気付いているのかいないのか、更に話し続ける。

「妹さんが誘拐されちゃった事について教えて欲しいんだ。妹さんを助ける為にも、君の協力が必要なんだ。僕たちに力を貸してくれるかな?」

優しい口調が余計に恐怖を生み、琴音の目から水が溢れて止まらなくなった。すぐに子ども園の職員が駆け付けて琴音の背中をさすったが、警察官はまだ目の前の女の子が自分のせいで泣いている事を理解していなかった。大人には、子供の心が分からない。大人も子供だったのに、遠い過去として歴史の闇の中に葬り去るからだ。

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