勝利だギューちゃん

第1話

「やはり、ここにいいたんだね・・・」

「・・・ああ・・・」

「探したよ」

「なぜ?」

「なぜって、訊かれても・・・」

「答えられないよね・・・」

「うん・・・」

「それでいい・・・」


彼は不思議な男の子だった・・・

あまり、他人と会話をしない・・・

いつも、ぼんやりと窓の外を見ている・・・


そして、ふらっといなくなる・・・

彼がどこへ、行っているのかは、誰もわからない・・・


いつしか、誰も彼を気に止めなくなった・・・

彼にとっても、それが好都合だったようだ・・・


でも、私は彼に興味を持っていた・・・

興味と言っても、一種の好奇心だった・・・


彼がどこへ行っているのか、気になっていた・・・

でも、ストーカーみたいなことは、したくない。


ある日私は、名簿を頼りに彼の家を訪ねてみた。

彼は留守だったが、ご両親があたたかく出迎えてくれた。

(お友達が来てくれるなんて、初めて)

そうご両親は、言っていた・・・

でも、彼の行き先は、知らないようだった・・・


私はご両親にご挨拶をして、彼の家を出た。


(彼はどこにいるのか?)

それだけが、気になりはじめ、日に日に強くなっていく・・・


「彼の事は嫌いではない。でも、恋とは違う・・・」


しばらく、歩いて行くと、お寺が見えた。

そこのお寺は、かなり荒れていた。

住職もいない・・・

いわゆる廃寺だった・・・


(まさかね)

そう思い、中に入る・・・

すると、彼がいた・・・


境内の前に、立ち尽くしていた・・・

私には気付いていないようだった・・・


私は邪魔にならないように、その場を立ち去ろうとした・・・

「ここはいいよね・・・」

後ろから声がした・・・

「誰もいない場所、よりつかない場所、ここは好きだ」

「・・・私の事、気付いてたの・・・」

「うん・・・影が見えた・・・」

私は、驚きのあまり声が出なかった・・・


私は思い切って、彼に訪ねてみた。

「ねえ、どうしていつも、ひとりでいるの?」

「知りたい・・・」

「うん、みんな心配しているよ・・・」

「嘘をつかないでくれ・・・」

会話はしている・・・

でも、彼は私に背を向けたままだった・・・


私は繰り返す。

「ねえ、どうしていつも、ひとりでいるの?」

彼は答えた・・・

「それは、君たちがわかっているだろう・・・」

それっきり、彼は何も答えない・・・

私は、その場から立ち去った・・・


その日も、彼はいなくなった・・・


「やはり、ここにいいたんだね・・・」

「・・・ああ・・・」

「探したよ」

「なぜ?」

「なぜって、訊かれても・・・」

「答えられないよね・・・」

「うん・・・」

「それでいい・・・」

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勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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