第79話:王女入城の裏で

 王都の北門付近で不穏な動きをみせる一団。

 憲兵たちは自分たちの力だけでは城外の軍勢に敵わないと見ると方針を変えた。


「つまり城門に集まった民衆を?」

「そうだ。武装していないうえに女子供もいる。軍隊を相手するより安全で確実だ」

「しかし、いくら民草どもを蹴散らしたところで、外の連中には被害はないんじゃ?」

「パニックを起こした連中が城門を塞いでくれれば奴らは中に入って来れない。その間に態勢を整える」


 方針が決まり憲兵たちは各々が武器を取り、城門前へと急いだ。武器も持たない民衆の相手など造作もないと不敵な笑みを浮かべて。


「派手に行くぞ! 馬引け!!」


 幾人かが馬に跨り、いよいよ民衆に襲いかかろうとした時だった。


「ご精が出ますね」


 そう呼び止められた憲兵たちは、声を発した人物の方を見た。そこには身なりの整った男と白髪の少女が立っていた。


「貴様ら! 邪魔立てするとただでは……」


 憲兵が言葉を終える前に、憲兵の首がゴトッと転げ落ちる。その事態を全員が把握する前に、いつの間にか白髪の少女が集団の中心にいた。


「セナ嬢、もう少し穏便にしてもらえるか?」

「分かりました。少し遅いですが」


 少女が答えるのと同じくして、憲兵たちの首が次々に落ちていく。その地獄のような光景を目の当たりにした残党は、本能で恐怖を感じ取り我先にとその場から逃げ出したのだった。


 その状況にオボロはため息をつき、逃げた憲兵の方を確認する。


「大方は中心部の方へ逃げたようだが、パニックを起こした少数が城門の方へ行ってしまったか」


 組織立って民衆に襲い掛かられるよりは幾分マシだが、パニックになった憲兵が民衆に襲い掛かるのも問題だ。


「追いますか?」

「いや、次の連中のところに行こう」


 セナの問いにオボロは迷わず答える。困ったことに同じようなことを考えている憲兵はまだいる。それに血で染まった路地裏を見たオボロは、大通りでセナに暴れられる方がよほどマズイと瞬時に悟ったのだった。


「……城門の方は王女殿下に任せよう」


 そう言うと、オボロとセナは次の標的へと向うのだった。


※※※※※※※※※※


「なぁ、兄貴。王女様たちの方は上手くいったかな?」

「どうかな。やれることはしたつもりだけど」


 シンからの問いには曖昧に応じたものの、王都の騒ぎからするに上手くいっているであろうとの予想はあった。しかし、アリサたちからは大分離れているため詳しい状況は分からない。


「でもよ兄貴、なんでわざわざ東門なんかに来たんだ? 王女様の手伝いをするなら北門だろ?」

「ちょっとした野暮用がね」

「……まぁ、兄貴が訳分かんねぇのはいつものことかぁ」


 呆れた顔のシンを連れ、自分たちは東門へと訪れていた。


「でもよ、獣人のおっさんやら随分と怖い感じの奴らも引き連れて来ちまって、これじゃ誰も近づかないんじゃね?」


 シンがチラッと後ろを振り返ればガラの悪い男たちがついて来ている。オボロから借り受けた彼の部下だ。

 大通りを通ると流石に目立つので脇道を選んで来たのだが、すれ違う人は一様に道を譲ってくれる。目も合わせようとしないのだが。


「それで私たちはどうすれば良い?」


 獣人の男、確かガウムと名乗っていた男が指示を求めてくる。オボロからはそれなりの人数を出してもらったが、流石に城門をどうこうすることは出来ない。

 それに東門は北門とは違った意味で異様な状態だった。


「警備が尋常ではない。貴族の兵がそこかしこにいる」


 北門に憲兵や民衆が殺到する中で、東門は貴族たちによって物々しい警備が行われていた。城門は開かれており、そこからは多くの馬車や荷車が王都から離れて行っている。


「兄貴、貴族の連中は逃げ出してるのか?」

「ああ、どうやらアリサ達の方は順調らしい」


 そこでシンが何か名案を思いついたように叫ぶ。


「分かった! ここで騒ぎを起こして混乱させて、貴族たちを逃さないようにしようって事か!」

「お言葉ですが、そいつは難しいです。こんだけ厳重な警備じゃ、一瞬で制圧されて仕舞いです」


 シンの策はガウムによって却下される。

 確かに、配置されている戦力は他の城門と比較にならない。ここにいる戦力が北門に向えば大規模な戦闘を余儀なくされる程だ。そんな状況をたった数十人ではどうしようもない。


「ガウムさん達は散らばって待機をお願いします。なるべく人目に付くように、ですが争いは避けてください」

「それは構わんが、御主はどうするのだ?」

「ある人を待ちます」

「う、うむ。さっぱり分からんが、要は目立つように動き回れば良いのだな」

「はい、それでお願いします」


 ガルムは『陽動か?』と、首をひねりながら仲間たちと散って行く。


「兄貴、ある人って誰を待つんだ?」

「すぐに分かるさ」


 シンも頭から疑問符が出ていそうだったが、『まぁ、兄貴が訳分かんねぇのは仕方ねぇか』と、また妙に失礼な納得をしていた。


 この国の主が代わるのも時間の問題だった。

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