第74話:それぞれの役目
「アリサに付いていなくて良いんですか?」
「ええ、彼女なら上手くやりますよ」
アリサが王都守備隊への工作を行っている中、エマ達と共に向ったのは王都北部の森の中だ。
「こんな辺鄙なとこに、何があんだよ?!」
「
「だからってよぉ」
ツカヤ隊長の説明にデルトは不満そうだが、黙って付いていくエマに従って、次第に口数は少なくなっていった。
「ここです」
案内された先は、石壁で囲われた城のような場所だった。
「元々は王都防衛の砦でしたが、随分前に廃棄されたもので、今は我々が間借りしております」
ツカヤの先導で砦内へと案内されると、兵士たちがこちらに向けて一斉に敬礼を行ってきた。
「へぇ、反撃拠点ってか」
「ええ。そうです」
「なるほど。想像していたよりはまともに作戦行動が出来ているようですね。それにしても、アリサにここを秘密にしているのは、アレが理由ですか?」
エマが目ざとく見つけたのは、兵士たちが憲兵の輸送隊から強奪してきた物資を運び込んでいる姿だ。
「確かに、あの子に見られれば、何を言われるか想像が付きますね」
「エマさんも反対ですか?」
「いいえ。私達に有益に働くのであれば、特に」
融通のきくエマには、ここを見せても問題ないだろうとは思っていた。しかし、エマの鋭さはこれだけに留まらなかった。
「それで? この他に何を隠しているのでしょうか?」
「……流石、鋭い」
「そうでもなければ、貴方がここまで同行する理由がないでしょうから」
「実は、お二人に黙っていたことがありまして……」
※※※※※※※※※※
「アイツ、散々こき使いやがってよ」
「そう言う割に、全然不満そうに見えませんけどねぇ……」
「あぁ? 何か言ったか?」
「いいえ。別に」
冒険者のヒルとケニスは王都の東側を探索していた。
「王都の三方には不安材料がありますからねぇ。大将曰く、ここらにあるって話でしたが」
冒険者メンバーが探しているのは、ノルドが憲兵に命じて集めさせた西部物資の集積場。
西からは帝国が迫り、南は自らで封じてしまっている。そして、北には謎の盗賊集団。残るは、この東部だけという訳だ。
「……来たか」
近くの草木がガザガザと音尾を立て、二人の前に現れたのは弓を持った耳長の少女だ。
「見つけた」
「本当にあんのかよ……」
シャルからの報告を受けたヒルは、やれやれと言った感じだ。
「どうするの?」
「どうするって、監視だ、監視!」
「仕掛けないの?」
「バカ言うな! この人数でどうしろってんだ」
「そんじゃ、しばらく付き合ってもらうぞ。エルフの嬢ちゃん」
「私は貴方より年上。嬢ちゃん呼ばわりは違和感」
「へいへい、これだから長命種様はよぉ……。で、なんて呼べばいいんだ?」
「シャル」
「んじゃ、シャル。ちょっくら道案内を頼む」
コクリと頷いたシャルに続き、ヒルは森の中へと分け入っていく。
※※※※※※※※※※
「私達って、こう言う役目が多いわね……」
リタが居たのは王都の商会前だ。
彼女が命じられたのは、商人やギルドの冒険者に噂を流すと言うだけものだ。
「……そう、ッスねぇ」
「あんた、この間から全然元気無いわね? もっと、しっかりしなさいよ!」
「そうッスねぇ……」
「こりゃダメねぇ」
ヤレヤレといったリタの隣には、ゲッソリとしたロットが力無く付き添っている。南部の探索から戻って以来、ずっとこの調子だ。
「お、お待たせしました!」
「ミア、そっちは順調?」
「はい! 孤児院の方はシスターとお話出来ました!」
「そう、助かるわ。連れがこの体たらくで、人手が足りなくて」
リタはロットを横目に、合流したミアを労う。
「いいえ、私はあの教会で育ちましたから。お安い御用です!」
「そう。じゃぁ、残りもさっさと済ませちゃいましょう」
「はい!」
「それにしても、三つの噂を別々に流せって、意味分かんないわね」
受けた指令は三つの噂をそれぞれ別々のところで出来るだけ拡散させると言う、単純で不可解なものだ。
「オボロさん達もあちこちで同じ噂を流してたみたいです。もう、王都内のあちこちで似たような話を聞きますよ?」
「あちこち?」
「ええ。でも、私達の知ってる噂とちょっと違うんです。合わさっちゃたり、尾ヒレが付いちゃたりで……」
ミアの言うことに引っ掛かりながらも、リタ達は活動を続けて行った。
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「王都守備隊との交渉は上手く行ったみたいだな」
「ええ。全面協力って訳ではないけれど」
ハレスとの会談を終えてスラムに戻って来てみれば、エマやシャルといった主要メンバーは出払っていた。
私の向かいには偏屈な青年が座っていて、部屋にはオボロやセナといった面々だけが残っていた。
それにしても、王都に来てやっとの思いで手繰り寄せた成果なのに。もっとこう、言うことがあっても良い気がするのだが。
「王都の守備隊を動かすには、やはり人質の方をどうにかするしかなさそうだ」
「今は手を出して来ないだけでありがたいですよ」
「フッ、確かに……」
「北部の方も、そろそろ準備が整うはずです。頃合いですね」
「ちょ、ちょっと、これからどうするっていうの?」
私を置いてどんどん話を進めて行く二人をさえぎって、私は説明を求めた。このまま流されてしまったら、どこまで行ってしまうか分からないという漠然とした不安があったからだ。
「心配ない。アリサには、本来の役目に戻ってもらうだけだ」
「……私の役目?」
「あぁ、救国の王女としてね」
救国の王女とは、大きく出たものだと思った。
確かに、私にはこの国の王女としての役割と義務がある。しかし、今の私には理想を口にするだけの力がない。
「……無理よ。今の私には」
「君が立つだけの力は、すでに用意したよ」
「北部にいる二百人の兵たちのこと? 前にも言ったけれど、それは無謀よ。それとも、君は兵を道連れに私に果てろと言いたいの?」
それならば、それでも良い。私が死してこの国に残せるものがあるのなら。だがその時は、兵を連れては行くまい。私一人で十分だ。
「いいや、そうじゃないよ。今から王都北部の拠点に行ってみてくれないか?」
「だから、それは……」
「頼む」
これは、少しズルいと思った。これだけ真剣な目で頼まれて、断れる人の方が少ないだろうに。
「……分かった」
兵たちのことは、私が命じれば後からでもどうにか出来るだろう。だから、ここは彼の言うことに従ってみよう。
入り口に迎えに来た兵士に連れられて部屋を出ようとした時だった。
「アリサ! 守備隊の件、ありがとう。これが無ければ動けなかったよ。君のおかげだ」
……まったく、これだからこの人は苦手なのだ。
※※※※※※※※※※
数日後
王都の北部には大軍勢が集まり、出立の準備が進められていた。
王都解放のために集まった兵力は、およそ四千。
その軍勢の先頭に、アリサの姿はあった。
「そろったわね」
「ええ。王都解放軍、準備が整いました」
アリサ問いかけに、エマが準備完了を告げる。
「そう。では、行きましょう」
アリサの号令に従って、王女の軍が王都へと歩み出すのだった。
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