第41話:国境へ
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「大将、上手くやってますかね?」
「さぁな。まぁ、アイツなら大丈夫だろ」
王都の下町のとある部屋で、ヒルと冒険者の男はヒサヤの身を案じていた。
「き、貴様ら! ただで済むと思うなよ!」
目の前には縛りあげられた憲兵達が数人。その中の一人は、先ほどからすごい
「どうします?」
「放っておけ。それより、あの白い嬢ちゃん達の方が心配だが……」
王都の手前で情報収集に励んでいた一行だったが、情報を集めれば集めるほど、事態は
今、打てる手はすべて打っておこうとなり、一行は行動を開始したのだった。
「しかし、本当にいい使いっぷりじゃねぇか。付いていく相手を間違えたか……」
そう言うと、仲間の男は笑い、ヒル自身も自らの顔がニヤけているのに気付いたのだった。
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「姫様!? どうされたんですか? お目が」
「……ミア。心配しなくて大丈夫だから」
宮殿の自室に戻ると、泣き腫らした目をどうにも隠すことが出来ずに、侍女がこちらを気にかけてきた。
「ミア。一人になりたいから、今日はもう下がって」
「……分かりました。姫様」
そう言って、こちらに深々とお辞儀をした少女は、年齢も背格好も私に近い。
彼女の役目は、私の身の回りの世話ともう一つ。
侍女が退室して行くと、私は水瓶に溜められていた水で顔を洗った。頬に伝わった涙の筋が消えて、腫れぼったかった目も、幾分かマシになったように感じる。
「本当、人の気持ちも知らないで……」
そんな文句を口にしながらも、口角が少し上がっているように感じる。
そして、彼の胸で泣いてしまった恥ずかしいような、嬉しいような不思議な感情が込み上げて来て、私はベッドに飛び込み、枕に顔を
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「さてと……」
しばらくベッドに身を預けて、ようやく気持ちの整理がつくと、ベッドから起き上がった。
天窓からは、いつの間にか月明かりが入って来て、夜になってしまったことに気付いた。
目の腫れは少しあるようだが構わない。ちょうどいい暗がりに、これから向うところには、私の顔をまともに見る相手などいないだろうから。
身支度の前に、いつもミアが用意してくれている花びらやハーブが浮かべられた浴槽に身を沈めながら、一人で考えを巡らせる。
「……エマは怒るかなぁ」
私の決断は変わらない。兄の
「君は、どう思うのかな……」
とある青年を思い浮かべて出た言葉に、胸が締め付けられるのを感じながら、小さなため息が漏れる。
「駄目だなぁ、迷ってるんだ……私」
すぐに国境に向わずに宮殿に来たのは、酷い顔を人に見られたくなかったのに加えて、彼を引き離す為だ。
私は彼に付いて来て欲しくない気持ちと、彼にそばにいて欲しい未練に揺れていた。
「覚悟を決めた筈なのに……、こんなに弱かったんだ。私は」
本当に悪いタイミングで出てきてくれたものだ。
あのまま国境に向えたのなら、私はこんなに迷わなかった筈なのに。
浴槽から出て、服を着ると大きく深呼吸して気を静めて、部屋の扉に手をかけた。
「どうされましたか? 王女様」
部屋の外で私を監視していた兵士が、声を掛けてきた。
「……話は聞いていますか?」
「はい。明日の朝までに出て来なければ、引き
無用な気遣いをと苦笑し、兵士に告げる。
「今から出ます。宮殿にいる者達に悟られぬように、連れ出しなさい」
兵士は眉をひそめたが、面倒ごとを起こされるよりはマシとばかりに、私だけを宮殿の外へと連れ出してくれた。
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暗がりの道を王都の城門へと向かう私の周りは、貴族派の私兵達に憲兵となかなかの人数になっていた。
知らない者達に囲まれて進むうちに、徐々に私の迷いも消えていく。まるで、感情までもが失われていくように、無言で城門に向かった。
「止まれ」
城門に到着すると、何故か馬を止められた。
「どうしたの?」
「準備は出来ている。……全く面倒を掛けさせる」
「準備?」
てっきり、このまま進んで行くのかと思っていた私が戸惑っていると、兵士は一台の馬車を指した。
「貴女が準備させたのだろ? 今夜にも立つからと言って、憲兵が強引に持ち込んで来たが、積み荷も大した物ではなかったしな」
憲兵と言う言葉に胸を衝かれて固まっていると、馬車の中から顔を隠した憲兵がこちらに近づいて来た。
「遅かったな」
聞き覚えのある声の人物に、私の嫌な予感が当たっていた事が分かる。
「……先に出ているぞ」
そう言って、憲兵が馬車に乗り込むと、彼らは先に進み始めた。
「何をしている? 早く進め」
兵士に声を掛けられて、ようやく馬を進め始められたが、私の心の中は、ぐちゃぐちゃにかき乱されていた。
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「王女様、怒ってなかったか?」
「恨まれる方が、死なれるよりマシですから」
「そりゃ、そうだが……」
馬車に乗るなり、こちらも憲兵の装いをしたヒルが尋ねて来るが、こちらの答えに納得しないまでも引き下がっていく。
王都で再会した時、彼女は一人で城門に向かおうとしていた。腹心の者達も連れずに、彼女が行こうとする先など知れている。
「それにしても、言われた通りに集めちゃみたものの、こんなもんが役に立つのか?」
「分かりませんが、何も無いよりは良いですから……」
自分たちの後ろには、大量の棒切れのようなものが積まれている。
「じゃ、行きましょうか。国境へ……」
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