第40話:知り得たこと
路地裏の物陰にアリサを引き込み、顔を隠すために覆っていた布を外して顔を見せると、彼女は驚いて息を呑んだ。
「あ、あなた、どうしてここに!?」
流石にやり過ぎたかと、頭を掻きながら苦笑して、改めて彼女の顔を見ると、今にも泣きそうな顔でこちらを見ている。
「お、おい!? 何も泣くほどのことじゃ」
「……ばか」
「え?」
「バカァ! いきなり出てきて、何なのよ!?」
大声で怒鳴られて、思わず背筋を伸ばして直立不動の姿勢になると、ツカツカとこちらに近づいてくるアリサが見えた。
顔を見せずに迫ってくる彼女に、頬を張られるのを覚悟して目を細めた時。
トンッと、彼女の頭が胸の辺りに押し当てられた。
「……人の気持ちも知らないで。……本当、バカ」
すると彼女は、そのまま顔を見せずに泣き始めてしまった。
胸元に
※※※※※※※※※※
「……ありがとう。もう、大丈夫だから」
顔を覗き込もうとすると、スッと背を向けるアリサに、これ以上は無粋だろうと悟り、小さく息を吐いて彼女に背を向ける。
「それで、どちらに行かれますか? お姫様」
再び、布で顔を覆い隠しながら彼女に問うと、小さい声で返答があった。
「……宮殿へ。一度、みんなとも顔を見せた方が良いでしょ」
そう言うと、アリサは自分の脇を早足で通り抜け、さっさと歩き始めてしまった。
多少、呆気にとられながら片手を前に出して彼女
を呼び止めようとするが、すぐに手を引っ込めて彼女の後を駆け足で追った。
※※※※※※※※※※
アリサに続いて宮殿に着くと、警備の兵士に軽く挨拶しつつ、中に入ることが出来た。所属の違う者の顔など、いちいち確認していられないのだろう。
「お前! 何だその格好は⁉ 似合ってねぇなぁ」
中に入り、広間で皆と合流して顔を見せると、早速デルトに憲兵の制服をイジられる。アリサにも初めは同じ反応をされると思っていたのだが、どうも間が悪かったようだ。
彼女は宮殿に帰って来るなり、自室に閉じこもってしまったのだった。
「借り物ですよ」
「借り物って、……まぁ、いい。それで、どこまで知ってるんだ?」
部屋の外の兵士に気を払いながら、小声でデルトは尋ねてきた。
デルトにエマ、そしてシャルが集まった部屋でこれまでの情報収集の結果を共有する。
「まず、ゴンド王国の状況ですが敗戦は事実です。国境を破られたゴンドは、各地で反抗戦を行っているようですが、連敗続きでどうやら大規模な軍事行動を取れていないようです」
「帝国の規模は? どれほどの敵が攻めいって来たのですか?」
「人によって情報が違うのでハッキリしませんが、おおよそ五万」
「五万……」
こちらの答えにエマは深刻な面持ちだが、どこか納得のいかない様子だった。
「どうしたんです?」
「数が少ないと思ってるんでしょ」
近くにいたシャルが答えると、エマが同意するように頷いて続く。
「ええ。ゴンドは最強と
確かに五万は大軍だが、今まで連敗し続けた強敵相手。しかも、攻める側の帝国にしてみれば、倍の数を用意しても不思議ではない。自分も最初はそう思っていた。
だが、冒険者達の情報網から
「……帝国の侵攻と時を同じくして、別の勢力が動いていたらどうですか?」
「別の?」
「はい。
「オークに、トロール⁉」
思いがけずに大きな声を出したデルトを、シャルが睨みつける。
「……悪い」
「驚くのも無理はありません。ゴンド王国の兵が、屈強たる
「なんで、オークたちがゴンドの強さと関係あるんですか?」
オークにトロール。ファンタジーや小説で登場する悪の軍団の尖兵。物語では定番のやられ役。
「この二種族は、ほとんど人と変わりません。魔物と人の間にある者達。亜人種と呼ばれています。ゴンドは常に帝国に加えて、この二つの種族とも領土の攻防を続けていました。これまで、彼らの侵攻が
「……似ていると、思いませんか?」
自分の言葉に、エマは一瞬訝しげな顔をしたが、すぐに気付いて頷いた。
「な、なんだよ? 何に似てんだよ?」
「……
シャルの言葉に、デルトも驚いた顔を浮かべる。
「つまり、帝国の侵攻はゴンドだけで止まらない。我が国への侵攻も既に始まっている。と……」
エマの言葉に静まり返った一同に、自分はゆっくりと頷く。
「おい、おい! 全部仕組まれてるってんなら、援軍に行ったウチの連中は?」
「それは、分かりませんでした。ゴンドとの国境を出た後、足取りが途絶えたようで……」
そこまで話した時だ、部屋の入り口がにわかに慌ただしくなるのを感じた。
ヤバい⁉ と、思った時にデルトが自分の胸ぐらを掴む。それと同時に、数人の兵士が部屋に入ってきた。
「おい、何を騒いで……、おい!?」
「テメェ! 俺らのこと探ってやがったんだろ!?」
「おい!
「うるせぇ!!」
デルトは自分を部屋の外へと出すように突き放すと、後ろで派手に暴れていた。
続々とデルトの方に集まる兵士たちの隙きを突き、自分は宮殿の外へと脱した。
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