第27話:黒羊
「まさか、こんなことになるなんて……」
シンが信じられないものを見たようにつぶやく。
戦場の
※※※※※※※※※※
執務室でアリサと別れ、少年を連れ出した後。
出陣の判断を確認することも無く、北の森に先行した。簡単では無いだろうが、あの
「……いつ始まってもおかしく無いぞ」
「ええ。急ぎましょう」
そして集まった冒険者達の前に、持って来た
「一つずつ取って下さい」
「……香なんてどうするんだ?」
「その中に、コイツを混ぜます」
別の袋に入れていたのは、ウルの毛だ。
それを見て、冒険者達も自分の意図に気付いた様子だった。
「
「いいえ。別の方です。頼んでいた件ですけど……」
ヒルを見て尋ねると、彼は苦笑した。
「ああ。森の中、数カ所に狼の毛をばら
「だが、上手く
ヒルは全てを
「じゃ、気合入れて探すか! 黒羊を」
「はい。お願いします。こっちは、もう一つの準備を……」
「分かった。急ぐぞ! お姫様たちが来ちまう前に」
集合する
※※※※※※※※※※
シンとウル、そして例の少年を連れて
「思ったよりしんどいぜ。なぁ、兄貴……」
「お前、何をしようとしてるんだ?」
「おい! 俺が先に話してんだ!」
「…関係あるか? ガキが」
「あぁ!?」
歳の近い二人は、ちょっとしたことで絶えず言い争っていた。
「……仲が良いんだな」
「「どこが!!」」
息が合った二人を引き連れて、目的の場所に到着した。
背中の荷物を下ろすと、ガチャガチャとすごい音が鳴る。金属の壺にガラクタを入れた簡単な仕掛けの物だ。大小問わず、それなりの数が袋の中に入っている。
「兄貴。こんなもん、何に使うんだよ?」
「全くだ。お前、
いつの間にか、同じように文句を言う二人。
やはり仲が良いようだ。
「二人とも、木登りは得意か?」
少しの間、顔を見合わせる二人。
「当たり前だ!!」
「コイツに出来て、出来ないはずない!!」
二人ともムキになって争う。そうしているうちに、崖の下ではアリサの軍勢が布陣し始めているのが見えた。
「お前! 本当に妹は助かるんだろうな?」
少年がコチラを
「ああ。お前たちが鍵だ」
そして、二人に作戦を伝えた。
※※※※※※※※※※
アリサ達の布陣が終わる前に、再び冒険者達と合流する。
「どうでしたか?」
「ああ、バッチリだ! いい所に数百頭の群れで
「これから、全員で彼らを追い立てましょう」
「見張りはもういいのか?」
「必要ありません」
そうなる前に、準備を整えなくてはならない。
「
「ああ。分かってる」
冒険者たちに狼の毛とお香を渡し、
そして最後に、ずっと足元に付いてきていたウルを
「よし。お前が頼りだぞ」
ブンブンと尻尾を振りながら、しっかりとコチラを見つめる狼は、任せろ!と言わんばかりだった。
※※※※※※※※※※
冒険者たちは黒羊の群れの周りに散らばると、三方から徐々に
ウルの毛を含んだお香の効き目は絶大だった。黒羊たちは周囲の物音と捕食者の気配に、袋の口の方へと
すると、遠くから
ついに、
それまで順調だった誘導も、その地響きを
そのとき、群れに向かってウルが勢いよく走り出した。それまで気配だけで押し出されていた黒羊は、本物の狂狼の登場に
ウルは群れの周りを走り回って的確に目的の場所へと誘導して行き、そして、
黒羊の群れが、あまり崖に近づき過ぎないようにウルを引かせる。あまり追い詰め過ぎると、黒羊は自分たちの方へと突撃してきてしまうからだ。
じっと黒羊の群れと対峙していたとき、崖の下についに小鬼の群れが到達した。
その瞬間、木の上から黒羊の群れの中に香炉や金属の壺が投げ込まれる。それに合わせてウルを放ち、一気に群れへと襲いかからせた。音と匂い、それに足元を走り回る狼に黒羊たちは大混乱となった。
崖の
そこから先は、上から見渡す限りあまりに
その様子を見ていた者達は、一様に黙り込んでしまうのだった。
※※※※※※※※※※
数を減らし、暴走を止めて山へと逃げていく
だが、もう一つ解決する問題が残っている。
「こっちの方は済んだ。今度はお前の番だ。案内してくれ」
「……お前じゃない。コルトだ」
妹を助ける為に
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