第14話:エルド王国

 エルド王国はアルモニア半島の中央にある国だ。


 北には大山脈、南に雄大な大森林をたたえ、西に軍事大国ゴンド王国、東に海洋国家バラク王国が存在している。


 そんなアルモニア半島の西には、圧倒的な力を誇る帝国ロメルがあり、軍事力を背景に勢力を伸ばし続けていた。

 帝国の脅威きょういに対抗するため、ゴンド、エルド、バラクの三国は同盟を結成。三王同盟にて、これに対抗していた。


 帝国に隣接するゴンドは、直接の脅威に対抗するため軍事力を強化。世界一と呼ばれる騎馬兵力を有していた。一方、東のバラクは海に接しており、海上貿易などで経済を発展させ豊かさを謳歌おうかしている。


 そんな両国とバランスを取りながら微妙な均衡を保っているエルドには、神から聖霊がつかわさるとされ、その信仰をいしずえとして国家を築いてきた。

 具現化した聖霊は代々エルド王家に手厚く保護され、その宣託せんたくは王家の中でも特に聖霊の加護を強く受けたものに与えられるとされている。


※※※※※※※※※※


「で、お前もお嬢にほだされた口か?」

「……そんなんじゃない」


 ニヤついた顔で尋ねるデルトから顔を背け、素っ気なく答える。


「それにしちゃ、急にウチのことを教えてくれってよ」

「……必要だろ、これから」

「でもよ、それだったらシャルにでも聞けばいいじゃねぇか。同じ側付きだろ?」

「それができれば、苦労しない」


 王女アリサの側仕えに任命されて数日、自分を連れ回すアリサとは対象的に、シャルからは露骨ろこつ敬遠けいえんされ、警戒し続けられている。


「まぁ、アイツみたいなのも必要なのさ。敵は外だけとは限らねえからな……」


 デルトの言葉に眉をひそめる。彼は、小声で王国の内情を話してくれた。


※※※※※※※※※※


 聖霊の顕現けんげんは数十年から数百年に一度。滅多にあるものではないらしい。


 その聖霊が突如姿を現したのが数年前。


 聖霊は王家の者から力あるものを選ぶ。自らが導くに相応しい相手を。


 そして、選ばれたのはアリサだった。それが王家の力関係を変えた。


 彼女には二人の兄がいる。

 兄たちは幼い頃から王位継承の権力争いに巻き込まれ、議会、貴族の思惑に踊らされながら育った。


 末っ子の王女には無縁だった争い。それが、聖霊に選ばれたことで、彼女の立場を一変させたのだった。


※※※※※※※※※※


 ある日、届けられた書簡に目を通したアリサは、少し疲れた様子で小さくため息をついた。


「どうかしたのか?」

「お父様から。王都に戻ってこいと……」


 滅多に見せない沈んだ表情の彼女。


「アリサ、あなたは本来、王宮にいる立場。王のご命令ならば従わなくては」

「大丈夫、行くよ。私」


 シャルに向けて気丈に答えた彼女は、どこかいつもと違って覇気が感じられない。


「それに、刻限こくげんが近い。そろそろ準備を始めないと。シャル、デルトリクスに準備をお願いしておいて」


 アリサの言う刻限こくげんが何のことか分からず、会話に入って行けずにいると、不意に彼女が近寄って来た。


「あなたは、私と一緒に王都に来て」


 そう言うと、彼女は部屋を出て行く。

 最後に見た彼女の目は、自分に不安を訴えかけているようだった。

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