第30話:生け贄の村
意識を取り戻すと、後ろ手に
そこへ、一人の老婆が近寄って来るのが分かった。
「お若いの、目が覚めたかね?」
「……ここは?」
聞かなくても薄々と気付いていたことを目の前の老婆に尋ねると、老婆は
「……意外に落ち着いとるのぅ。ここは北の外れの村さ。こんな時期に森なんぞに倒れていて、小鬼どもに喰われてしまうぞ?」
「えぇ、全く……。それで、どうして俺は縛られているんですか?」
「
周りには武器を持った村人が立っており、その中の一人は自分から奪った装備を付けていた。初めから、自分をここから生きて返すつもりは無いのだろう。
「時に、お前さんに聞きたいことがあるんじゃが?」
「……何ですか?」
「なぁに、どうやら儂らの大切な
「貢物?」
「五つの内、二つは役目を果たしたようじゃが……、お前さん知らんかね?」
明らかに生け贄の少女たちのことを指している口ぶりの老婆は、こちらの方へ近づいて来るなり、足でこちらの体を
「そうそう、一人は綺麗な栗色の髪の毛をしとったかのぅ。ちょうど、お前さんの服に付いておったような……」
それは、肩を貸してくれた少女のものだ。恐らく、悪路を進んでいる際に付いていたのだろう。
それを見た周りの村人たちは、怒り狂ったように
「
「殺せぇ! 殺せぇぇ!!」
投げつけられた石の一つがこめかみに当たり血が流れ出すと、村人たちの興奮は一気に高まっていった。しかし、そんな村人を老婆が片手を上げて
「なぁ、お前さんよ。盗んだ物を返してくれんかのぅ?」
「……返して、どうするつもりだ?」
「もちろん、再び
「……どうして、平然とそんな事が出来るんだ? 同じ村の子たちじゃないのか?」
自分から質問の意味が分からないと眉をひそめて首を
「お前さんは、家畜に同情するのかね?」
それを聞いた村人たちも、大声を上げて笑い始める。その
「さて、
その言葉を聞いて、武器を持った者たちがこちらにジリジリと詰め寄って来た時だった。
「お、
一人の村人が、老婆のもとへ駆け寄る。
「なんじゃ、これからと言う時に……」
「小鬼! 小鬼だ! 森から小鬼の大群がぁ!」
「何を馬鹿な……」
そう言う老婆とは
※※※※※※※※※※
数百は居ようかという
暴走は食い止めたが、
生け贄は、皮肉にも
「大婆様! どうしたら!?」
「どうする? 逃げるに決まっておろう」
「辺り一面小鬼だらけ、どこに逃げるんだ? も、もう、お終いだ……」
そこらじゅうから聞こえてくる木を叩く音とキーキー、ギャーギャーという鳴き声に村人たちはパニック寸前だった。
「外壁の周りに人をやれ……」
老婆や武器を持ったものが、一斉にこちらを見る。だが、
「外壁沿いに人を配置して
「お、お前。何のつもりじゃ」
「いいからやるんだ! 死にたいのか!!」
その大声で、村人たちは次々と動き出した。
内心、この村の者たちの事など、どうでも良いと思っていた。だが、このままでは小鬼に全滅させられるのは時間の問題。
そうなれば、無事に帰ると言った約束を果たす事が出来ない。
怒りを奥歯で噛み殺し、村人たちの戦況を見守るしかなかった。
※※※※※※※※※
戦況は予断を許さない、一進一退の状態だった。
外壁の壊された場所では、武器を持った者が応戦し、他の者が穴を
元々、大きな丸太を使用していたためか、外壁は意外にも
「……なんじゃ、意外に大したこと無いのぅ」
隣に立つ老婆は戦況を見つめて、そんな事をいい出した。確かに今のところは村に大きな被害は出ていない。今のところは…。
吹き矢の毒はどうやら
「さて、お前さんには貢物の落とし前をつけてもらわなけりゃのぅ」
「……落とし前?」
「なぁに、手足を縛って小鬼の中に放り込んだら、どうなるかと思ってのぅ」
老婆が余裕そうな笑みを浮かべ、そんな事を言っていた時だ。ついに、恐れていたことが起こりはじめた。
「大婆様! 小鬼の奴ら、毒矢を射掛けてきやがった! 北側に人数が足りない」
「大婆様! 大門に火矢だ! け、煙が!」
「大婆様! 補強材が足りない! 早く人を…」
あちこちから、戦況の
「……大婆様!」
「ええい、黙れぇぇ! 今度は何事じゃ!」
ついに限界と見える老婆が怒鳴り散らすが、その村人は予想外の事を言い始めた。
「こ、小鬼が引いていった……」
「な、なんじゃと!?」
確かに、今まで聞こえていた鳴き声や外壁を叩く音などは無くなり、不気味な程に静かになっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます