第17話:覚悟
王宮から戻ると、アリサは「今日は休んで」と言い残して自室に閉じこもってしまった。
「まさか、あんなに
「あの子は元々、
心配そうにしながらも、部屋を後にするエマを追う。そもそも、自分には知らないことが多すぎた。
「あなたも、もう休んだらどうですか?」
「いや、大丈夫です。それより、北の地で何をするんですか?」
自分からの質問にエマは歩みを止めた。
「……そうですね。あなたには、少し話しておいた方が良いでしょう」
※※※※※※※※※※
エマに先導されて広間へ向かうと、そこで彼女は先ほどの質問に答えてくれた。
「……アリサが命じられたのは、簡単に言えば
「ゴブリン?」
ファンタジー小説で有名な魔物の名前には、聞き覚えがあった。彼らは、大抵の物語で弱い部類の魔物として登場していたと思う。
「
エマの表情が少し
「でも、戦争が始まるって……」
「それは隣国の話しです。王は、そこでテミッド王子に
「
彼女は、目を伏せて小さくため息をつく。
「帝国の侵攻は珍しくありません。数年毎に小規模な小競り合いを繰り返し、その都度、ゴンドに
……勝てる
なるほど、勝ちやすい戦いに第一王子を連れ、国内の
「あの、第二王子は?」
「ノルド王子には、軍の指揮権が与えられていないの。王がお決めになられたのだけれど……」
それでアリサに
「このぐらいにしておきましょう。明日には、アリサも落ち着いているでしょうから」
そう言うと、エマは自室に戻って行った。
※※※※※※※※※※
「……ごめんなさい、ここまで付き合わせて」
翌日、自室から出てきたアリサは自分を呼びつけるなり、こんなことを言い出した。
「……なんだって?」
「あなたは、ここまでと言ったの」
目の前にいるアリサは、いつもの彼女ではなかった。それは、王宮のときに見た感情を殺した彼女の顔だった。
自分の目を見ようともせず、一方的な態度が頭に血を上らせる。
「ふ、ふざけんな! お前が、わがままに付き合えって言ったんだろ!」
「……、話は終わりです」
取り付く島もなく、彼女はその場を去っていった。
「……やはり、こうなりましたか」
「やっぱり?」
近くで見ていたエマを思わず
「あの子は、あなたを危険なところに連れて行きたくないんです。命の保証が出来ませんから……」
「命? どういうことですか?」
昨日、あまり脅威ではないと言っていた魔物の討伐。多少の危険はあるだろうが、足手まといになるつもりはない。それが、どういうことなのか。
「昨日も話しましたが、小鬼単体なら問題ありません。規模が問題なのです」
「どのくらいなんですか?」
「以前の記録では、数千から一万と言われています」
「い、一万!?」
予想と桁が違っていたことに、思わず声をあげる。
「あなたは
昨日、安堵した自分が馬鹿らしい。こちらも立派な戦争という訳だ。
「加えて、今回はエルドへの
「……アリサの兵力は?」
「エルド派兵の後方支援や各都市の警備などで、北に向かえるのは多くても二千弱」
兵力差は五倍以上。下手をすれば全滅する可能性すらある。そうか、王の命令は、
「王は、北の地でアリサを殺すつもりですか」
「……」
エマの沈黙が、肯定を意味していると分かる。
「ヒサヤ。あなたは、あの子に命を預ける覚悟はありますか?」
真剣な眼差しでエマが問うが、すぐに答えることが出来なかった。
それを見たエマは、ゆっくりと背を向けた。
「……残念ですが、今のあなたを連れて行くわけには行きません」
そう言うと、エマも自分を置いて部屋を出ていってしまった。
一人残された自分がとても情けなくて、強く握った拳を開くことが出来なかった。
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