第7話:襲撃者

「チックショウ! どうしてこうなる!?」


 小太りの男が、わめき散らす。


「……仕方ない。ちょっとした手違いだ」


 脇に立つ、ひょろ長の男が答える。病気のように色白の男は、憲兵の制服を着ていた。


だと? 下調べで、手練てだれの連中が出払ってるのは分かってただろがぁ!」

「わぁったからよぉ! 早く戻ろうぜ? 獲物がいなくなっちまう!」


 もう一人、憲兵の制服を着た男が、苛立いらだちながら問う。


「バカかぁ!? とっくに戻ってる! 死にてぇのか? てめぇは!」


 小太りの男の叫び声に、チッと舌打ちた男はひとりつぶやく。


「あの可愛い子、死んでなけりゃいいなぁ」


 舌舐したなめずりしながら、薄く不気味に笑う男の目には、煙に包まれる村が映っていた。


■■■■■■■■■■


―― 数時間前


 村の入り口には、大人たちが集まっていた。


「……どうしたの?」


 ステラは村人のひとりに尋ねた。


「あぁ。商人のロイが、村の外に来てるんだ。なんでも、憲兵を連れてきたから村に入れろと……」


 村人がそう教えてくれた矢先、外から呼び掛ける声がする。


村長ダンさんとのお約束通り、憲兵の方をお連れしました! どうか村に入れてください!」


 その声を聞いて、大人たちが集まる。


「どうする? ダンからは、村に人を入れるなと……」

「知らないやつって話だぞ? 相手はロイだ。しかも、憲兵様まで連れてるって……」


 そうこう村人が論議ろんぎしていると、今度は違う人物の声があがる。


「おい! 村人ども! 我々、憲兵団が直々じきじきに訪れているのに、なんたる無礼か!

 即刻、この門を開けなければ反逆罪にしょす!」


 その声を聞いた村人たちは、門を開くことを決めた。


 ギィィィと開いた門の先には、商人と憲兵の姿をした男が二人、それに数人の冒険者のような男たちがいた。


 しかし、ステラはハッと気付く。

 憲兵の姿をした男たちに、見覚えがあることに。


 そして冒険者の一人、小太りの男が言う。


「全く、手間掛けさせやがって……。

 お前たち、の時間だ!」


 そう言うと、商人が連れてきた男たちは村人に襲いかかった。


※※※※※※※※※※


 何が始まったんだ? と、ロイは思った。

 急にリーダーの男が宣言したと思ったら、自分の連れてきた男たちは略奪を始めた。


「な、何してるんです?!」

「あぁ? 何って、見りゃ分かるだろ?

 おい! 手練てだれれどもは留守だ! ゆっくりでいい。女は好きにしていい、歯向かう奴は殺せ!」


 そこで、ようやく自分が盗賊の片棒を担がされていたことに気付く。


「あ、あなた達ですか!? 村を襲っているっていうのは!?」

「おうよぉ。この間の村じゃ、悪戯おいたが過ぎたが今回は上手くいきそうだ……」


 不敵に笑う小太りの男に、掴みかかる。


「ぼ、僕を、だましたのか?」


 小太りの男は、その手を振り払うと、


「……兄ちゃんには世話になったなぁ。

 礼に、命は取らねぇでやるよ、さっさと失せろ!!」


 こちらを睨み付ける目は、まるで虫けらをみるようだった。


「うわぁぁぁ!」と、叫び声を挙げながら商人は街道を走り去って行った。


「いいんですかい?」


 小太りの男に仲間が問う。


「ふん、かまやしねぇ。

 どうせ、すぐに魔物の餌食えじきだ」


 そう言うと、ちょうど略奪品を運ぶのにおあつらえ向きな、ロイの荷馬車を村の中にいれるように命じた。しかし、その中にはがあることを、小太りの男は知らされていなかった。


 自分も、略奪に加わろうと村に入ろうとしたとき、黒いかたまが彼のわき通過つうかする。


 その塊の正体に気付いた瞬間、襲撃者達は村に火を放って、一目散いちもくさんに逃げ出したのだった。


■■■■■■■■■■


 村の入り口に着いたとき、村はほのおつつまれ、大きなけむりをあげていた。


「こ、こりゃ一体?」


 元冒険者の男が目をらすと、変わり果てた村人達が横たわっている。

 よく見れば、遺体は剣で切られたり、刺されたりしたと言うよりも、けものに襲われたようにボロボロだった。


「くそぉ! おい、手分けして生き残りを探す……おい?!」


 彼の視線の先には、放心状態で立ち尽くす自分がいた。


―― 何もかもがそっくりだった。


 煙のいぶかしさも。

 辺りに満ちる死の臭いも。


 この地獄せいかいに、自分は呼ばれた。


 なぜ?

 一体、なんのために?

 俺を痛めつけて楽しんでいるのか?


―― こんな、偽者まがいものの自分に


「しっかりしろ!!」


 ほおを叩かれ、我に帰る。


ほおけてる場合か! 生き残りを探すんだ!」


 二人が進みだそうとしたとき、炎の奥でうごめく、黒い影が現れた。


 ゆらゆらとこちらに近づいてきた影が、徐々に姿を鮮明せんめいにしていく。


「……冗談だろ」


 やがて、元冒険者の男が驚愕きょうがくの声を漏らし、炎に浮かび上がった影は、その姿を二人の前に現した。


狂狼ワイルドウルフ……、だと……」


 黒々とした毛並みにおおわれたおおかみが、冷たい目でこちらを見据えていた。

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