第2話 ◇大学入学前後
「私もあんな風に、はきはきものを言えるようになりたいなぁ~」
「止めてくれよ。
芽衣は今のままがいい、今のままズケズケ言わない芽衣がいいよ」
「そう?
街木くんに今のままの私がいいって言われてちょっと安心した」
◇ ◇ ◇ ◇
街木くんにはそう言ったけれど……
大人しい私がいいって言うけれど……
街木くんはきっと以前彼女に告白していたのだから、ちょっと矛盾を
感じてしまう。
街木くんが好きになった頃の彼女は、今とは違う印象だったのかも
しれないけれど。
当時、街木くんの瞳に映ってた彼女の印象ってどんなだったんだろうって
少し気になる。
少し勝気そうで、背が高くオフホワイトのフェミニンなトップスが似合っていて
とっても奇麗な人だった。
笑顔を浮かべて余裕で街木くんに話しかけていた
大きいけれど品の良い口元から覗く真っ白な歯が印象的だった。
見た目も中身も私とは正反対の彼女を街木くんが好きだったことを知って、
落ち込んでる自分がいた。
ばか、だな……芽衣。
比べるなんて!
学食に仲良く並んで座っていた街木と芽衣の元から、真理子は颯爽を装い、
学食の入ってる建物から勢いよく出て来たものの……。
真理子の目力のあるシャープな眼には、後悔の念が滲み出ていた。
そう、今さらながら真理子は、街木をいとも簡単に振ったことを
後悔していたのだ。
自分は街木の良さを分かっていなかった。
当時、他校の医学生に夢中になっていたから。
医学生の男は所謂合コンとやらで、出会った相手だった。
笑うしかないが、夢中になっていたのは自分ばかりだったようで、
その男は4股5股していたというクズ男だった。
いくら将来有望株で玉の輿を狙っていたとはいえ、流石に5人のうちの1人は
ないわぁと思った。
あの男の女癖の悪さはきっと一生ものだろう。
あれだけの恵まれた条件とあの
何より、周りの女どもが放っておかないだろう。
いくら玉の輿狙いといえども、まだうら若き真理子にATMだけの夫を
良しとはできるはずもなく、5股がわかった時点で真理子は5人のうちの1人から
身を引いたのだった。
そしてまだ4人も女のいる彼は真理子を追いかけても来なかった。
そのことで真理子は、その男にとっての自分の値打ちというものを
まざまざと突き付けられる羽目になったのである。
夢中になっていた頃とは裏腹に、相手の男のことはもちろん
自分のことも、馬鹿な奴だと冷笑するしかない真理子だった。
◇ ◇ ◇ ◇
彼女なのか友達なのかは知らないけれど、ご飯を一緒に食べる相手が
出来たみたいで、私を見るアイツの醒めた目。
どうやら立場が逆になったようだ。
他の女に心を奪われている男を追いかけるのは得策ではないわね。
見た目と裏腹に妙に生真面目な
まっ、おしいことをしたってちょっぴり悔しいことは悔しいけれど……。
あの日街木と食堂で別れてからそんなふうな思いに囚われていた真理子
だったが、若くて華やかで美しい真理子のこと、半年も過ぎると新しくできた
イケメンの恋人と連れ立って校内や駅前を歩く姿が見受けられるようになった。
◇大学入学前後
――― 芽衣は他者との関わり方や距離感を測るのが苦手だった ―――
学校という集団生活の中では、危うく一人、所謂ボッチに
なってしまいそうになったりもして、何度かドキドキが止まらない
こともあったけれど、なんとかその時その時を凌いできたという
感じ。
ほんとに危うい綱渡りのような学校での集団生活を経て、
最後に誰も知り合いのいない大学へとやってきた。
不器用にしか生きられない自分は今度こそ、ボッチを覚悟しなければ
ならないかもしれないと芽衣は思っていた。
そして入学して授業が始まると、早々と友人関係を築いてゆく為、積極的に動いているそこかしこの学生たちを遠巻きに眺めながら、自ら動けない自分は大学生活の
4年間、きっと独りなのだろうなぁと改めて思うのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
ボッチの大学生といえば、ある時見たTV某番組のドキュメンタリーの中に、
友人を作りたくても作れないでいる大学生の姿があった。
大学のどんな場所に居ても彼は異邦人のようだった。
最初の挨拶はなんとか交わせるものの、その先が続かないのだ。
友人関係になれるまでの過程、そこまでの会話が成り立たないのだった。
画面の中にいる男子学生は友人を求めてクラブ活動などにも
出向くのだが、誰一人として彼に声をかけない。
その中には、最初に言葉を一度交わした者もいるのだろうが、
それはみごとに、誰もが、彼がそこには居ない者のように振舞うのだ。
対人能力の著しく低い芽衣は、見ていて身につまされるのだった。
◇ ◇ ◇ ◇
そんな風に不安を抱えて、芽衣の大学生活ははじまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます