第16話 修裕学院高校

 3月20日、早朝


 今日は学校への挨拶兼制服の採寸に行く日だ。朝食を終え、自室で一通りの支度を済ませ鏡の前に立つ。

 鏡には紺のスキニーに白のTシャツ、そして黒のテーラードに身を包んだ少年が立っていた。私服で学校内に入るのは少し気が引けるが、これならば目立つことはないだろう。

「広行、準備できた?」

 そんな風に自分の服装を分析していると、部屋の外から雪の声が掛かった。

「うん。玄関で待っといて」

「はーい」

 そして俺は必要書類等が入ったトートバッグを肩にかけて雪の後を追った。


 玄関ではちょうど雪が靴を履いているところだった。

「おまたせ」

「うん、じゃあ行こっか?」

 俺は頷き、靴を履いた。

「「いってきます」」



 修裕学院までは、まず宣里山駅で阪急に乗り、そこからJRに乗り換えて学校の最寄り駅で降りるそうだ。

 今日の学校への挨拶は俺一人でもよかったのだが、行き方が分からないのと今日は偶然雪の部活があったこともあり、一緒に行くことにした。

 マルーンカラーの電車から降りて、また乗り継ぎの駅まで歩く。

 せっかくなので話でもしながら歩くことにした。隣には黒と赤のチェック柄のスカートに黒ブレザーに身を包んだ雪がいる。彼女自身の大人っぽい雰囲気も手伝っているのか、とても様になっていた。

「雪って学校では結構モテるんじゃない?」

「う~ん……まぁ確かに時々告白されたりもするけど…………今のところ誰とも付き合う気はないかな」

 雪は少し困った表情で返した。

 なるほど、どうやらモテる側もなかなか大変なようだ。俺はモテたことがないので同情のしようもないが。

 剣道によって絞られたプロポーションと大人っぽい美人顔を持つ雪のルックスは誰が見ても文句のつけようがないほど優れている。

 …………学校での彼女との接し方を考えておかなければならないな。



 そうこうしていると目的の駅に着いていた。JRに乗り換えて揺られること10分ほどで、学校の最寄り駅である荊木いばらぎ駅に着いた。

 まだ新年度が始まっていないので学生は少なかったが、サラリーマンやOLが多く見受けられた。今日もお仕事頑張ってください。

 そして駅から歩いて5分ほどで修裕学院についた。一見した感じでは、特に変わったところもなく普通の学校だ。

「校長室に行けばいいんだよね?」

 雪が尋ねてくる。

「うん。案内よろしく」

 俺がそう返すと、雪はとびきりの笑顔を見せた。

「まかされました!」

 

 そしてすぐに校長室にたどり着いた。部屋の中からは人の気配がする。

「じゃあ私は部活にいくから」

「うん、ありがと」

 雪と別れ、足音がしなくなってから俺は小さくため息をついた。慣れない校舎に私服で入ることに緊張していたわけではない。

 原因は端的に言ってしまえば雪だ。

 すれ違った生徒たちが雪のほうへ視線を向け、次に好奇心や嫉妬がこもった目を俺に向けてくるのだ。後者は主に男子からだが。

 新たな学校生活に対し始まる前から不安を抱えたところで、俺は気持ちを切り替

えて戸をノックした。

「どうぞ」

 中から男性の声がした。

「失礼します」

 部屋の中に入ると、校長と思われる男性が座っていた。

「菊野くんですね」

「はい」

「ようこそ修裕学院高校へ。慣れないことも多々あるでしょうが、その中でも目一杯ここでの高校生活を楽しんでください」



 それから校長と少しだけ言葉を交わし、簡単に学校の説明をしてもらってから俺は校長室を出た。そして部屋を移動し制服採寸を終え、制服を受け取った。

 時計を見ると1時間ほどしか経っていなかった。まぁそれもそうか。特に大したことはしてないし。

 校内をうろついてみようかとも考えたが、私服姿でうろつくのに抵抗があったの

で断念して、一人で街並みを見ながら帰宅した。

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